• HOME
  • 記事
  • ゴルフ
  • 周りから聞こえた『早く勝て~』の声 岩井明愛の初優勝で流れた“ふたり”の涙【2023年涙のワケ】

周りから聞こえた『早く勝て~』の声 岩井明愛の初優勝で流れた“ふたり”の涙【2023年涙のワケ】

岩井明愛(右)は千怜の胸に飛び込んで涙(撮影:米山聡明)

国内男女ツアーは2023年のシーズンが終了。男子は中島啓太が賞金王を戴冠し、女子は山下美夢有が2年連続で女王の座についた。そのなかでは、今年も“初優勝”、“復活V”などの見出しが踊り、印象的なシーンの数々が人々の心を打った。そこで選手たちが流した『涙』にスポットライトを当て、シーズンを振り返ってみよう。

最終ホールで2メートルのバーディパットがカップわきを抜けたときは思わず苦笑いを浮かべた岩井明愛だったが、返しを決めると目にはすでに涙が浮かんでいた。今年4月の「KKT杯バンテリンレディス」で念願のツアー初優勝。両手を高く上げてガッツポーズをすると、グリーン側で見守っていた双子の妹・千怜の胸に飛び込んだ。

国内女子ツアーを引っ張る“最強ツインズ”として名を轟かせているふたり。2021年6月のプロテストで揃って一発合格を決めると、すぐさま下部ステップ・アップ・ツアーで千怜→明愛の順に姉妹2週連続優勝を飾った。年末のQTは不振に終わり、22年の開幕時は下部ツアーが主戦場となったが、ともにマンデートーナメント(主催者推薦選考会)を突破するなどレギュラーツアーでも活躍を見せていった。

そんな矢先、千怜が「NEC軽井沢72ゴルフ」でツアー初優勝を飾った。さらには翌週の「CAT Ladies」でも勝利し、史上3人目となる初優勝からの2週連続Vを達成した。

この偉業を明愛は素直に喜んだ。それでもその後、上位争いに加わりながらなかなかカップを掲げることができず、周りからは『早く勝て~』という声ばかりが聞こえて仕方がなかった。

妹が好成績を残していることに“焦り”がなかったわけではないと思う、と家族から当時の様子を聞いたことがある。それでも、千怜の活躍は「嫌になったことはなかった」と明愛は言った。明愛にとって千怜は「一番近い存在の“仲間”。双子なので片割れが頑張っていると自分も頑張ろうと思える」といい、自身の原動力に変えてその歓喜の瞬間を待った。そしてそれは、プロ3年目の春に訪れた。

表彰式後の会見で、一番最初に出てきた言葉は「ホッとしています」という安どの気持ち。見守った千怜も「自分のことのようにうれしいです」と涙を流し、ハグで喜びを共有したその光景は、千怜が初優勝した瞬間のプレイバックのようだった。

そこから「住友生命Vitalityレディス 東海クラシック」で2勝目、翌週の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」も制して2週連続V(通算3勝目)を達成したが、この時はいずれのフィナーレも満面の笑みで迎えていた。最終戦まで山下美夢有、申ジエ(韓国)と年間女王争いを演じ、メルセデス・ランキングは3位で終えた飛躍の一年。その物語はうれし涙から始まった。(文・笠井あかり)

関連記事