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「強くなくてもチャンスはある」チェコに留学した国公立大学生がプロ卓球選手になった話

1000人以上が詰めかける「プレーオフ」

――ちなみに、チェコリーグでは優勝クラブはリーグ戦の順位のみで決めるんでしょうか?
砂川:エキストラリーガは、レギュラーシーズン後のプレーオフで優勝チームを決めます。
――Tリーグやブンデスリーガと似ていますね。
砂川:ただ、プレーオフにはエキストラリーガ全10チーム中8チームが参加します。

しかも、プレーオフ自体はトーナメント方式なんですけど一発勝負ではなく、プロ野球のクライマックスシリーズみたいに先に3勝したチームが勝ち上がれる仕組みなんです。

――プレーオフもめっちゃ試合するんですね(笑)

ちなみに、決勝戦も3本先取ですか?

砂川:決勝だけは一発勝負です。

ちょうど昨日プレーオフの決勝があって、チームのオーナーに連れて行ってもらったんですけど、お客さんが1000人以上入っていて、ものすごく盛り上がってましたね。

――え! 1000人もお客さんがいたんですか?

エキストラリーガ
写真:チェコリーグプレーオフファイナルの様子/提供:砂川朝博

砂川:はい。

チェコの人口は日本の10分の1ぐらいなので、日本の人口に換算したら1万人ぐらいですかね。

――それは、すごすぎますね…。
砂川:あとは、オーナーがVIP席を用意してくれたんですけど、食べ飲み放題もついていたんですよ。

しかも、僕としてはホットドッグとかフランクフルトみたいな軽食をイメージしていたんですけど、ビーフシチューや本格的なチェコ料理が出てきて、びっくりしました。まさに「VIP」って感じでしたね(笑)

VIP席で実際に提供された料理
写真:VIP席で実際に提供された料理/提供:砂川朝博

――(ビーフシチュー食べながら卓球観戦とか、最高すぎんか…)

1部リーグにはあのレジェンド選手も

――トップのエキストラリーガには、どのような選手が参戦しているんでしょうか?
砂川:僕のチームだとフェリペ・オリバースというチリ人の選手がいるんですけど、彼は強いですね。

フェリペオリバース
写真:2021年のパンアメリカン選手権男子団体で銀メダルを獲得したフェリペ・オリバース(チリ)/提供:ETTU

砂川:あとは、元チェコ代表のマレック・クラセックですね。40歳を超えているはずなんですけど、僕なんか全然敵わないですね(笑)

マレック・クラセック
写真:2002年のドイツオープンで元世界ランク1位の王皓(ワンハオ)に勝利したマレック・クラセック(チェコ)/提供:チェコ卓球協会

砂川:他のチームだと、ピーター・コルベルもいますね。コルベルとはそれこそ、昨日写真撮ってもらいました。

砂川さんとコルベル
写真:砂川さんとコルベル/提供:砂川朝博

――さすがはコルベルですね…!

チェコリーグと言えば、少し前だと森薗(政崇)さんも参戦していましたよね?

森薗政崇(BOBSON)
写真:森薗政崇(BOBSON)/提供:ittfworld

砂川:そうですね。

あと、アジア人だと台湾の江宏傑(ジャンホンジェ)も参戦していたみたいですね。

写真:江宏傑(琉球アスティーダ)/提供:YUTAKA・アフロスポーツ
江宏傑(ジャンホンジェ)は2016年にエキストラリーガのTTCオストラヴァに所属して、24勝5敗の成績を残した(写真はTリーグ・琉球アスティーダ所属時)/提供:YUTAKA・アフロスポーツ

「練習なしでダブルス」は“ヨーロッパあるある”

――はじめて試合に出場したときは、どんな気持ちでしたか?
砂川:デビュー戦は緊張しましたね。やっぱりアジア人が少ないので、日本人っていうだけでも注目されるんですよ。

あと、これはたぶんヨーロッパあるあるだと思うんですけど、練習なしでいきなり「お前、ダブルス行ってこい」って言われて(笑)

――あるあるなんですね(笑)
砂川:たぶん(笑)普段の練習でも、ダブルスの練習してる姿をあんまり見たことがないですね。
――ちなみに、試合の結果は?
砂川:練習もしていないし、最初はほとんど言葉も通じなかったので、ダブルスは普通に負けました(笑)

けど、そのときは調子が良くてシングルスで3勝したんです。

――すごいですね!

新聞
写真:砂川さんは所属チーム初のアジア人選手だったそうで、後日試合の内容が記事化された/提供:砂川朝博

砂川:そのときは、ベンチも「おおー!」ってなってちょっと気持ちが上がったんですけど、次の試合ではシングルスで3敗したんで、なんとも言えなかったですね(笑)。

強くなくてもチャンスはある

――砂川さんご自身は、今後もヨーロッパで選手としてプレーしようと考えていらっしゃるんでしょうか?
砂川:高校までは「インターハイで勝つぞ!」という気持ちで卓球に打ち込んでたんですけど、最後のインターハイがコロナの影響でなくなってしまったこともあって、「大学では卓球以外のことにも挑戦してみよう」と思っていました。

なので、高知工科大学にも一般入試で入りましたし、今回も経済を学ぶためにチェコに来ました。卓球をやめることはないですけど、選手としてバリバリ続けようとは今は思ってないですね。

砂川さん
写真:高知工科大学卓球部で試合に出たときの砂川さん(写真奥)/提供:砂川朝博

――では、大学卒業後は日本で一般企業に就職されるということでしょうか?
砂川:今は経済の勉強が面白いなと思っているので、海外の大学院に進学するか、海外で就職したいな、と思っています。

日本での就職も考えていますが、その場合でも海外出張がある会社がいいですね。卓球はヨーロッパならどこでもできるということが、今回わかったので。

――それは私も勉強になりました。ヨーロッパに行く際は、絶対にラケットとシューズを持っていきます(笑)
砂川:ぜひ(笑)

あと、僕みたいな一般生で勉強にも力を入れながら卓球をやっている選手や、めちゃくちゃやる気はあるけど実力がそこまで高くない選手って多いと思うんですけど、そういう方々には「卓球が強くなくても、海外でプレーするチャンスはいくらでもあるよ」って、伝えたいです。

仮に将来卓球選手にならなくても、ヨーロッパで選手としてプレーした経験は、就職活動やその先の社会人生活で間違いなくプラスになると思うので。

――それは間違いないですね!

インタビューを終えて

約1時間ほどのインタビューは、本当にあっという間に終了した。

異国の地で選手としてプレーすることの楽しさや大変さは経験した者にしかわからないが、この記事を通して、ほんの少しでもその感覚を味わってもらえれば、幸いだ。

そしてなにより、「今は強くなくても、やる気があって行動を起こしさえすれば海外でプレーするチャンスはある」という事実は、これからさらに成長したい学生選手や、もっと長く現役でプレーを続けたい社会人選手など、数多くの卓球人の背中を押すものとなってくれるだろう。

最後に、後日砂川さんから送られてきたメッセージで、この記事を締めさせていただく。

砂川:こんなにいい機会を提供してくれたTJ Sokol、留学システムを提供してくれた高知工科大、金銭的にサポートしてくれた家族にも感謝しています。

この記事が公開されることで、僕のような勉強も頑張りたい国公立大生、地元の宮古島のような離島や僻地で頑張る選手たちのモチベーションになってくれると嬉しいです。

取材・文:和田遥樹

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