スポーツ界のアベンジャーズが明かすハンドボールリーグのビジョンとは

「20代の理事がいてもいい」

──先ほどのお話で「理事会が楽しい」とありました。ハンドボールリーグの理事会は年齢層もかなり低く、他の競技団体と比べると異例だと思いますが?

米田 通常は理事会を構成する方々の年齢は60ぐらいが平均だと思いますから異例ですね。それはスポーツ界の特殊性で、役員の任期の関係や無報酬であることから、ある程度仕事を終えられた方、金銭的に余裕がある方で理事を構成することが多いです。

しかしアドバイザー的な位置付けではなく、しっかりと時間的にコミットする人間も必要です。これは20代や30代がよくて、40代や50代、60代がダメと言う話ではありません。一般論として、若い世代だと過去の成功体験に囚われないスピード感や柔軟性、政治的な駆け引きや忖度が比較的少ないということかと思います。

後はトレンドの部分。世の中のトレンドをどの世代が作っているかという理解は、スポーツ界のエンタメ性を考えたり、マーケティングをやる上で重要です。例えばオリンピックの開会式や閉会式は、世代で感想が違うなと感じています。ミレニアル世代とZ世代の価値観も大きく違っていて、ミレニアル世代を先端だと思っていたらもう大間違いだよと。

個人的には20代の理事がいてもいいと思っています。若者たちと話していると、自分の固定観念を覆されるし学びが多い。「30代若い」と言われる業界はなんとかしないといけないと思っています。

──それこそハンドボールではTikTokで有名になった土井レミィ杏利選手がいます。

米田 レミたんのあの価値観を業界にインストールしたいですね。「競技だけに集中すべし」って思う人はいらっしゃいますが、世界的には競技で得られる収入よりもスポンサーからの収入が多い選手は増えています。

発信力や価値観、人間性に付随してファンやスポンサーがついてくると思います。競技だけをやればいいという考え方はもうだいぶ古いかなと。これは生態系をどう考えるかということで、競技をする草の根の人たちの会費で競技全体の生態系をなんとかするのか、見る人やスポンサーも含めた大きな生態系を考えるのか。つまりは目線の違いだと思います。

──ハンドボールが目指す生態系は?

米田 ハンドボールリーグには実業団があるので、企業というものを通じたスポンサー興行の側面が強い。日本特有の実業団運営の良さもあります。ただ、観る層へのアプローチを積極的にするかどうかは産業規模に影響します。ファン・サポーターに対して価値提供をしっかりするのかどうか。最終的にはどの円で生態系を回すのかという話だと思います。大きすぎると疲れますが、少しずつ大きくしないと生態系が小さいままで終わると思っています。

──ハンドボールリーグがやろうとしていることが成功モデルになると、他の業界も取り入れようというムーブメントが起こると思います。理事会の方々はスポーツ界に変革をもたらせたいとの思いがあるのでは?

米田 それはハンドボールリーグメンバーみんな思っています。葦原さんも太田さんとも他の競技にも参考になるモデルを作ろうとよく話しています。競技を愛することは大切だが、仮にその競技出身者じゃなくても、経営できる人が増えるのはいいことだし、異なる視点を組み合わせるといい化学反応が起きますよ。スポーツ団体の1つのあり方というふうに思ってもらえるといいですね。

■プロフィール
米田惠美(よねだ・えみ)

2004年に新日本監査法人入社、 2006年に慶應義塾大学経済学部卒業。公民様々な業種の監査や経営アドバイザリーを担当し、2013年に独立と共に組織開発パートナーである(株)知惠屋を共同設立した。米田公認会計士事務所代表。保育士資格を持ち在宅診療所の立ち上げにも従事した。2017年にJリーグ フェローを経て、2018年よりJリーグ理事(社会連携・組織開発担当)としてスポーツ×社会課題の推進とガバナンス改革に従事。2021年からはハンドボールリーグの理事に就任。

■クレジット
写真:JHL提供
インタビュー:北健一郎(Smart Sports News編集長)、上野直彦
構成:川嶋正隆

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