太田雄貴の危機感。「スポーツのライバルは、他の娯楽です。他競技ではないんです」

現役時代に、北京オリンピックやロンドンオリンピックのフェンシング競技で銀メダルを獲得した太田雄貴氏。日本フェンシング協会会長に就任後は、様々な改革を実施してきた。

そんな太田氏が、2021年4月1日に発足したばかりの日本ハンドボールリーグの理事に就任して大きな話題となった。

太田氏はなぜ、ハンドボールというこれまでとは全く違った競技の理事を引き受けたのか。
Smart Sports News 編集部は太田氏にインタビューを実施し、ハンドボールリーグ理事就任の経緯や求められているもの、さらにはハンドボールリーグの未来について話を伺った。

「それってなんで?」を大事にしてきた

──太田さんは2017年から4年間、日本フェンシング協会の会長を務められました。

太田雄貴(以下、太田) これは自分の講演などでお見せしている、昔の全日本フェンシング選手権大会の写真です。ロンドンオリンピックで銀メダルを獲った直後に行なわれた大会で、ロンドンのファイナリスト2人が決勝を戦っている場面です。

──これは……“無観客開催”ですか?

太田 われわれは時代を先取っているので、コロナがない時から無観客の対応をしていました(笑)。

パッと見てお客さんがいないことも問題ですが、それ以上にゴミが落ちていることやフロアシートがめくれているなど、基本的な部分ができていない。さらに、お客さんとの距離も遠いです。当時のフェンシング協会は、そもそもお客さんを入れようという発想がなかったのです。

僕自身が現役時代から大事にしているのが「それってなんで?」という視点です。フェンシングは選手の顔が見えないですし、剣の動きが早い。そもそもルールがわからないなど、いろいろな課題がありました。

──その課題を克服した要因の1つが、デジタル技術との融合だった?

太田 フェンシングのルールがわからなくても、演出を工夫することでお客さんの満足度を高めることはできます。デジタル技術を用いたこともそうですが、試合と試合の合間にエンタメ要素を入れてみたり、会場をカッコよくしてみたりなどのアイデアに着想する。そうすると会場自体に付加価値がついているので、チケットの単価も上げやすくなります。

──各スポーツ団体は、課題を見つけて解決案が思い浮かんでも「お金がない」という結論に行きがちです。フェンシングでは、そこをどうやって変えていったのですか?

太田 お金は最後までありませんでしたし、足りなかったです(笑)。例えばプロ野球の収益の柱は、放映権、チケット代、グッズです。しかしフェンシングはそもそも観ている人が少ないため、放映権は取れない、チケットも売れない、グッズも伸びない。ほとんどがスポンサー頼りでした。

それまでは、1大会につくスポンサーは合計で数百万円ほどでしたが、僕が会長だった期間では最終的に5000万円ほど集めました。全日本選手権では、3日間の大会で8000万円を集めてくることもありました。

──そもそもお客さんが来なかった大会に、どうやって付加価値をつけていったのでしょうか。

太田 決勝を、別日に移動することですね。

フェンシングは柔道やレスリングと同様に”トーナメント競技”で、1日で予選から決勝まで完結します。結果、誰の試合がいつ始まるかわからない。会場に行ったらお目当ての選手が、すでに負けているかもしれませんし、勝ったとしても次の試合まで2時間待ちもありえる。ライトな層が硬い椅子で1日を通して試合を観るのは辛いことです。そこで対戦カードが早めにわかるように、まずは準決勝まで試合を進め、6種目ある決勝を別日に実施し、決勝戦の6試合がパックになったチケットを売りました。

また、プライベートで行った花火大会からヒントも得ました。実は、花火は1つ1つにスポンサーがついています。フェンシングも、6カード全てにゲームスポンサーを付けたんです。企業の皆さんはワン・オブ・ゼムで表示されるよりも、短くても自分たちで独占できる形が嬉しい。「この1試合だけ、御社のやりたい演出を入れられます」という形でゲームスポンサー枠を出すと、一瞬で売れました。

──ドラゴンクエストウォークとのコラボもその一環ですか?

太田 そうですね。ドラゴンクエストウォークさんとの取り組みでは、会場全体のトーンは合わせつつも、選手の入場曲がドラクエになったり、心拍数を表示するハートマークの部分をスライムにしてみたり。大会のトーンを崩すことなく、ワクワク、ドキドキするものが作れました。

──フェンシングが大きなインパクトを与えたのが全日本選手権を東京グローブ座で開催したことです。屋内競技の会場といえば体育館が当たり前という常識を覆しました。

太田 通常の大会では、予選は4面ほどのコートを使って試合をしますが、決勝は会場のコートを1つ作り直して実施します。試合数が多い予選を、東京グローブ座では実施できませんが、決勝なら1試合分のスペースがあればどこでもできます。

──逆転の発想ですね……。

太田 さらに、準決勝と決勝を別の会場でやるのなら、試合日程が空いてもいい。決勝のカードが確定してから、チケットをセールスできます。決勝を集約型にする、会場を変える、試合日程を空ける、この3つを変更するだけで、見え方は今までと全く変わります。

──現役引退からわずか2年、31歳で会長に就任され、数々の改革を実施されました。アスリート時代からノウハウの蓄積はされていましたか?

太田 実はノウハウなんかはなくて、自分は大したことないと思っています。ただ、うまくいっているところには何かしらの理由が必ずある。だから、何にでも興味関心を持つようにしています。人はめんどくさがり屋なので、行くまでは大変ですが、行けばなんとかなるものです。

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