B・ハーマン、初志貫徹で全英オープン初制覇【舩越園子コラム】

歓喜のラストシーンを迎えたブライアン・ハーマン。“何も変えなかった”ことが優勝へ導いたように見えた(撮影:福田文平)

今年の全英オープンは、初日から3日目までは暖かく穏やかな天候に恵まれていたが、最終日は一転、激しい風雨に見舞われ、気温も一気に低下した。優勝争いが進行するにつれ、どんどん激しさを増していった日曜日の天候は、80以上のポットバンカーを有する難コースのロイヤル・リバプールを一層過酷な舞台に変えていった。

2位に5打差の単独首位で最終日を迎えたのは36歳の米国人選手、ブライアン・ハーマン。そのハーマンを捉えて逆転すべく、ローリー・マキロイやジョン・ラーム、ジェイソン・デイといったメジャー・チャンピオンたちが必死の追撃をかけていった。だが、追いかける選手たちの決め手のパットは、ことごとくカップに嫌われ、彼らの苛立ちは増していった。

風雨が強まる中、パットしようと構えると、キャップのツバから雨滴がポトポトと滴り落ちて集中力が乱される。デイはついにキャップを取り、無帽で戦い始めた。ラームや新鋭トム・キムはキャップを逆に被ったりもしていた。フラストレーションを募らせたマキロイは、何度か奇声を上げていた。

しかし、ハーマンだけは、何も変えなかった。最初から最後まで、表情も服装もルーティーンも変えずに戦い続けたからこそ、最後には2位との差を6打へ広げ、見事な勝利を挙げることができたのだと私は思う。

ハーマンは3日目に出だしでボギーが先行しながら、その後に立て直したのだが、最終日も2番と5番でボギーを喫し、2位との差は4打へ、3打へと縮まっていった。しかし、4メートルのバーディパットをスルリと沈めた6番が転機となり、7番では8メートルを沈めて連続バーディ。その後もロングパットが冴え渡り、絶妙な距離感で着実にパーを拾っていった。

後半も13番のボギーの直後に14番、15番で連続バーディ。2位以下を5打も6打も引き離して上がり3ホールを迎えたハーマンは、しかし、大差をつけていても決して表情を緩めなかった。

キャディが差し出す傘の内側の骨に吊るされていたタオルを、ショットのたびにハーマン自身が手に取り、グリップとクラブヘッドについた雨滴を入念に拭き取ってから構えに入る。そして、手元を小刻みに動かしながらターゲット方向を見る独特のワッグルを10回前後も行なってからショットする。

風雨が激化したときも、野次を浴びせられたときも、ハーマンは表情を変えず、プレショット・ルーティーンも崩さなかった。一度決めたら貫き通す。初心貫徹の姿勢はハーマンの生き方そのものなのだろう。
米国南部のジョージア州で生まれ育ち、ジョージア大学に進んだ。プロになり、結婚して家族ができてからも本拠地は「ずっとジョージア」と決めている。

PGAツアーでは2014年ジョンディア・クラシックと17年ウェルスファーゴ選手権を制して通算2勝だったが、何より誇りに思っていたのは「ここ12年連続でシーズンエンドのプレーオフ・シリーズに出たこと」。安定性や一貫性を重んじるハーマンではあるが、目指すものがあったからこそ、変化のない淡々とした歩みに耐えることができたのだろう。

「メジャーで勝つことをずっと夢見てきた。たくさんの犠牲を払い、生涯をかけて、36年間、頑張ってきた。そして、ついに勝った」

表彰式で傘を差しかけられると、「傘は要らないよ。今日はずっと傘を差していたから」と断り、降りしきる雨に濡れながら優勝スピーチに臨んだ。

「大好きなこの天候を楽しみたい」

表情もルーティーンも変えず、傘を差し続けて戦い抜いたハーマンだが、優勝後は、傘をあえて外し、雨に濡れたいという気持ちを抱いた。きっと、その雨は、彼の長年の地道な努力と苦労をねぎらい、勝利を祝うセレブレーションのシャワーだったのだろう。

メジャー大会30回目の挑戦にして達成したメジャー初制覇。新たなる個性派メジャー・チャンピオンの誕生だ。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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