これぞ、ゴルフの醍醐味と面白さ!【舩越園子コラム】

PGAツアーのジョン・ディア・クラシックは、3日目を終えて首位から3打差以内に13人がつけており、最終日は大混戦が予想されていた。

だが、蓋を開けてみれば、首位から4打差の14位タイからスタートしたオーストリア出身の30歳、セップ・ストレイカが出だしから快走を始め、瞬く間に独走状態へ。前半を「28」で回ったストレイカは、後半も11番から4連続バーディーを奪い、50台のスコアも夢ではないと思わせるプレーぶりだった。しかし、72ホール目の18番で第2打を池に落とし、痛恨のダブルボギーを喫して、スコアは9アンダーで「62」に留まった。

「あのショットは、きょう初めてのミスショットだった」

これまでPGAツアーの大会で60を切るスコアをマークした選手は12名。直近では2020年のノーザントラストでスコッティ・シェフラーが「59」で回った。PGAツアーにおける最小スコア(ベストスコア)記録は2016年のトラベラーズ選手権でジム・フューリクがマークした「58」だ。

この日のストレイカのゴルフなら58を破る記録更新も現実的と思えるほどの絶好調ぶりだった。しかし、15番以降はパーどまりとなり、そして最後の最後に18番で池ポチャを喫してダブルボギー・フィニッシュ。その終わり方には、がっくりと肩を落としたストレイカだったが、しかしトータル21アンダーでホールアウトした彼は、その時点で単独首位。優勝できるかどうかは後続次第となった。

後続組の大半は悲願の初優勝を狙う選手たちで、優勝経験を有していたのは通算3勝の米国人選手、ブレンドン・トッドだけだった。そして、追いかけるべき選手たちは、プレッシャーがかかる終盤で、こぞってミスを連発。結局、ストレイカを捉えることは叶わず、プレーオフに備えて練習場で黙々と球を打っていたストレイカの逆転逃げ切りによる通算2勝目が決まった。

それにしても今週は、ゴルフが最後の最後まで何が起こるかわからないスポーツであることを、あらためて痛感させられた展開だった。

戦いの舞台となったイリノイ州のTPCディアランは、そもそもスコアが伸びるコース設定ゆえ、初日から快スコアが続出。その中で、初日に「73」を喫したストレイカは、その時点では優勝争いとは縁のない位置だった。しかし、2日目は「63」、3日目は「65」、そして最終日は「62」で回り、逆転勝利を挙げた。初日に躓き、落胆しても、それでも勝利することができる。それがゴルフの醍醐味であり、魅力でもある。

ストレイカの最終日のゴルフの展開にも、その醍醐味や魅力は見て取れた。快走してツアー記録更新ににじり寄りながら、最終ホールのミスでダブルボギーを喫し、すっかり落胆。だが、小1時間後には、一転して、逃げ切り優勝の朗報に頬を緩ませ、相棒キャディと祝福のハグを交わしあった。

「ここ数カ月、ショットが安定してきていたし、きょうはパットがとにかく冴えていたけど、本当に本当に、驚きの展開だった」

初日「73」と出遅れたストレイカが、もしもその時点で試合を投げてしまっていたら、そんな「驚きの展開」をその後に見ることはなかったはずだ。たとえ失敗しても、落胆しても、その先に戦う余地が残されてさえいれば、それは絶望ではない。諦めさえしなければ、希望はある。

そして、運は自力で切り開こうとするものだが、ときには他力によって開かれることもある。ゴルフでは、何だって起こりうるからこそ、ネバー・ギブアップ。そんなゴルフの教えが聞こえてきた最終日だった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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