サッカークラブが増えすぎると、一番困るのは誰なのか?(えとみほ)

Jリーグ「栃木SC」マーケティング戦略部長を務める江藤美帆さんの連載コラム。今回のテーマは「サッカークラブ増えすぎ問題」です。

現在Jリーグは、J1、J2、J3合わせて58クラブがあります。さらにJリーグへの加盟を目指すクラブは100クラブ以上存在しており、今後もJリーグ参入クラブは増えていくでしょう。

全国に「おらが町のクラブ」が増え、身近に憧れの存在がいることで子どもたちに夢を与えるだけでなく、地域の人たちの生活に活力を与え誇らしい気持ちを持ってもらえる機会は増えました。

しかし江藤美帆さんは、サッカークラブが増えることには、良い面だけでなく悪い面もあるのではないかと言います。実際に、クラブ数が増えることでどのような問題が起きるのでしょうか?

■クレジット
文=江藤美帆

■目次

ある日届いた知人からのDM
クラブが増えるとなにが起こるか
一番苦しむのは誰なのか
「Jリーグ入りを目指す」+アルファの存在意義があるか

ある日届いた知人からのDM

先日、知人からこんなDMが届いた。

『新しくサッカーチーム作りました!
もし良かったら応援、拡散していただけると嬉しいです!』

小一時間悩んで、私は「ごめんなさい!」と返信した。支援できない理由はいくつかあるのだが、一番の理由は私自身がこれ以上日本国内にプロサッカークラブが増えることに、ポジティブな印象を持っていないことだった。

このDMをくれた知人のことは個人的には今後も応援していきたいと思っているし、彼が作るクラブなら面白そうだという気持ちもある。ただ、自分の信条として「無責任に背中を押す」ということもしたくはなかった。

断腸の思いで下した結論だった。

クラブが増えるとなにが起こるか

サッカー好きな人間の一人として「チームを作りたい(持ちたい)」という気持ちは、とてもよくわかる。私もサッカークラブで働き始める前は、「自分だったらもっとこうするのに!」という思いをずっと持っていたし、それを仲間とやいやい言うのが楽しかった。

普通はそこで終わってしまうものだが、世の中には恐ろしい情熱と行動力の持ち主がいて、実際に自分でサッカークラブを作ってしまう人が出てくる。今回のDMをくれた知人だけでなく、私の知人にも何人かそういった人たちがいる。

ちなみに、現在Jリーグの加盟を目指すクラブはWikipediaによれば全国に100クラブ以上ある。Jリーグのクラブと合わせると約160クラブ。薄々気づいてはいたが、こうして数を調べてみるとその多さに愕然とする。

確かに、スポーツ不毛の地に「おらが町のクラブ」ができることは素晴らしいことである。たとえば、私の生まれ育った富山県には以前はプロスポーツクラブがなく、私は高校を卒業するまでプロスポーツを観戦したことがなかった。それが、地元にJリーグやBリーグのチームができ、今では県外に出なくてもプロの迫力あるプレーを生で見られる。

身近に憧れの存在がいることで、子どもたちに夢を与えるだけでなく、地域の人たちの生活に活力を与え誇らしい気持ちを持ってもらえる。それこそがスポーツの持つ力だと思う。

しかしその一方で、プロスポーツクラブが増えすぎることによる弊害もある。ざっくり言うと、限られた「パイ」をたくさんのクラブで分け合うことになるので、クラブ数が増えれば競技全体のファン数は増えるけれども、1クラブあたりの「取り分」が減ってしまうという問題である。

では、その限られた「パイ」とは何かというと、パートナー(スポンサー)とファン・サポーターである。皆さんもご存知のとおり、日本の総人口は2008年をピークに減少に転じており、現在も減り続けている。そんな中で、グローバルに開かれていないビジネスは、この限られた「パイ」を皆で分け合うしかなくなってしまうのだ。

もちろん、現在でもサッカーに興味関心がない人は多数おり、そういった人たちを巻き込めば市場が拡大する可能性はある。クラブ数が増えても分け合う分母が増えれば問題はないのだ。その夢にチャレンジすることには価値があるだろう。

ただ、ここでサッカークラブ特有の問題が生じる。サッカークラブというのは、たくさんの人たちの「思い」を乗せて走る船なので、そんなに簡単に「ダメだったのでやっぱりやめます」というわけにはいかないのだ。

一般企業に比べるとステークホルダーの数が桁違いなため、どんなに辛くても、苦しくても、「絶対に潰してはいけない」というプレッシャーがクラブ経営者の肩には重くのしかかるのである。

そして、このままの市場規模でクラブ数だけが増え続ければ、いずれ必ず消滅するクラブが出てくる。それで悲しむ人の姿を見たくないのだ。

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