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一億円プレーヤー1人より、百万円プレーヤー100人がいい。3×3.EXE PREMIERが仕掛ける、固定概念を覆したスポーツのあり方

東京オリンピックで、女子日本代表チームが活躍したことにより話題を呼んだ3人制バスケットボール。そのグローバルリーグである「3×3.EXE PREMIER」は、常識にとらわれない施策で注目を集めている。

選手の兼業に始まり、ショッピングモールや駐車場などでの試合開催、さらには世界中でリーグ戦を行なうなど、既成概念にとらわれない驚きの発想を次々と展開している。その仕掛け人でもあり、2014年にリーグを立ち上げた「3×3.EXE PREMIER」コミッショナーの中村考昭さんに話を伺った。

■クレジット
インタビュー=北健一郎
文=佐口賢作
写真=3×3.EXE PREMIER提供

■目次
スポーツをするため、見るためにスタジアムやアリーナが必須?
1人の1億円プレーヤーよりも、100万円もらえる選手を100人つくりたい
国の枠にこだわらず、世界中でリーグ戦を行なうのは自然なこと
「3×3.EXE PREMIER」が各地域のハレの日の舞台装置になって欲しい

スポーツをするため、見るためにスタジアムやアリーナが必須?

──中村考昭さんがコミッショナーを務める「3×3.EXE PREMIER」は、世界初の3人制バスケットボールのプロリーグとして2014年に創設されました。そこからわずか8年で、日本、台湾、タイ、ニュージーランド、韓国、インドネシアと6つの国と地域から100近いチームが参加するグローバルリーグへと急成長を遂げています(2021年シーズン、韓国とインドネシアは新型コロナウイルス感染拡大の影響でレギュラーシーズンを中止)。2014年当時、新しいスポーツリーグとして「3×3」(スリー・エックス・スリー)のリーグを構想されたのは、どういう理由があったのでしょうか? 

中村考昭(以下、中村) 世界的に見ると、バスケットボールはサッカーやクリケットなどよりも競技人口が多いスポーツです。日本でも男女同数くらいの人数が部活動でバスケを経験し、ストリートバスケも含め、生涯スポーツとして楽しんでいる方々がたくさんいます。

また、2014年当時はまだBリーグこそありませんでしたが、アメリカのNBAを頂点に世界各国でプロリーグが開催され、観るスポーツとしても定着しています。

一方、3人制バスケットボールである「3×3」はストリートを中心に世界各地で自由なローカルルールのもとで行なわれてきたスポーツで、2007年に「Youth Olympic Games」で競技採⽤が決定。国際バスケットボール連盟(FIBA)が世界統一の競技ルールを定め、競技として の「3×3」が誕生したわけです。

そんな背景があるなか、新たなスポーツリーグの可能性を考えたとき、純粋に「3人制のバスケットボールはすごく可能性があるんじゃないか」と思えたんですね。

プロリーグがあり、裾野も広いバスケットボールでありながら、5人制よりも少ないスペース、人数でプレーできる分、より多くの人が楽しめるのではないか。スポーツが社会の中に広がっていくチャンスを見出せるのではないかと考えました。

──「3×3.EXE PREMIER」の試合の映像、写真を見て驚くのは、ショッピングモールやアミューズメント施設の一角、ストリートのイベントスペース、駐車場などでリーグ戦が行なわれていることです。「試合はアリーナで」という固定観念を覆す発想はどこからきているのでしょうか?

中村 新しいリーグを構想するにあたって、今の社会環境を含め、ゼロベースからどういう形であればより持続可能なのか、社会にとって受け入れやすく、より多くの人が楽しめるのかを考えました。

そこで挙がってきたポイントが、競技を行なう場所の問題、チームマネジメントの問題、試合運営の方法論、選手のあり方などです。それらの要素について真っ正面から向き合って、いいと思える方法を組み合わせていったのが、今の「3×3.EXE PREMIER」の形です。

たとえば、「スポーツをするため、観るためにはスタジアムやアリーナが必須?」「バスケットボールって、そんな固定観念に縛られなければいけないもの?」と問いかけたとき、買い物や遊びに街へ出てたまたま出くわすスポーツの試合もあっていいと思ったわけです。

「コロンブスの卵」ではないですが、バイアスを取っただけのシンプルなアプローチです。

1人の1億円プレーヤーよりも、100万円もらえる選手を100人つくりたい

──「3×3.EXE PREMIER」は選手の雇用の形も独特で、兼業が認められています。Bリーグ所属選手や、教員、銀行員、薬剤師、弁護士などと兼業しながら契約している選手もいると聞きました。

中村 これも固定観念というバイアスを取ってみると、意外な仕組みではないと思います。今の社会ではデュアルワーク、トリプルワークをされている方は増えていますし、複数のスキルを複数の形で表現して仕事をしているポートフォリオワーカー(複数の仕事を組み合わせて働く働き方)はめずらしくありません。

ところが、プロスポーツの選手は競技一本でやっていないとプロと呼ばれない。これがすごく不思議で、また年俸が数百万円だと「それで、プロなの?」と言われ、1000万円、2000万円でも「プロだけど少ないね」と気の毒がられるようなところがあります。

でも、日本人の平均年収は400〜500万円で、皆さんプロとして仕事をしていますよね?

私もプロ・サラリーマンです。一定の対価をもらっていたらプロであって、今後の社会ではそれを複数組み合わせていく働き方が一般的になっていくと思います。

こうした時代の変化に合わせた契約の仕方をスポーツの世界に持ち込んだだけで、特別なことをしている感覚はありません。今後を見据えて、リーグとチームと選手のどういう関係があるとより持続可能性があるのかを考えたとき、自然とポートフォリオワーカーに行き着きました。

──たしかに、社会人として仕事をしながらプロリーグでプレーできて、きっちりと報酬も受け取ることのできる仕組みがあれば、より多くのプレイヤーが参加できます。

中村 スポーツ、バスケットボールそのものを広く社会に進出させるためのリーグを設計しました。1億円プレーヤーを1人つくるなら、バスケをやって100万円もらえる選手を100人つくりたい。地に足がついた多くの人が普通に関われる一般的な社会産業になることで、マーケットを大きくできるはずで、私たちはその方向を志向しているんです。

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