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一億円プレーヤー1人より、百万円プレーヤー100人がいい。3×3.EXE PREMIERが仕掛ける、固定概念を覆したスポーツのあり方

国の枠にこだわらず、世界中でリーグ戦を行なうのは自然なこと

──もう1つ画期的なリーグ設計だと感じたのが、海外からのリーグ参入を積極的に歓迎している点です。リーグの立ち上げから数年で、台湾、タイ、ニュージーランド、インドネシア、韓国へと広がっていったスピード感は驚きでした。

中村 これも嘘みたいは本当の話なんですが、「どうして海外から参入したらダメなんですか?」と問い直してみた結果です。たとえば、サッカーならFIFAがあり、JFAがあり、Jリーグがあり、基本的にはプロリーグは国別の管轄で、国境を跨がないという暗黙的なルールがあります。

でも、新しいビジネスを始めるとき、自信ある商品、サービスがあるなら、別に国を問わず商売をしたいと思いますよね?

最初は日本でビジネスをしていても、事業が成長すれば海外進出を考えるのが自然です。その点、私たちは後発のリーグだからこそ、過去のやり方を踏襲する必要がなかったことがプラスに働きました。

また、プロスポーツビジネスというビジネスモデルをニュートラルに見ると、その価値の源泉は選手です。そして、選手たちは普通に海を越えて移動しますし、どこのパスポートを持っているかはプレーを左右しません。

そして、多くのスポーツ関係者が「世界共通で言葉のいらない部分がスポーツの良さだ」「スポーツの価値は万国共通」と言います。だとしたら、国の枠にこだわらず、世界中でリーグ戦を行なうのは自然なことですよね。

──なるほど。たとえば、タイにも日本と同じく大きなショッピングモールがありますが、そういったところで試合が開催されているんですか?

中村 もちろんです。変わったところでは、ヒンドゥー教の寺院の前でも開催しました。

──すごいですね! ロケーションにエンタメ感があり、旅をしているようなおもしろさがあるのも「3×3.EXE PREMIER」の魅力になっていくんでしょうね。

中村 10年、20年とホームアリーナに通うことで培われる愛着もあると思いますが、毎回の観戦から新たな刺激を得られるのも楽しいですよね。

「3×3.EXE PREMIER」が各地域のハレの日の舞台装置になって欲しい

──「3×3」は東京オリンピックの正式種目となりました。オリンピック後の反響はどうでしたか?

中村 注目度は確実に増しましたし、「3×3」と言ったらみんなわかってくれるようになりました。そういう意味では、大きな転換点だったと思います。もう1つ別の意味合いでは、投資しうる可能性があるスポーツという興味・関心が高まったことも感じています。

競技について懐疑的な見方、ネガティブな反応が減ったことはプロリーグを運営していく上で、ポジティブな反応です。

──「新しくチームを持ちたい」、「スポンサードしたい」といった問い合わせは増えましたか?

中村 そうですね。それはネガティブな要素が減ったからです。「3×3」が何かわからないというところから「3人制バスケットボールね」「プロのリーグがあるんだ」「あのチームの選手はオリンピックに出ていたんだ」となると、問い合わせの質も変わります。

──質というと?

中村 たとえば、今まではバスケへの愛情が深く「絶対にバスケのチームを持ちたい!」という熱い想いからの問い合わせが中心でした。それが、BリーグやJリーグのチームを持てるほどの資金はないけれどプロスポーツへ関わりたい、投資として検討したいというオーナーシップの選択肢の1つとなってきた実感があります。

──資料によると「3×3.EXE PREMIER」の1チームの年間事業規模は平均で500〜600万円とあります。他のプロリーグと比較するとかなり少額でオーナーとしてプロスポーツのチームを持つことができますよね。また、「3×3」は広い敷地の確保が難しい都市の中心部でも開催できる利点があります。こうした点はリーグの発展にプラスに働くと思いますが、今後の展望についてはどうお考えですか?

中村 大きな例え話になりますが、太古、人類が生まれて集団生活を始めたホモサピエンスの時代から、コミュニティには儀礼、儀式がありました。それはハレの日の楽しみの地域的なお祭りとして今も社会に根付いています。

日本国内で言えば、町内会の七夕祭りや盆踊り大会、収穫を祝う秋祭り。地元の方々の楽しみの場として、何千年来という歴史の中でできあがってきたものですよね。そして、人間コミュニティが続く以上、そうした祝祭の場は永遠にあり続けると思います。

私は「3×3.EXE PREMIER」が各地域のハレの日の舞台装置になっていって欲しいと考えています。大都市にメガクラブ、ビッグクラブがあり、全国的な人気を集めるのもプロスポーツビジネスの1つの形ですが、数百人から数千人単位、言うならば町内会単位で存在するプロリーグのチームがあってもいいはずです。

地域のシンボルとして数百万円、数千万円する御神輿を維持管理していくように、私たちのクラブをつくり、育てていく。たとえば、鹿児島の「EXPLORERS KAGOSHIMA.EXE」(エクスプローラーズ カゴシマ ドット エグゼ)はラ・サール学園のOBが集まり、立ち上げたチームです。そういうチームが全国各地、世界中のあちこちで試合をし、コミュニティを盛り上げる存在になっていく。そうなれば最高ですよね。

──何かの頂点を目指すのではなく、地域に当たり前のようにあるチームがたくさんできていくというのが描く未来像なんでしょうか?

中村 そうですね。あとは競技性の高さをどのように捉えるかという話です。当然、10万人から選ばれた選手たちが集まるチームはクオリティが高くなります。ただ、スポーツは勝負事であり、対戦相手との関係性によって競技が成立するわけです。

当然、厳選された選手の集まるトップ・オブ・トップのチームが、地域密着の戦力的に著しく劣るチームと対戦した場合、その試合はつまらないものになります。でも、力が拮抗している同士の対戦、地域性を反映させた対戦ならば、観ていて楽しいんですよね。

たとえば、高校野球とプロ野球、高校サッカーとJリーグ、バスケのウインターカップとBリーグ。カテゴリーを超えて高校生チームとプロが対戦したら話にならない差が出るでしょう。でも、ウインターカップには大きなドラマがあり、競い合いがあり、勝者がいて、敗者がいて、そこにはスポーツの根源的な魅力があります。

重要なのは競技性のクオリティが平準化される環境、拮抗する状況をリーグ側が作れるかどうかです。単に競技のうまさを競う選手権ではなく、チームの背景にあるものを含めた人間模様にも感情移入するような観戦体験。それが社会に広がっていくほうが、より大きな意義があると考えています。

■プロフィール
中村考昭(なかむら・たかあき)

リクルート、A.T. カーニー、スポーツマーケティング会社を経て、2010年5月ゼビオ入社。2011年4月クロススポーツマーケティング株式会社代表取締役社長、2015年10月ゼビオホールディングス株式会社副社長執行役員。Jリーグ東京ヴェルディ代表取締役社長、アジアリーグアイスホッケー東北フリーブレイズ代表取締役オーナー代行、3×3プロバスケリーグ3×3.EXE PREMIERコミッショナーも務める。一橋大学卒。

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