ケニアではキリンが横切るコースでプレーも 識西諭里が挑む“独自のツアー生活”「違うルートもあることを伝えたい」【 ゆり’s ROAD】
独自の道を切り開き、プロゴルフの世界で戦っているひとりの選手がいる。26歳の女子プロゴルファー・識西諭里(おにし・ゆり)がその人だ。日本でのツアー生活を目指すも、これまでに7度挑戦したプロテストで合格をつかみ取れず、今年は米国、欧州と世界各国を股にかけて転戦を続けている。“未知の世界”に飛び込んで奮闘する姿を追う。
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福岡県出身の識西が、海外でプレーするうえでの原風景は、高校3年生の頃にある。「単身オーストラリアで合宿をした時に、『世界は広いなー』っていう刺激があり、そこでうまい海外選手に出会って視野が広がりました。いつか米国ツアーとか海外でプレーしたいって、この頃から漠然と考えるようになりました」。その“漠然”とした思いが、現実になったのには事情もある。
日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は、国内ツアー出場権を得るためのQT(予選会)出場者を原則、正会員のみに制限することを2018年に発表。19年度から実施している。それまでは協会が行うプロテストに合格しなくても、QTで一定の成績をおさめれば『単年登録』という形でJLPGAツアーに出場できた。しかし、この規定変更により、会員資格のないプロ選手のツアー出場は大幅に制限されることに。結果的に、これが識西の海外進出を後押しすることにもなった。
昨年行われた米国ツアーのメンバー入りをかけた予選会で最終にあたるQシリーズまで進み、今年すでに米女子下部にあたるエプソン・ツアーには2試合に出場。さらに同12月にスペインで行われた欧州ツアーQTでは17位に入り、そこでガッチリとメンバーカードをつかみとった。
欧州参戦については「めっちゃ急でした」と本人も振り返る。その存在を知ったのは、昨年11月に受けた国内最終プロテストの会場。かつて日本ツアーにも参戦した台湾のベイブ・リュウとの会話がきっかけとなり、頭の片隅に置かれることになった。「プロテスト不合格で絶望的な感じでへこんでいた時に、家族との話で『欧州に行ったら?』って言われて。それで落ちてから、すぐにエントリーしました。ツアーのことなんて何も知らないまま。勢いですね。いけるところには、どこでもいこうっていう気持ちでした」。
そして今年2月に、ケニアで“欧州ツアーデビュー”を果たし、いきなりトップ5入り(5位)。さらに続くモロッコの試合にも出場した。現在は米国下部ではなく、この欧州をメインに戦っていくことを決めている。
日本ではあまりなじみはないものの、そこは世界主要ツアーのひとつ。賞金も世界ランキングに反映されるポイントもエプソン・ツアーよりも欧州の方が優遇されているのがその理由になる。例えば、欧州ツアーの賞金総額は最低でも30万ユーロ(約4400万円)で、これは日本のステップ・アップ・ツアー(下部ツアー)のほとんどの試合を超えるもの。ステップ最高賞金額4000万円の「Sky レディースABC杯」とほぼ同額だ。さらに出場人数は制限されるものの、なかには日本円で“億”を超える大会も。「エビアン選手権」、「AIG女子オープン」というメジャー大会も組み込まれており、プロとして当然の選択ともいえる。
そんな“あまりなじみがない”ツアーの様子を識西に聞いてみると、やはりそこは日本では到底想像がつかない景色が広がっていた。「初戦のケニアは、コース内にキリン、しまうま、猿などの動物が普通にいて、『あ、右ラフにしまうまがいる!』、『キリンが横切ってる!』みたいな感じでした(笑)。最初だったしインパクトがすごかったですね」。“海外あるある”ともいえる食中毒やロストバゲージも経験。「ケニアには信号機もなくて、車が入り乱れ放題。道路も舗装されてないので、送迎バスがこれでもかというくらいに揺れていて…(笑)。ケニアからモロッコまで24時間かかりました。やっぱり移動は大変だなって思いました」。こんな“洗礼”も、あっけらかんと振り返る。
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