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王者はノルウェーの若きスター 圧巻ラストスパートに世界が脱帽【舩越園子コラム】

ビクトル・ホブランの快進撃に世界が驚愕。若き年間王者の誕生だ(撮影:GettyImages)

PGAツアーのプレーオフ・シリーズ最終戦「ツアー選手権」を制し、フェデックスカップ年間王者に輝いた選手に贈られる優勝トロフィーは、ティファニー製だ。

そのトロフィーに勝者の名前を刻み込む重要な仕事を任されているのは、マスター・エングレイバーと呼ばれる熟練職人だ。

表彰式に間に合わせるためには、少しでも早く彫刻作業を開始したいはず。だが、1つしかないトロフィーに勝者の名前を刻むのだから、絶対に失敗は許されないし、後戻りもできない。

そのマスター・エングレイバーがビクトル・ホブラン(ノルウェー)の名前を刻むために手を動かし始めたのは、ホブランが16番のバーディパットを沈め、2位との差を4打に広げた直後からだった。

初日を首位タイで発進し、2日目も首位タイだった25歳は、3日目も好調なゴルフでスコアを4つ伸ばし、2位に6打差のトータル20アンダー・単独首位で最終日を迎えた。

しかし、それでも楽々優勝というわけには、いかなかった。ホブランは前半で4つスコアを伸ばして首位を走り続けていたが、折り返し後は、なかなかバーディが取れなかった。

2位から出て猛追してきたザンダー・シャウフェレ(米国)が11番、12番の連続バーディで3打差まで迫ると、そのプレッシャーを感じたかのようにホブランは13番で短いバーディパットを外し、14番では3打目を寄せそこなって8メートルのパーパットが残った。

だが、その8メートルを沈め、見事にパーセーブ。そのときホブランが見せた激しいガッツポーズは「絶対に崩れるものか」と自身に言い聞かせているかのようだった。

「あのパーセーブがカギになった。(15番もパーで)上がり3ホールを3打差で迎え、16番のバーディで4打差。気持ちが楽になった」

そんな試合展開とホブランの心情をすべて読み取ったかのように、ティファニーの熟練職人がホブランの名前をトロフィーに刻み始めたのは、まさに、そのときだった。

16番に続き、17番も18番もバーディ奪取。上がり3ホール連続バーディという圧巻の締めくくりだった。

ノルウェー出身。オクラホマ州立大学に留学し、2018年「全米アマ」覇者となったホブランは、2019年にプロ転向し、2020年からPGAツアーへ参戦した。ルーキーイヤーから毎年勝利を重ね、通算3勝で迎えた今季は6月の「メモリアル・トーナメント」、先週の「BMW選手権」、そして今週のツアー選手権を制し、今季3勝、通算6勝を飾って自身初の年間王者に輝いた。

今季の躍進は、ホブランがこの1年取り組んできたさまざまなチェンジと努力のたまものだった。“トラックマン・マエストロ”と呼ばれるジョー・メイヨー氏をコーチに付け、スイングを再現性の高いものへと改造した。そのおかげで、フェアウェイキープ率は先週も今週もフィールド内で1位になった。

昨年までは最大の弱点だったショートゲームの徹底練習にも取り組み、その成果が表れ、今週はスクランブリング(パーオンできなかった時にパーかバーディであがる率)でも1位になった。

難コースのイーストレイクで、ビッグタイトルとビッグなボーナスをかけ、トップ30の精鋭たちの中で競い合うツアー選手権。呼吸するのも苦しいほどの緊張感の下、4日間72ホールでボギーをわずか2つに抑えて戦い切ったホブランは、技術を磨き、弱点を克服し、自信を倍増させたからこそ、たとえピンチに直面しても我慢強くプレーすることができたのだ。

「ハードワークが報われた。毎週一緒にやってくれたチームのみんなのおかげだ。今季を締めくくるプレーオフのラスト2週間に、僕にとってのベストなプレーができて、こうして表彰台に立てている今は、とてもシュールな気分だ」

手にするボーナス、18ミリオン(1800万ドル)は約26億3700万円。その金額もあまりにもシュールゆえに、ホブランにはまだ実感がないらしい。

「母国ノルウェーに帰って、家族や友人たちとのんびり過ごすことしか考えていない」

そのころには、シュールなタイトルとボーナスが自分のものになったことが実感できるのではないだろうか。

今季最終戦の最終日を3連続バーディで締めくくり、シーズンエンドのプレーオフで連続優勝。ホブランの見事なラストスパートに、誰もが脱帽したサンデー・アフタヌーンだった。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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