「圧巻の優勝」と「惜敗の悲哀」【舩越園子コラム】

最後のバーディパットが決まらずにうずくまるウィンダム・クラーク(撮影:GettyImages)

PGAツアーのフラッグシップ大会であり、賞金総額2500万ドルの「ザ・プレーヤーズ選手権」の最終日は、“第5のメジャー”の呼称にふさわしいエキサイティングな展開になった。

日本のエース、松山英樹はスコアを5つ伸ばしてチャージをかけたが、残念ながら実質的な優勝争いには絡めず、トータル15アンダーで6位タイに終わった。そしてサンデーアフタヌーンの終盤を沸かせたのは、いずれも世界ランキングトップ10につけている4名だった。

トータル20アンダーで先にホールアウトした世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーを、ブライアン・ハーマン、ザンダー・シャウフェレ、ウインダム・クラーク(いずれも米国)が追撃する形になった。3人とも72ホール目をトータル19アンダーで迎えたが、誰一人、バーディーパットを沈めることができず、シェフラーの勝利が決まった。

今週のシェフラーはショットもパットも冴えていた。とりわけ、3パット無し記録を172ホール継続している彼のパットには、自信と安定感がみなぎっていた。それでも最終日は17番でも18番でもバーディーチャンスを決めきれずパーどまりになったことは、大会史上初の連覇を目前にして、プレッシャーを感じたせいだろうと想像された。だが、シェフラーいわく、「今週はフィジカル(肉体)の戦いだった」という。

2日目のラウンド中、突然、首痛を発症した。試合進行中にロープ際でセラピストによる治療を受けて、何とかしのいだ。「土曜日の朝は不思議なことに首の状態がずっと良くなっていた」と振り返ったシェフラー。3日目は、単独首位に浮上したシャウフェレから5打差の6位タイにつけた。

そして最終日のチャージは、4番のチップインイーグルから始まった。その後に6つのバーディーを奪って勝利へと邁進。史上3人目となる最大差(5打)からの逆転を飾った。「フロントナインでスコアを大きく伸ばせばチャンスはあると思い、ベストを尽くした。その結果、優勝できた今の気持ちは最高だ」。

大会史上初の連覇、そして先週の「アーノルド・パーマー招待」に続く2週連続優勝を達成したシェフラーには、世界ランキングでもフェデックスカップ・ランキングでも堂々の1位を維持している王者の貫禄がみなぎっていた。

このようにシェフラーの勝利がまぶしく輝いていた一方で、悔しい敗北を喫したクラークの物語には悲哀が漂った。

優勝すれば、クラークにとってそれは素晴らしい物語になるはずだった。2023年「ウェルズ・ファーゴ選手権」を制し、翌月には海外メジャー「全米オープン」を制した。今季はシグネチャー・イベントに格上げされた「AT&Tペブルビーチ・プロアマで勝利しており、ビッグトーナメントに強いことは証明されていた。

しかし、シェフラーとのプレーオフに持ち込むためには絶対に沈めることが必要だった72ホール目のバーディーパットは、カップフチをぐるりと回り、無情にもグリーン上にとどまった。その瞬間、クラークの優勝は消えてしまった。

初出場だった19年大会はスコアカードの誤記が指摘され、過少申告による失格を食らって涙を飲んだ。5度目の出場となった今年は首位タイの好発進を切り、2日目も首位タイをキープ。3日目にはアイランドグリーンが名物の17番パー3でティショットを池に落としたが、次打はドロップエリアを使わずにティイングエリアから打ち直し、見事、2メートルにつけてナイスボギーセーブ。「明日、優勝したら、このショットが勝利の予兆だったと言えるだろう」と、自信さえ垣間見せていた。

そんなクラークの熱い想いは、勝利の女神にはわずかに届かなかったが、ゴルフファンの心には十分届いていたのではないだろうか。シェフラーの圧巻の優勝とクラークの惜敗の悲哀。その対比が戦いの世界のし烈さを物語り、同時に、ゴルフの面白さを伝えてくれたように思う。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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