ゴルフボールの都市伝説 『温めると飛ぶ』は本当なのか?

温めたボールが飛ぶというのは、少なくとも現在の最新ボールにはほとんど当てはまらない

最新のゴルフボールの外側のカバーはアイオノマー樹脂、ウレタン樹脂などでつくられ、内部のコアと呼ばれる部分はブタジエンゴムと呼ばれる合成ゴムでできています。3ピースボールなどではカバーとコアの間に中間層と呼ばれる層があり、エチレン系樹脂、スチレン系樹脂などが使われています。これらの、多様な樹脂の組み合わせでボールがつくられているので、ゴルフボールが通常使われている温度(0~40度)では、温度差による反発などへの影響が少なくなっています。

それは、樹脂の種類により、硬くなると反発がよくなるもの、逆に軟らかくなると反発が良くなるものなどがあるため。この点からも、温度が低くなると、樹脂は硬くなる傾向ですが、一概にボールの反発が悪くなるとは限りません。また、この樹脂の温度による変化も、通常の温度範囲では大きく変化することはありません。マイナス20度とかプラス60度とか、ゴルフをプレーするには厳しい環境になれば、影響が大きく出てくる可能性があります。

ブリヂストンのホームページをみると「夏場と比較すると気温が低い冬場はボールが硬くなり、反発力も低下するので、その結果飛距離が落ちてしまう傾向にあります」と書かれています。どのぐらいの温度差で、どのくらい影響があるか知りたいところです。ブリヂストンに確認すると、ボールの種類によりこの影響に違いがあり、一概にどのくらい差があるか言えないとのことです。結論から言えば、通常ゴルフをプレーする気温(0~40度)では、ボールの温度による影響は少なく、寒いときにボールが飛ばなくなるのは、ウェアを重ねて着るなど、寒さによる体の可動範囲の減少のほうが大きく影響しているとのことです。

ゴルフボールは初速、最大飛距離などが厳密に規定されていますが、テストするときのボールの温度も厳密に規定されています。その温度は華氏75.0±1.0度(摂氏23.9度)です。更に、テスト前に定温器に少なくとも3時間保管が必要です。このことからも、ボールの温度によって飛距離や反発に影響があると推測するのが筋でしょう。

ただし、寒いときにカイロなどで、温めてもボール全体の温度が上がるのには時間がかかり意味がありません。逆に、ゴルフ規則4-2aでは「故意に性能を変えた球をプレーしてはならない。プレーヤーは、例えば、球をこすったり、温めたり、何らかの物質を付けたりして(球をふくときを除く)性能特性を故意に変えた球でストロークを行ってはならない」との規定があり、規則違反になる可能性もあります。夏場のクルマの中に放置したボールなどは、品質劣化によって、かえって飛ばない可能性もあります。ボールの本来の性能を発揮させるには、室温で保管して使用することをお薦めします。

以上のように、長時間温めておいたボールは、若干ではあるが飛ぶ可能性があること。ただし「飛んだ!」と実感できるほどの違いにはならず誤差と言える範囲であること。また極端な低温下では反発力が低下する可能性があるが、一般ゴルファーが「飛ばない」と思うような有意な差には現れない。少々まどろっこしいですが、これを今回の結論とします。

(取材/文・嶋崎平人)

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