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中村憲剛×結城康平「田中碧と守田英正が、代表で輝きを放てる理由。海外移籍は、すればいいものではない」

日本の現在地を知った五輪のスペイン戦

──結城さんはWeb出身のフットボールライターで、戦術分析家です。これまでのサッカー界では中村さんのようにトップ選手として活躍された方との対談はなかなかなかったと思います。今日ここまでのやりとりを通じて、お互いにどのように感じていますか?

結城 僕は一般の読者の方々と同じく、プロの選手と話す機会はほとんどありませんでした。それが今はプロの選手や指導者さんの側が歩み寄ってくれるようになって、幸せを感じています。同時に、WEBで書く僕ら側は広く知られる努力ができていなかったのかもしれない、とも思います。

中村 有名無名、過去の実績にかかわらず、僕にとっては書かれている内容に共感できるかどうかかなと。実際のプレー経験がなく観戦中心でサッカーを深堀りした方でも、「わかる、わかる」と思えるコンテンツを次々と出されている方もいますし、サッカー選手でも考えるタイプやそこまで深く考えないタイプなど色々なタイプがいます。

サッカーの見方、考え方は人それぞれで、正解はありません。それでも、僕は結城さんの書かれた記事に共感しましたし、そこからまた疑問や発想が膨らむ部分があったので「お話させてください」と編集部の方にリクエストさせていただきました。

たとえば、東京オリンピックの総括は自分が同じように考えていたこともズバッと書かれていて、おお!と思いました。

結城 あの記事は多くの人が読んでくださってうれしかったですね。東京オリンピックは良くも悪くも日本のサッカーの現在地が明確に示されていました。

中村 個人的に、日本とスペインの準決勝を見て、ものすごく差があるなと、少しショックを受けるくらいに。スコアこそ0-1でしたが、前半から押し込まれていました。もちろん、0-1で粘った、善戦したと評価することもできます。ただ、スペインのサッカーに自分たちがボールを握って勝つとなると、相当難しいだろうなと感じました。

スペインを相手にボールを握って勝つチームは世界的に見ても限られているというか、ほとんどいませんが…。碧の試合後のコメントで「彼らはサッカーをしているけど、僕らは1対1をし続けている」これはなかなか衝撃的でした。そこが結城さんの指摘したイメージの共有の問題なのかな、と。

スペインは1人の発信に対しては受信力の高いユニットが攻守に反応し、グループで動いてくる。その差を碧たちはピッチの上で感じたのでしょうね。

結城 そうですね。味方のために、自分が生きるような選択肢をあえて捨てたり、意図的にボールを動かしたりといった駆け引きの精度が違いました。

そこが空いているからパスを出すのではなく、次にできるスペースを意識して、あえてダイレクトで返させるようなボールを出す。パスを受けた側も当然、それを感じて戻し、3人目が動き出す。そういう細かい駆け引きのレベルの高さと継続性がスペインのすごいところです。

日本の技術レベルはかなり高くなりましたが、ユニットが連動して工夫しながら駆け引きをするようなプレーは少ない。準決勝には、ポジティブな面、ネガティブな面の両方がありました。ただ、近づいてみたら「越えなければいけない山は、とても高いぞ」と。改めて、そう気づかせてくれた試合だったとも思いましたね。

中村 成長してきたからこそ見えてきたとも言えますよね。だけど、この試合に関しての論調が賛否両論で、日本の4位をフラットに総括できる人が少なかった。そういう感情的な論調の多いなかで、結城さんのレビューは冷静であり、現在地をズバンとついていたので、「そうだよな」と読み入ってしまいました。

結城 読んでもらえているとは思っていなかったのでビックリしました。ありがとうございます。

中村 だから、僕の中ではWEB出身、元プロサッカー選手といった枠に関係なく、単純に深いサッカーの話ができる方との輪が広がってうれしいです。

また、サッカーの書き手としては、どれだけ起きた現象を正確に認識して、どれだけ正しく伝えられるかがとても大事で、もちろんニュアンスや書き方に特徴は出ますが、内容に関して、その人のキャリアは関係ないといつも思っています。

結城 試合を観るという意味では、多忙な生活を送られているプロの選手よりも趣味で沢山の試合を観られる僕らの方がもしかしたら強い部分もあるのかもしれません。

中村 正直、結城さんの記事を読んで選手がどう思うかを聞いてみたいです。だけど、日本サッカーがより成熟していくためには、キャリア関係なくこういう切り口でサッカーを話せる人がどれだけ増えていくかも重要な要素だと思っています。実際、僕もまだまだ足りていないですから。

結城 僕も憲剛さんのような方々から教えてもらいたいことはいっぱいあります。あれだけトップで活躍してきた選手で、なおかつこれからトップレベルの指導者になるだろう人が、こんなにフラットに、サッカーの経験値やバックグラウンドを気にせず、理論ベースで人を見てくれるというのは本当に大きな変化です。

中村 結城さんから見たフロンターレや日本代表を聞かせてもらい、僕なりのフロンターレの話をさせていただき、これが記事にまとまって読み返したとき、また違ったものが見えてくると思うので楽しみです。

とにかく僕は18年間サッカーしかやってこなかったので、知らないことばかりです。

結城 そういうことを言えてしまうのが、すごいなと思いますし、今までのサッカー界にはここまでフラットになれる人が少なかったのかな、と。憲剛さんのような元代表選手が登場したのも、日本サッカーの未来にとってすごくポジティブなことだと思います。

■プロフィール
中村憲剛(なかむら・けんご)

1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。小学生時代に府ロクサッカークラブでサッカーを始め、都立久留米高校(現・東京都立東久留米総合高校)、中央大学を経て2003年に川崎フロンターレ加入。06年10月、日本代表デビュー、10年の南アフリカW杯出場をはたす。国際Aマッチ68試合出場6得点。川崎の中心選手として17年、18年、20年とJリーグ優勝、19年にルヴァンカップ優勝と数々のタイトルを獲得。05年から19年まで15年連続Jリーグ優秀選手賞、Jリーグベストイレブン8回選出。16年には歴代最年長36歳でJリーグ最優秀選手賞。19年に左ひざ前十字靱帯を損傷し、長期間のリハビリを強いられながらも10カ月後に完全復活を果たす。20年限りで現役引退。21年より川崎フロンターレFrontale Relations Organizer(FRO)に就任。

結城康平(ゆうき・こうへい)

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に寄稿しつつ、翻訳・通訳・編集として活動。欧州サッカーを中心に「何でも屋」として複数のプロジェクトに参加している。海外サッカー専門誌『フットボリスタ』で「TACTICAL FRONTIER 進化型サッカー評論」を連載中。スコットランドで過ごした大学院生時代に培った英語文献を読み解くスキルを活用しながら「欧州最先端の戦術研究」に独自の視点でアプローチする。日本のサッカー論談にポジショナルプレーを紹介した伝道師としても知られる。

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