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コロナ禍のサッカー界で「勝ち組」と「負け組」を分けるのは?【上野×北対談】

2020年以前と2020年以降で世界は大きく変わった。新型コロナウイルスの影響はあらゆる業界に強制的な変化を突きつけた。

スポーツ界も例外ではない。

スタジアムやアリーナにお客さんを呼んで満員にする。選手とファンが積極的に交流できる場をつくって関心をもってもらう。

コロナ前までは当たり前のようにできていたことができなくなり、大幅な施策や方針の転換を迫られた。

コロナがいつまでに収束するか、確実な目処は今も立っていない。そんな中で生き残っていくためには何が必要になるのか。

上野直彦と北健一郎、さまざまな立場からスポーツに関わる2人が語り合った。

■クレジット
進行=Smart Sports News編集部
構成=北健一郎

■目次
サッカーバブルは弾けてしまったのか?
コロナ禍のマイナスをどう取り戻す?
ゴールの瞬間は最大の課金チャンス
「WEリーグ」に勝算はあるか?

サッカーバブルは弾けてしまったのか?

──ワールドカップ最終予選のアウェイゲームが地上波で放送されないことが話題になりましたが、お二人は「サッカー日本代表」というコンテンツをどうとらえていますか?

北健一郎(以下、北) サッカー日本代表が“国民的コンテンツ”だったのは2011年から2014年までだったと思います。いわゆる本田圭佑・香川真司時代ですね。2010年の南アフリカワールドカップでのベスト16をきっかけに、新規のファンがかなり入ってきていました。

この時期はサッカー番組だけじゃなく、一般的なニュースとかワイドショーとかでもサッカーの露出がすごく多かった。われわれジャーナリストもテレビやラジオへの出演依頼が多かったです。しかし2014年を境に、メディアへの露出が減っていきました。

テレビやラジオといったマスメディアは、ニーズがなければサッカーを取り上げる必要はない。それでも日本代表戦は強力なコンテンツでしたが、アジア最終予選のアウェイゲームを民放で放送されないことが象徴するように、コンテンツの価値が下がっているのは間違いありません。

──1つの例として、北さんを含めサッカーライターさんの本があまり出なくなりましたよね。

 例えば、「サムライサッカーキング」という日本代表に特化した雑誌が創刊されたのは2011年です。当時の編集長だった岩本義弘さんもおっしゃっていましたが、あの時代は日本代表のネタをツイートするとすぐに何百、何千リツイートされていました。

でも、そんなバブル的な人気は長くは持たなかった。「サムライサッカーキング」は2014年6月号を最後に休刊しています。マスが興味を持つコンテンツは常に移り変わっていて、サッカーの日本代表はそこから外れてしまったのかなと思います。

上野直彦(以下、上野) 自分は会社経営もしているので、様々な分野の方と話していて強く感じるのはサッカーの話題や例え話が一切出てこないことです。プロ野球や相撲は多いです。例えば、ピンチを表現する場合に「9回裏2アウト満塁で3ボール2ストライクの状況だよね」と言うじゃないですか? 「天皇杯決勝で延長PK戦の3-4と劣勢のなかのGKだよね」とは言われない。イギリスなら例え話としていくらでもフットボールが出てきます。

個人的にスポーツでのキャリアの最初は、INAC神戸(INAC神戸レオネッサ)でスカウティング担当をしていたのですが、それもあって女子サッカーを長く取材しています。なかでも元なでしこジャパンの宮間あやさんとはウマも合ったのでしょうか、最長インタビュアーだったそうです。

彼女の言葉で有名なのが「女子サッカーを文化にしたい」というものです。この言葉は一人歩きしてしまったのですが、その真意はどこにでもある公園で、お母さんと娘がパス交換をしている、女子が河原で練習試合を普通にしている風景を作りたいといったものでした。

なでしこジャパンがW杯で優勝し、女子サッカーの認知は一定ラインまで高まってきましたが、そこからもう1つ壁を乗り越えられていません。男子も女子も、あくまで全体としてですがサッカーを文化にできる領域までには未だ届いていないのではないでしょうか。

──仕事のたとえで使うのは野球が多いです(ツーアウト満塁、など)。サッカーのたとえを出しても、あまり刺さっていない実感があります。

上野 メディアとして2つ問題点を感じるのは、一つはグローバルなサッカーメディアが日本発で出てきていないということ。マーケットがすべて国内向けなので、サッカー人気が低迷する影響をダイレクトに受けてしまう。

中国語圏や英語圏にも発信しないと、例えば東南アジアの人たちがJリーグで活躍する自国選手の活躍の裏側やディテールを読めるメディアがない。遅かれ早かれメディアは立ち行かなくなるでしょう。

英語でも韓国語でもスペイン語でもいいのですが、とにかく記者さんには第二言語ができない人が圧倒的に多い。日本サッカーはまだまだキャッチアップする側、謙虚な姿勢で他国の最新事例から直接インプットできないのは痛いです。

もう一つの問題は、メディアの業界でも単価がほとんど固定化されてしまっていて、競争原理が働いていません。お金が回っていなければ、優秀な人材も入ってこない。構造的な変化が必要な状況なのかなと危機感を感じています。

コロナ禍のマイナスをどう取り戻す?

──コロナの影響にも触れていきたいと思います。2019年はJリーグ全体でも過去最大の入場者数、最大収益になっていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大による入場制限などを受け、入場料収入やグッズ収入が壊滅的に減っています。

 クラブの経営規模が大きいところほど、コロナによるダメージはあると思います。浦和レッズなどの人気クラブは、平均的に3万人ほどの集客を見込んで、人件費や運営費を設計しています。

ところがコロナ禍におけるJリーグの規定で言うと、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の対象地域は、上限5000人か収容人数の50%の少ない方であり、解除後も1カ月間は上限1万人もしくは50%の少ない方で開催すると定めています。チケットの売上枚数は、最大でもこれまでの半分以下なのに対して、価格を倍にできているわけではない。それがもう2シーズンも続いている。

J1で優勝して高額な賞金が得られるのは1クラブだけです。優勝するために外国人選手や日本代表選手など高額年俸の選手を補強して人件費が膨らんでしまえば、優勝できなかった場合はさらに厳しい状況になってしまう。今後はチームとして難しい舵取りを強いられることになります。

最大で50%しか入れられない状況では収益性の根本的な改善は望めません。諸外国では、ワクチンパスポートの運用が始まっており、コロナ前の日常に戻っている国が増えています。

──日本でも、ワクチンパスポートの議論は始まっています。人口の7、8割がワクチン接種を終えた段階で導入するのではないかと言われてます。

 スマートスポーツニュースでカジノ専門家の木曽崇さんに話を伺いましたが、ワクチンパスポートを導入するかどうかが、日本のスポーツを含めたレジャー産業の正常化につながると考えていて、僕もその考えに同意しています。

欧州と日本ではコロナに対する考えが違って、欧州ではある程度の感染には目をつむり、ワクチンパスポートを持っていれば、原則としてコロナ前と同じようにやれる。今後の日本がそっちに向かうのか、今のように感染拡大、人流抑制という名目でずっと観客数に制限を設けた状態でやり続けるのか。ここが大きな鍵を握っていると思います。

上野 スポーツの4大収入は、これまでは放映権収入、入場料収入、物販収入、スポンサーセールス収入でしたが、今後はそこにスポーツトークンやベッティングなどテクノロジーとリンクした新しいサービスが5本目や6本目の収入源になるのではないかと数年前から考えて記事にもしてきました。

今でこそ、Jリーグクラブも用いておりよく耳にするようになったスポーツトークンですが、2018年の頃には「危ない」「怪しい」と見向きもされてきませんでした。

しかし、スポーツビジネスは新しい時代に移行しています。東京オリンピック・パラリンピックで開閉会式のエグゼクティブプロデューサーを務められ、とてもリスペクトしている日置貴之氏が“スポーツビジネス3.0”と言っていましたが、コロナによって逆に収入が増えるチャンスもあるのではないでしょうか。

トークン、ベッティング、ヘルスケア、フィンテック……スポーツとの掛け算で新たなサービスがどんどん生まれています。このパラダイムシフトはスポーツ界だけではなく、他の分野でも起こっているもので、だからこそマクロな視点を持った方がいいと考えます。

 上野さんがおっしゃるように、このコロナによる現状を損失と考えるのか、改革と考えるのかで大きく分かれると思います。

実際にスタジアムやアリーナに来られないことを単純な損失ではなく、そこにチャンスがあるのではないかと逆転の発想を持つことができるかどうか。今までは6万人の箱を埋めるためにやってきて、これからは今まで通りのやり方なら3万人になってしまう。しかし10万人にリーチできる可能性があるとも思います。

例えば人気アーティストのライブ配信。今まで、東京ドームなどで行われてきたライブでは人が収まりきれませんでした。しかしライブ配信することで、リーチできる人数を格段に増やすことができる。体験できる価値はライブとオンラインではまだ差がありますが、そこを解決するための技術が開発されています。

VRの技術があれば、観戦空間を拡張できる可能性もあります。例えば、卓球台の周りで見られる超VIPシートはライブであれば10席しか作れなかったけど、それを1万人に売ることもできるかもしれません。そういう発想の転換をしていく必要があります。

上野 ARやVRは個人的に大好きで、“メタバース”、いわゆる仮想空間は今後大きなキーワードになってくるでしょう。すべての産業がメタバースに集約されていく。どこのサービスでアクセスするかの競争も激しくなっていくでしょう。この分野でも日本発のサービスが出てくるのを楽しみにしているんです。

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