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日本のスポーツ観戦が元通りになる日は来るのか?木曽崇(国際カジノ研究所) 

UPDATE 2021/09/28

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新型コロナウィルスの感染拡大防止を目的とした観客数の制限や移動の制限などはスポーツの世界にも大きな影響をもたらしている。

スタジアムやアリーナの中にとどまらず、周辺地域での観光消費を生み出すことが期待されるが、コロナ禍によって大きく落ち込んでいるのが実情だ。

果たして、日本のスポーツ産業はどうすれば復活するのか。カジノの専門研究者であり、レジャー産業の第一人者である木曽崇氏にうかがった。

東京オリパラは2週間の“打ち上げ花火”

──木曽さんはツイッターで「東京オリンピックはスポーツツーリズムの敗北だった」と発言されています。その言葉の真意は?

木曽崇(以下、木曽) 五輪招致が決まった後、スポーツツーリズムという言葉が広がりましたが、全ては「五輪を軸にどうするか」論議されていました。

しかし新型コロナウイルスが蔓延し、ほとんどの試合が無観客開催となって、海外からの入国も制限されたことで、国内外の観光は発生していません。結果的に、“五輪のため”のスポーツツーリズムは、実現しませんでした。ずっと言い続けてきましたが、今回のような大型イベントの招致ありきでスポーツツーリズムの議論を進めることは間違いです。

──五輪のような、“打ち上げ花火”的なイベントを軸に考えることは危険だと?

木曽 瞬間最大風速型の大型イベント誘致では、根源的な観光振興になりません。今回の五輪は、わずか2週間のために新しい競技場ができて、大きなホテルが開発されるなど、様々なハード面が準備されました。

しかし不動産の投資回収は、五輪が通常通りに開催されたとしても、たった2週間では足りません。最大風速の時期が終わって通常営業になった際に、投資をどう回収するんだと。

さらに今回は、コロナの影響で厳しい状況になっています。“レガシー”という言葉がありますが、実際に新設した競技場をどの程度稼働させればよいのか、何年ぐらいで回収できるのか? うまく回る施設は多くなく、おそらく東京辰巳国際水泳場くらいでしょう。

五輪のような大型イベントを短いスパンで誘致し続けられるならいいですが、それは現実的ではありません。だからこそ、大型イベントありきで観光振興をしようとする動きを否定し続けています。

スタジアム内外の“観光”が必要

──改めてスポーツツーリズムという言葉の定義について教えてください。

木曽 スポーツに伴う観光消費のことです。大きく『する型』と『見る型』に分けることができます。

『する型』とは、スポーツに参加することでお金が消費されるもの。スキューバーダイビングやスノーボード、スキー、ゴルフなどです。日本の観光コンテンツにおいても、消費金額が大きいものとして高く評価されています。

『見る型』とは、スポーツ観戦でお金の消費が発生することをいいます。チケット代だけでは、それほど大きな金額にならないため、周辺地域での消費も含まれますが、そこが広がっていないことは大きな課題です。

『見る型』のコンテンツは、さらに『聖地型』と『対戦型』の2つに分かれます。

『聖地型』は、スポーツファンが全員で同じところを観光するものです。例えば、モータースポーツにおける鈴鹿サーキット。レーシングにおける聖地としてだけでなく、レースがない日でもイベントが行なわれ、自分でレースをすることもできる。ファンはレースがない日でも鈴鹿を訪れます。

ゴルフにも、「憧れのコースでプレーしたい」という需要があります。観光軸で考えると、鈴鹿サーキットやゴルフ場のように、恒常的に誘客できるものにスポーツを昇華させる必要があります。

もう1つは、『対戦型』。サッカー、野球、バスケットボールなどのプロリーグが代表的です。この対戦型は、構造上の問題を抱えています。

──対戦型の構造問題とは?

木曽 お客様=サポーターを送客するのは、アウェイチームです。しかし彼らにとっては、現地でお金を落とすことは重要ではないため、お客様を送りっぱなしになってしまいます。

消費してほしいホーム側のチームは、地元の情報を持っていますが、アウェイから来たサポーターにアクセスするルートがありません。お客様を送り出す側と、消費してほしい側が別主体のため、観光振興が成り立たないのです。

──スケールは小さいかもしれませんが、サッカーにはアウェイのサポーターがスタジアムグルメを楽しみに行くという文化はあります。

木曽 それもスポーツツーリズムの1つですし、もっと育てる必要があります。スタジアムグルメを運営しているのはホーム側であり、アウェイサポーターにアピールできる唯一の場となっています。そこから、スタジアム外に向かっての観光波及が必要です。

まず、観光ではお客様に来てもらわなければいけません。対戦型のスポーツは最初のハードルはクリアしています。しかし、ホーム側がアウェイ側にアクセスするルートをつくらなければ、せっかく訪れたお客さんを取り逃がしてしまいます。

──この構造問題を解決するために必要なことは?

木曽 IT技術だと思っています。消費行動によりホーム側だけに恩恵があるのではなく、アウェイ側にとってもアフィリエイト的な恩恵がある仕組みを作る。それは、技術を使えば乗り越えられる課題だと思っています。

「アウェイで観光してください」だけでは観光消費は広がりません。ホーム側のチームは、ウェブサイトに観光情報をリンクさせるなどはしていますが、アウェイ側には十分に伝わっていません。

ホーム側とアウェイ側で、“Win-Winの関係”になるような仕組みが必要です。ただ……。

──ただ?

木曽 サッカーは試合数が多くありません。ホームゲームは1年間で10〜20試合程度しかない。サッカーだけのためにIT技術を用いた仕組みを作っても、利益は出ないでしょう。

本体であるJリーグがチームのためにシステムを作り、ホームとアウェイがお互いに送客しあう。そして、送客することで生まれた利益からキックバックをもらう仕組みが必要になります。

もしくはサッカーだけでなく野球やバスケットなど、同じような構造問題を抱えるスポーツ競技と一緒になって、1つの仕組みを作ることも考えられます。

野球は幸いにも試合数が多く、週末連戦の文化があって、観光消費が起きやすいスポーツです。すでに仕組みとしてうまくできているので、野球を中心に開発してサッカーでも応用するのが現実的でしょう。サッカーだけでは、仕組みができにくいと思います。

──野球は両リーグで12チームしかなく、ほとんどが大都市を拠点にしています。一方でサッカーは全国に57チームあり、サッカーのほうが全国での消費が起こりやすいのでは?

木曽 その通りです。サッカーのほうが、小さな市町村において大きな役割を果たしています。しかし、何かしらの仕組みやインフラを作るときは、サッカーのような“小さな主体”がたくさんあるようなスポーツでは難しい。

この構造問題は、対戦型のスポーツ競技全てに共通するものだからこそ、野球のような“大きな主体”がリードして、共通でお金を出してみんなでシェアするべきです。

しかしながら、大きなインフラを作ろうという動きにはなっていません。誰かが音頭をとって意識的にやらないと「大きなインフラをみんなで作ろう」という動きは加速しません。

──ホーム側はどうやって観光消費を生み出せばよいのでしょうか?

木曽 ここまではアウェイ側の話ばかりをしてきましたが、観光の世界には、“日帰り観光”という概念があります。日帰り観光の定義は、80キロ以上の移動を伴う、もしくは8時間以上の外出を伴う消費です。

現行では、スポーツ観戦は日帰り観光の枠には入っていません。試合を見て帰るだけだと、基本的に8時間以上を外で過ごすことはないからです。どうやってスポーツ観戦の前後で消費を発生させるか、そのための環境設備が、何よりも先決だと思っています。

──海外での事例があれば教えてください。

木曽 バルセロナのカンプ・ノウのように聖地型が多いです。試合がない日でも世界中から多くの人が訪れており、そうなると話は変わってきます。一方で対戦型だと、試合中しか最大誘客できない構図になりがちで、観光振興としての本質の話になりにくいですね。

──先ほどの日帰り観光に近いですが、アメリカはスタジアムの周りで1日がかりのイベントを楽しむことができます。家族でイベントを楽しみ、そのなかの1つにスポーツ観戦があるイメージです。

木曽 まさに、日本もそういう環境を育てていくことが大事になります。

ボールパーク化の流れで観戦以外のお金が生み出される

──アメリカのような仕組みは日本でも導入されていますか?

木曽 いわゆる“ボールパーク”と呼ばれる概念です。日本だと横浜DeNAベイスターズが、最初の成功例です。横浜スタジアムの運営権を取得したことによって、試合以外での自由度が格段に上がります。収益構造を変えるためにどうするかは、チームや運営会社が考えなければいけません。ベイスターズはチームが勝たなくてもお金を稼げる仕組みを作っています。

──北海道日本ハムファイターズも札幌ドームを離れて、“ボールパーク構想”を掲げて新たな球場を建設中です。

木曽 札幌市とファイターズの間で起きた、不幸な出来事だと思います。球団として、収益源を増やしたい。そのために、スタジアムのコントロールが欲しいという流れは当たり前のことです。一方で行政からすると、スタジアム運営が民営になると、自分たちでコントロールできなくなってしまう。

お互いに意見がぶつかって、最終的にファイターズが出ていった。おそらく、札幌市はファイターズが出ていくことになるとは思っていなかったでしょう。

──先に挙げた横浜DeNAベイスターズや、福岡ソフトバンクホークス、東北楽天ゴールデンイーグルスなどがボールパーク化を進めて成功しています。

木曽 そのきっかけがベイスターズです。各球団はスタジアム買収を始め、国と自治体、スポーツ競技団体が一緒になって、ボールパークをどう管理するかの研究をしています。

スポーツツーリズムの活性化にはワクチンパスポートが必要

──コロナ禍の今は、スタジアム観戦の機会が減少しています。これは消費の面で大打撃です。打開策となるのは何でしょうか?

木曽 『ワクチンパスポート』です。スポーツだけではなく、国内の施設型レジャー産業も含めてです。施設型レジャー産業は、入場制限がかけられ、密にならないためのガラガラの稼働で利益が出るほどは甘くない。

「密を避けてやりましょう」という状況がこのまま続けられるわけはなく、唯一の出口はワクチンパスポートしかない。早く国内利用を整備して、接種者は今までと同じように行動できるようにするべきです。

諸外国の状況から、ワクチン摂取率が高くなっても、集団免疫が機能することはないことは明らか。つまりは“ウィズコロナ”の期間が、しばらく続く前提で数年間は考えなければいけない。

ワクチンパスポートを整備して、接種者だけで施設稼働ができるような仕組みや環境を早急に作って欲しい。それがレジャー産業の当事者の正直な気持ちです。政府はやっと重い腰を上げましたが、加速してもらいたいです。

──ワクチンパスポートを導入することで非接種者に不利益があるのではないかとも言われています。

木曽 よく聞く意見ではありますが、逆に聞きたいです。コロナ禍になってから1年半、「マスクしていない人は入店お断り」という施設はどれくらいありましたか?

──かなりあったと思います

木曽 どこの商業施設でも、マスクをしてください、手の消毒もしてくださいと言われてきました。それとワクチンパスポートの何が違うんですか、と。商業者側は、取引・契約の自由があり、どういう人をお客様として扱うかを選択できます。感染症が蔓延している状況で、お客様を守るための必要な手段として、ワクチン接種の有無で線引きすることは自然です。

ワクチンが打てない人がいるといいますが、マスクについてもつけられない人はいます。でも、マスクをつけられない人たちの権利はこれまでそれほど議論にはなっていません。ワクチンパスポートが先行している国は、ワクチン接種の有無による施設への入場可否は、人権侵害にならないという前提で社会を回しています。

──日本にコロナ前の光景が戻ってくることはあるのでしょうか?

木曽 ワクチンパスポートが運用されれば、スポーツ産業だけでなく飲食店や音楽イベント、リゾート観光など、あらゆるレジャー産業が活性化します。

今は、リスクの高い人と低い人の区分けができていないので、一律で制限をかけている状況です。しかし、一定程度ワクチン接種が進めば、そこを区分けして元の状態に戻していくことができる。

海外の運用では、ワクチンパスポートをQRコードなどでスマホに表示して、商業施設やスタジアムの入場時に読み込ませるという運用はすでに始まっています。日本で本格的に運用が始まるのは年明けと言われていますが、状況は徐々に改善していくのではないかと思います。

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■プロフィール
木曽崇(きそ・たかし)

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。2014年9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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■クレジット
取材・編集:北健一郎(Smart Sports News編集長)
写真:浦正弘

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