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プロ12年目の27歳・鍋谷太一がツアー初V 夢で見た以上に「歩けない、前も見えない」

プロ12年目での初優勝。鍋谷太一が最高の笑顔を見せた(撮影:岩本芳弘)

<カシオワールドオープン 最終日◇26日◇Kochi黒潮カントリー クラブ(高知県)◇7335ヤード・パー72>

昨季に初シードを獲得した鍋谷太一が、プロ転向12年目にして念願のツアー初優勝を遂げた。最終18番、1メートルにつけたウイニングパットを沈めると両手でガッツポーズを決め、帽子のツバに手を当てて深く頭を下げた。その瞬間、会場は温かい拍手と大歓声に包まれて、27歳の両目からは涙があふれた。

「今、やっと実感がちょっと湧いてきたっていう感覚で。さっきのさっきまで結構マジで夢なんじゃないかな、みたいな感じで思ってました。本当にこれ現実なんかな…みたいな。ちょっとそういう信じられない気持ちが今もまだあって」と、すぐには初Vの実感を持てずにいた。

夢では何度か見ていたという自身の優勝シーン。「夢で見たのを鮮明に覚えてるわけじゃないんですけど。いつも優勝したら泣いていて(笑)。今日めちゃくちゃ終盤で優勝を意識して、15番から集中してパットをしていて。(泣くことは)多分ないやろうな、と思っていたんですよね」というが、やはり初優勝の喜びはおさえきれなかった。

「最後のパットを入れた瞬間にわけわからんぐらい涙が出てきて。『夢と一緒やないか』と思って(笑)。あの時はもうマジで歩けない。前見えないんですよ」。同組の金谷拓実と細野勇策に祝福の言葉をかけられたが、それにも答えられないほどだった。“正夢”となったいま、感じたことは「喜びはもう…本当にもう、今まで経験したことのない、そういう喜びです」と満面の笑みを見せた。

これまでの道のりは苦しかった。「QT(予選会)は多分5回ぐらい上位に入ったことがあって、前半戦はそれで権利を得たことは何回かあります。ただ、賞金ランキングで上位に入れなくて、後半戦とかは全然出られたことなかったんですよ。それがずっと、2015年ぐらいから続いていて、2018年ぐらいの時は本当にキツくなって。ゴルフは楽しくなかったし、もちろん(ゴルフと)離れたいなとかも思っていた」と苦悩を明かした。

そのときは稼ぎもなく、父親の援助で生活のやりくりをしていたという。「本当に仕事として成り立っていないなと思っていた。働いてお金を稼いでる人は本当にすごいなと思ったし、そういう人たちに対しての劣等感みたいなのが自分の中でありました」と周りの同級生が社会でお金を稼いでいる姿を見て、自分が劣っていると感じた時期もあった。

だが、その気持ちに変化を与えてくれたキッカケがあった。「結婚ですね。そのときお金が本当になかったので、『やるしかない』って自分のなかで吹っ切れて」と家庭を支える身になったことで「自分の意識も変わって」前を向けたという。

そんな苦境を乗り越えてつかんだ初勝利。今回の優勝で賞金4000万円を獲得し、賞金ランキングは23位から8位(7077万1707円)に急浮上した。さらに優勝の権利で来週行われる最終戦「JTカップ」への出場権も獲得。これまでは、「同じ週にQTが開設されていたことが結構あって、自分もそのQTに出ていた」と別の会場で来季の出場権をかけて戦っていた鍋谷にとっては、まさに憧れの大会だった。

「自分自身も特別な思いがあります。やっぱり予選落ちもないですし、30人しか出られないという超エリートの大会なので。来週も上位争いできるようにいい準備をしたい」と急きょ決まった“延長戦”に全力を尽くすつもりだ。

「目指すのは2勝目ですが、まだ2勝を狙えるレベルではない。もう1つレベルを上げないと。成長をしないといけないなって感じました」と、次なる目標に向かって歩みを進める。まずは目の前の最終戦をいい形で終えて、2024年のさらなる飛躍につなげたい。(文・高木彩音)

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