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7打差圧勝で初優勝、まさにアメリカン・ドリーム【舩越園子コラム】

リー・ホッジスのツアー初勝利は、初日から首位を譲らない完全優勝だった(撮影:GettyImages)

ミネソタ州のTPCツインシティーズで開催されたPGAツアーの「3Mオープン」は、シーズンエンドのプレーオフ・シリーズ進出の瀬戸際に立たされている選手たちが、フェデックスカップ・ランキングを向上させるべく、必死の形相で挑んでいた。

プレーオフ第1戦の「フェデックス・セントジュード選手権」には、昨年までならフェデックスカップ・ランキング上位125位までが進出できたが、今年からは上位70位までに絞られる。

メジャー通算2勝ながら今季不調のジャスティン・トーマス(米国)は、ランキング75位から今大会に臨み、トップ70入りを目指していたが、残念ながら予選落ちに終わった。

日本のエース、松山英樹はランキング54位から今大会に挑み、トップ50にランクインしてプレーオフ第2戦のBMW選手権へ、トップ30入りして10年連続となる最終戦の「ツアー選手権」へとつなげたいところだった。しかし、初日の2位発進もむなしく、最終順位は30位タイに終わった。

プレーオフ・シリーズまでのラスト2試合という切羽詰まったタイミングを迎えれば、メジャーチャンピオンたちでさえ、思うような結果を出せず、もがいている。

そんな中、これまで優勝どころか2位になったこともなかったツアー2年目の28歳の米国人選手、リー・ホッジスが、初日から首位を守り通し、記録づくめの完全優勝を成し遂げてゴルフ界をあっと驚かせた。日々、大会記録を更新し、通算24アンダー、2位に7打の大差をつける圧勝だった。

アラバマ州で生まれ育ち、地元アラバマ大学へ進んだホッジスは、カレッジゴルフで数々のタイトルを獲得し、その実力は折り紙付きだったが、PGAツアーにデビューした昨季も2年目の今季も予選通過と予選落ちがほぼ半々という成績。フェデックスカップ・ランキング74位で今大会を迎え、トーマス同様、ランキングをトップ70に引き上げてプレーオフ第1戦進出を狙っていた。

蓋を開けてみれば、初日から首位を快走する展開となった。2位に5打差で最終日を迎えるとき、ホッジスは「失うものは何もないのだから緊張する理由もない。考えすぎず、単なるゴルフだと思って挑むのみだ。この場で、この位置で戦える自分は、とてもラッキーだ」と言った。

その開き直りは、彼がすでに肝を据えていた証だった。「ラッキー」という言葉は、自分の力を過信せず、幸運のおかげだと感謝する彼の謙虚さの表れだった。そして「目の前のゴルフだけに集中する。グリーンはソフトだからアグレッシブに攻める」と、アスリート魂を燃え上がらせていた。

そんなすべてが上手く噛み合い、最終日は2イーグル・3バーディ・3ボギーの見ごたえあるゴルフを披露。4日間を通じて、パットが冴えわたっていたが、72ホール目のパー5では、レイアップ後の第3打をピンそば40センチへつけ、大観衆を沸かせた。

ウイニングパットを沈め、相棒キャディと喜びのハグを交わすと、ハイスクール時代から共に歩んできた愛妻サバンナが駆け寄り、熱いキスを交わした。夜行便に乗り、アラバマからミネソタへ文字通り、飛んできたアラバマ大学時代のゴルフ部コーチ、ジェイ・シーウェルも、うれし涙をこぼしていた。

「優勝したことが、まだ信じられないぐらいで、今週は夢のような1週間、ドリーム・ウィークだった。僕にはベスト・ワイフ、ベスト・キャディ、ベスト・コーチがいる。僕を支えてくれているベスト・ピープル全員のおかげで勝つことができた」

ツアー2年目、65試合目の初優勝は、熾烈な競争社会であるPGAツアーにおいては「早い成功」と言っていい。そのせいか、これまで出場した試合のほぼ半分で予選落ちを喫していても、ホッジスに悲壮感は感じられなかった。

しかし、勝利を挙げたこの日、ホッジスが「これまでは我が家の貯金の持ち出しでプレーしてきたけど、これで来年も僕にはPGAツアーで戦う仕事が約束された」と語ったとき、彼のこれまでの苦悩が初めて垣間見えた。

ホッジスの夢は「いつかゴルフ場のオーナーになること」。優勝賞金140万ドル(約1億9800万円)を得た今、彼は夢に大きく近づき、家計の赤字を黒字に変えて感無量。

まさに、絵に描いたようなアメリカン・ドリームだった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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