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フットサルを通して“最適化”したヴィッセル神戸。元Fリーグ監督・谷本俊介コーチが携わり「バーモントカップ準優勝」した意味と価値

V神戸が示した「フットサルはサッカーに生きる」こと

V神戸がバーモントカップを通じて示したのは「フットサルの価値」である。10数年以上前から言われてきた「フットサルはサッカーに生きる」ということだ。これには2つの意味がある。

一つは、その言葉通り、フットボールプレーヤーとしてのスキルアップだ。

フットサルとサッカーの橋渡しはこの10年で少しずつ進んできた。その過程の一つとして、日本サッカー協会(JFA)は8月に、U-12年代の選手がフットサルとサッカー、双方のプレーを経験することができる交流試合を開催し、鹿島アントラーズつくばなど4チームが参加した。

このプロジェクトに携わったJFAフットサル普及担当コーチの稲葉洸太郎氏は、JFAの報告レポート内で次のようにコメントしている。

「普段8人制に慣れているチームが集まったなかで、フットサルもプレーしてもらい、とてもポジティブな意見を多くいただきました。自分が見ていても、フットサルはたくさんボールに関われるのでボールを蹴る楽しさを感じやすく、成功体験や失敗体験の経験を多く積むこともできるので、フットボールの普及という観点において向いていると感じましたし、フットサルとサッカーを両方することで、サッカーを細かく切り取った3〜4人の局面がフットサルピッチの中で展開され、止めやすいボールでプレーすることができ、個人だけではなくグループでの関わりや、同じ絵を描いてプレーしていくためにとても良い機会になると感じました。やはり、週に1回でも2回でもフットサルをプレーし、それをまたサッカーに生かしていくようなことは大事だと実感できたので、このような取り組みをどんどん普及していきたいと思います」

“フットサル側”の視点で言えば周知の事実だが、いまだにその価値を知らない、触れていないサッカー指導者、選手が多い現実があるなかで、谷本氏が関わった上で示したV神戸の躍進やJFAのこうした取り組みを通して、今一度「フットサル」を広めていく必要があるだろう。

V神戸の選手にこの先、歩んでほしい未来

そして、フットサルのもう一つの価値とは「新しい選択肢になる」ということだ。

JFAフットサルナショナルチーム、育成ダイレクターの小森隆弘氏はこう話している。

「フットサルで輝いていた子がサッカーではそれほど目立たず、フットサルではあまり目立たなかった子がサッカーで光っていたというケースがありました。異なるタイプのフットボールに触れる機会が広い楽しみの受け皿になる可能性も示唆しているのかもしれません」

競技によって適正が異なることも、Fリーグではすでに証明され始めている事実だ。例えば現在、日本代表として戦うバルドラール浦安の石田健太郎と長坂拓海は、サッカーで全国大会に出場した帝京長岡高校出身選手である。彼らは全日本U-18フットサル大会に出場し、よりハイレベルなフットサルを体感したなかで、その後の進路にフットサルを選んだ。

他にも、大学までサッカーを続けた後にフットサルを選び、日本代表に選出された選手、高校時代にサッカーでプロになる道を諦めてからフットサルに進み、日本代表に駆け上がった選手、さらに中学や小学生時代にフットサルに触れた経験から、しばらくしてフットサル選手として歩む道を選んだ選手……本当に多くの選手が、自らに“フットサル適性”を見出している。

先に登場したV神戸のキャプテン・花元は、目を輝かせながら目標を教えてくれた。

「ヴィッセルのエンブレムをつけて、ノエビアスタジアム神戸のピッチに立ちたい」

もちろん、彼らが目指す“今”の目的地はそこだ。ただ仮に、この先どこかで立ち止まったとき、“フットサルを経験している”ことは彼らにとって大きな転機となる可能性を秘めている。

「サッカーでプロの選手になれなかったとしても、その子たちにとって最適な、素晴らしい人生が拓けてくるようにしてあげたい。たとえば、サッカー選手になれなかったけれどフットサル選手になれたら、それはそれで素晴らしいことですし、もちろんサッカー、フットサルやスポーツでなくとも自分が夢中になれること、好きなことが見つかってそれを仕事とし生きていけるのもいいと思います。フットボール界で仕事ができなかったとしても、趣味でもいいので社会人サッカーや社会人フットサル、または指導者としてなど、なんらかの形でフットボールに一生関わり続けてくれる子たちを育てたいですね」(谷本氏)

サッカーに行き詰まっても、そこは“やめどき”ではない。フットサルもある。それがフットサルのもう一つの価値なのだ。これは谷本氏が伝えたい、重要なメッセージに他ならない。

V神戸として初の決勝に臨む試合前、谷本氏はこう話していた。

「長くフットサルに関わってきた自分の最大限の力を発揮して、ヴィッセル神戸のクラブの価値を高めたい。そして、サッカーの現場に来た身として、フットサルの価値を証明したい」

決勝で敗れたものの、V神戸の戦いは、谷本氏が証明したかった“2つの価値”を示していたように感じる。それは大会を取材し、選手の戦いを目撃した者として感じた実感だ。さらに後日、「バルサを破って決勝進出」のニュースを聞いて、さらに納得感を深めた。

V神戸は、バーモントカップの2週間後に行われたU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ(ワーチャレ)でも存在感を放った。準決勝でFCバルセロナを倒して決勝に勝ち進み、最後はPK戦の末に準優勝となったものの、彼らは“フットサルとサッカー”の両方で結果を残した。

普段は8人制サッカーだが、ワーチャレは11人制で行われる。しかも、バーモントカップに向けて“5人制”に取り組んでいたV神戸は、11人制で練習する時間はほとんどなかったという。

しかしV神戸は、バルセロナと対等以上の戦いを示した(なお、バルセロナの選手たちも普段は7人制に取り組み、ちょうど今大会が行われる頃から11人制サッカーに移行していくという)。

試合映像を見てもわかるように、例えば、立ち位置で優位性をつくってボールを保持することや、フリーランニングを使ってスペースを空ける動き、マークの外し方、相手を引きつけてから出すパス、守備のライン間を“カット”するドリブルなど、V神戸のスタイルをきっちりとピッチで示せていた。

競技人数が変わっても同じように結果を残せているのは「フットボール」という枠組みで選手を育成できているから。谷本氏が「本質がブレることなく、全部をつなげられるように取り組めている」というように、選手は“フットボールの原理原則”を身につけ始めているのだろう。

V神戸が、2つの大会で“フットボールの価値”を示したことは間違いない。ただし、さらに広く、深く、その価値が証明されるには、もう少し時間がかかるかもしれない。谷本氏が進める“最適化”と、V神戸の選手たちがこれから歩む道中で、真の価値が証明されていく──。

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