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鈴木誠也の所属先は来年2月まで決まらない?長期化が懸念されるMLBロックアウト妥結のカギとは<SLUGGER>

気になる鈴木の移籍先だが、ロックアウトが妥結しない限りは決まらない。(C)Getty Images
現地12月2日、選手会との労使協定が期限切れを迎えたMLBはロックアウトに突入した。このまま新協定が結ばれないと、2022年は開幕が延期されるか、最悪の場合は中止になる恐れもある。

1994~95年に選手会がストライキを決行した際、深刻なファン離れを招いた反省から、オーナー側と選手会は協調路線をとるようになり、27年間ストライキやロックアウトに至ることはなかった。だが、前回(16年)の協定がもたらした状況に選手会は不満を募らせており、改善を求めてオーナー側と激しく対立。とうとう決裂に至ったというわけである。

選手会の一番の不満は、MLBが享受している莫大な収入が自分たちに十分還元されていない点だ。MLB機構の総収入における年俸総額のパーセンテージは、15年の57%から19年は47%まで下降。これは各球団がFA選手の長期高額契約を控え始めたことなどが理由で、15年に比べて年俸の中央値は30%も下がっている。
しかしながら、オーナー側はNFLやNBAと比べ、MLBは選手の取り分は特別低いわけではないと主張。コロナ禍で20年が無観客になった影響は甚大で、決して余裕はないとも言っている。そこで彼らは、競争力均衡税(ぜいたく税)の課税基準を下げようとしている。現状で年俸総額2億1000万ドルに設定されているのを、球団間の格差を縮めるため1億8000万ドルまで下げ、これを超過した際の罰金(超過していない球団へ均等に分配する)も値上げする。

その代わり、年俸総額を低く抑えながら分配金をタダ取りするチームが出ないように、1億ドルのサラリーフロア(年俸総額の最低基準)設定を持ち掛けている。これに対し、選手会は課税基準を厳格化すると戦力補強の意欲を削ぎ、年俸引き下げにつながるとして、逆に上限を引き上げるか、もしくはタックスそのものの廃止を目論んでいる。

オーナー側による「サービスタイム」の操作も重要な争点だ。これは有望な若手のFA権取得時期を遅らせるため、実力的にメジャー昇格の準備ができているにもかかわらず見送る策略を指すもの。現状ではFA資格を得るまで6年、年俸調停資格までは基本的に3年が必要だが、球団側が何かと理由をつけてメジャー登録を遅らせることで、資格取得が先延ばしにされる事例が恒常化している。
また、年俸調停資格を得るまでは、好成績を収めても年俸をほとんど上げずに済む点を利用し、実働3年未満の選手を積極的に登用するチームも増えている。そのため、登録日数の少ない選手も働きに見合ったサラリーが得られるよう、選手会は年俸調停資格取得を2年に短縮することを強く要求している。

だがオーナー側には譲歩の意思がなく、代わりにメジャー経験年数とは無関係に、全選手を29歳6ヵ月でFAにするという案を持ち出した。けれどもこの年齢だと、通常ならすでに下り坂にさしかかる頃で高額契約は期待できず、デビューが早い選手にとっては不利益しかない。選手側は現行の6年か、29歳6か月の早い方でFAになれる——という案なら考慮するとしている。

選手会はタンキングへの対策も強く求めている。これは低迷するチームの再建手段として、高年俸の選手を放出して支出を抑えつつ、半ば故意に低迷してドラフト指名順位を上げ、有望な選手を確保すること。その過程で高給のベテランより低年俸の選手が起用されるため、全体として給与の引き下げになる。
オーナー側も過剰なタンキングは道義的に問題だと認識しており、前述したサラリーフロアの導入で一定の年俸総額を維持するほか、ドラフトも3年続けては上位5位以内の指名はできない、とする改革案を出している。

これに関連して、プレーオフ進出枠を10球団から14球団まで拡げる点についても話し合われている。勝利を目指す球団が増えればタンキング防止につながるからで、ナ・リーグのDH制導入ともども実現性が高いと見られている。

ロックアウト突入直後、労使双方とも相手方を厳しく非難していたように隔たりは大きい。オーナー側がロックアウトに踏み切った背景には、行き先未定のFA選手たちにプレッシャーをかけ、安く契約しようと仕向ける意図があるのでは? と疑う向きもあって、早期には解決しそうもない。
妥結へ向けてのカギはやはりサービスタイムをめぐる問題だろう。交渉の過程で、選手会は年俸調停権取得までの期間を3年から2年、FA権取得を6年から5年に短縮することを求めたが、オーナー側は一蹴した。ただ、選手会にすれば、この問題をどうにかしない限りは「若い間は搾取され、FAを取ったら年齢を理由に買い叩かれる」事態は今後も変わらない。

オーナー側も、少なくとも形の上ではロックアウトを仕掛けた側。球界の活動が凍結した状態が長引けば世論の批判を浴びるのは必至で、どこかのタイミングで譲歩せざるを得ないだろう。

過去、ロックアウトが最も長く続いたのは1990年の32日間。この時は2月に始まって解決が3月19日までずれ込み、開幕が延期になった。今回はこの32日間を超える可能性が高い。交渉事では時間も大きな要素で、来年2月下旬のスプリング・トレーニング開始間近にならなければ、双方とも交渉に本腰を入れない可能性もある。
その場合、まだ市場に残っている超大物FAのカルロス・コレアや、ポスティングでのMLB移籍を目指す鈴木誠也は、ごく短期間で契約先を見つけ、シーズンに備えなければならない。この2人は確実に大型契約を手にできるのでまだいいが、中堅どころのFA選手が大量に“失業”してしまう恐れもある。いずれにしても、市場の大混乱は避けられないだろう。

不幸中の幸いがあるとすれば、ロックアウト突入がオフシーズンだったこと。しばらくの間、ファンは気長に解決を待つしかないかもしれない。

【PHOTO】いざ、メジャー挑戦へ! 「広島の至宝」鈴木誠也のベストショットを一挙公開!

文●出野哲也

【著者プロフィール】
いでの・てつや。1970年生まれ。『スラッガー』で「ダークサイドMLB——“裏歴史の主人公たち”」を連載中。NBA専門誌『ダンクシュート』にも寄稿。著書に『プロ野球 埋もれたMVPを発掘する本』『メジャー・リーグ球団史』(いずれも言視舎)。

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