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プロへの思いを固めるために――筑波大3年の阿部宏美が初めての単身海外遠征で優勝した意味<SMASH>

エジプトのITFツアー15,000ドルで初タイトルを手にした阿部宏美。これまでの迷いが嘘のように、プロの世界に飛び込むことを「楽しみです!」と言い切った。写真:本人提供
プロになるのか、それとも、テニスは大学までなのか――?

これまで、何度も聞かれてきただろうその問いを改めて尋ねた時、彼女はいつもの控え目な……ただ彼女にしては、比較的歯切れの良い口調で言った。

「だいたいは。1か月はエジプトの15,000ドルの大会に出て、その後フランスに行って、それで確定させようと思っています」

言葉の主は、大学テニスであらゆるタイトルを手に入れた、筑波大3年生の阿部宏美。その彼女がプロ転向を前提として現在、初の単身海外遠征に出ている。それも、まずは「調整くらい」の気持ちで出た最初の大会でいきなり優勝。自身の覚悟と実力を見定めるための旅で、これ以上ないスタートを切った。

大学2年生時にインカレで単複優勝を果たした阿部だが、3年生の1年間は、迷いのなかにいたと明かす。

「テニスを続けるか悩んでいた一番の理由は、テニスが楽しくなかった。もっとやりたいと思えてないのが、3年生の時だった。その状況でテニスを選ぶのは難しいなと思っていた」

楽しいと感じられなかったのは、本人いわく「大げさに言うと、伸び悩んでいた」から。

「バックハンドがずっと調子が悪くて、それが直らなくて、嫌だなと思ってて。それでも進路を決めなくちゃいけないから、プロの賞金大会にも出て、結構結果は良かった。けれど、逆にそれが……勝っても別に変わらない。逆にテニスを続けていくのがきついなと感じて。部活も休んで、去年の10月、11月は普通に就活してました」
この時の就職活動の内容次第では、もしかしたら、彼女の選ぶ道は違うものになっていたかもしれない。ただここからの3か月間で、彼女は3つの転機に遭遇する。

1つ目は、就活の面接だった。面接に行けば当然のように、会話は学生時代の活動、そしてテニスへと至る。その時、1人の面接官が、雑談のような軽い口調で、こう尋ねてきた。

「口では、プロは無理かもしれないからと言ってるけれど、どうなの? 僕には、そう感じてないように思えるけれど」

見透かされた……、思わずそう感じて、ドキリとする。この時の面接が、本当は何をしたいのかと、改めて自分に問いかける機会となった。

2つ目は、年明け早々に参加した、ユニバシアード大会の練習会。

「その時に、ユニバ日本代表の細木(祐子)監督に教えてもらったことを練習していたら、先が見えたし、久しぶりに楽しかった。もう少し続けてみたいなと思ったんです」。

テニス継続に心が傾いたそのタイミングで、背を押してくれたのが、亜細亜大学の山崎郁美からの「一緒に2月に、エジプト遠征行かない?」の一言。もしかしたら、重さを含まぬ友人からの軽快な誘いも、彼女の背を押す要因だったかもしれない。

「軽い感じだったけれど、私もそのノリに身を任せよう、今だと思って。声を掛けられなかったら、エジプトに行くことはなかったと思います」
慌ただしく決まった遠征予定は、実際にパスポートやクレジットカードなどの事前準備が間に合わず、予定より1週間遅れたうえに、阿部の先行単身出発にもなった。

それでも、これまで二の足を踏んでいた海外遠征にも、阿部は繰り出す。この時点で、実質的に心は決まっていたのだろう。

エジプトへの一人旅は、異国の「怖さ」との戦いだったと、今は笑顔で振り返る。

カイロでの乗り継ぎの際に、国内線の乗り場がわからずうろうろしていると、奪うようにカバンを手にして運んでは、チップを要求してくる人がいる。挙げ句には「タクシーに乗らないと無理だ」と車に押し込むように乗らされ、数分の乗車で40ドルも取られもした。

何とか会場に着いた後の最初の2日間は、「1日1時間半の練習以外、ずっとホテルにこもっていた」とも苦笑いする。

初戦で苦戦したのは、そのような状況下で「練習不足だった」ため。2回戦以降も、強風やコートコンディション、そして日本人選手とは異なる海外選手たちのプレーに戸惑いを覚えもした。

それでも、相手に応じて戦い方を変えられる阿部の持ち味が、この場面でも生きたという。「自分から相手にミスをさせようと、スライスや浅いボールも使って戦いました」。その臨機応変なプレーで、結果的に5つの白星を連ねた。
完璧主義者な阿部は、結果にかかわらず、常に自己評価が辛い。その彼女が、今大会に関して次のように自己採点する。

「どんな形であれ、優勝まで行けたのはうれしい。このコンディションの悪い状況全て込みで…‥ろく、ご、ろくじゅ…いや、50点くらいかな」

60からのダウングレードはいかにも彼女らしいが、50点にしても、彼女にしてはかなり高い自己評価だ。

今回、久々の国際大会に身を置き実感じたのが、欧米勢の「ボールの強さと、攻めの早さ」だという。

「前に出られる時にはパッと入って、打ち込んでくる。15,000ドルのレベルだからか、ミスする選手も多いけれど、根本的に攻める姿勢が日本人よりある。攻撃的だなと感じました」

そのような「攻撃的なテニス」との対戦は、「ミスしない」を第一義とする大学テニスに閉塞感を覚えていた彼女に、テニスの楽しみを思い出させもしたようだ。

プロとして、攻撃的な選手も多い雑多なテニスの世界に飛び込むのは、楽しみ?――
「楽しみです!」
返ってきたのは、迷いなき明るい声だった。

文●内田暁

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