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東山高校男子バレーボール部「もう一度日本一を」_CROSS DOCUMENTARYテキスト版

2022年11月19日、島津アリーナ京都。春の高校バレー京都府予選大会決勝の舞台で、東山高校の選手が躍動した。2年生エースの尾藤大樹が強烈なスパイクを決めれば― 3年生の全日本メンバー、麻野堅斗の鉄壁のブロックで、相手の攻撃をシャットアウト!

 

4年連続、15回目の春高バレー本大会への出場が決まった。

 

 

古都・京都で、明治元年に創立した東山高校。文武両道を掲げる校風の中、バレーボール部は全国の強豪として名を馳せてきた。東京オリンピック2020で日本中を沸かせたアウトサイドヒッター・高橋藍。彼を擁して挑んだ2020年の春高バレーでは、悲願の初優勝を果たしている。

 

だが、翌年は大会中に発熱者を出し、無念の棄権・・・ そして昨年大会では、誰も予想だにしていなかった1回戦敗退・・・

 

屈辱・・・挫折・・・高校生たちに負の感情が襲い掛かる。それでも、彼らは諦めることなく、春高バレーのオレンジコートを目指して立ち上がったのだ。最後の春高を迎える、3年生の麻野は言う。

 

「集大成の春高は、結果に拘ってやっていきたいです」

 

 

2年生エースの尾藤も・・・

 

「3年生を胴上げして、最後を良い形で終わりたいと思っているので、本気で日本一を取りにいきます」

 

期する思いを背に、彼らは高校日本一の座を賭け、冬の陣に臨む。

 

京都府予選大会後のある日、東山高校の体育館を訪ねた。バレー部を指揮するのは、3年間のコーチを経て、昨年の春に監督に就任した、松永理生、41歳。

 

「(得点を)取りにいくのは、一人でも二人でもない、全員です!最後にみんなで取りにいけるかどうかが大事なんだよ!」

 

中央大学バレー部監督時代、日本のエース、石川祐希を育てた経験豊富な指導者は、時に熱く厳しく、生徒たちに寄り添う。

 

「生徒とよく話すのは、アニメの話とか・・・ 当然練習の時は厳しいことを言うので、その辺りのメリ張りは付けますけど、生徒とはいつも近い距離にいたいと思いますね」

 

松永自身も高校時代からバレー漬けの日々を送り、大学、実業団で活躍。2005年には全日本のメンバーにも選ばれた。それだけに、選手が実力を蓄え、成長していくには何が必要かを熟知しているのだ。

 

 

バレー部の練習は、平日は午後3時半から6時までの2時間半。短時間である分、その内容は濃密かつ効率的だ。綿密に組まれたスケジュールに従い、5分から10分程度のメニューを次々と実行していく。それが集中を切らさずに練習に臨む、ベターな方法だと松永は言う。しかし、これだけでは真の練習にはならないと、彼は付け加える。だから生徒たちに、強い口調で要求した。

 

「同じ練習を毎日続けたら飽きます。飽きればスキルは伸びません。だから工夫をする。工夫はこっち(松永監督)がすることではなくて、自分達ですることが大事!それはやってください」

 

ここ数年、コロナ禍で実戦経験が不足する中、松永はひとつの不満を覚える。チーム全体に、コートに立つ緊張感が欠けていると感じたのだ。そこで考案したのが、倍の人数を相手にする、ゲーム形式の練習。しかも相手のブロッカー陣は高い台の上・・・ 圧倒的に不利な状況の中、ゲームは3ポイント連続で得点するまで、エンドレスで続く。正に『地獄の特訓』だ。

 

この練習で最も重要なのは、極限の中でも折れない闘争心を養うこと。この日も途中、消極的なプレーをした3年生のアウトサイドヒッター・勝山翔太が、松永の逆鱗に触れる。

 

「あんな(緩い)スパイクなんか、いらんぞ!こういう時に練習しておかないから、おまえはブロック一枚で止められるんだよ!」

 

もちろん、勝山選手が必要不可欠な存在であることを、承知しているからこその檄だ。苦しい状況で、彼がスパイクを決めれば、間違いなくチームは盛り上がる。

 

 

こうした、工夫を凝らした特訓の成果は、2022年インターハイ優勝という形で現れた。次いで、春高バレー京都予選も圧勝で突破!それでも、高校生で全日本に召集された、3年生の麻野に慢心は無い。

 

「自分たちが狙っているのは日本一なので、理生さん(松永監督)と一緒に、日本一を取るまで気を緩めることなくやっていきたいと思っています」

 

麻野だけではなく、選手ひとりひとりが、厳しくもフレンドリーな松永監督の下、確実に成長を遂げている。彼らを支える父兄たちも、それをひしひしと感じているという。2年生エース、尾藤大樹の父、正樹さんは、息子たちの成長に目を細める。

 

「試合の度に力をつけているのが判るし、精神的にも成長しているので、後は気持ち良くやってほしいなと思っています」

 

3年ぶりの王座奪還に向けて、挑戦者として春高バレーに臨む、東山高校。ひた向きに努力してきた彼らに、勝利の女神は微笑むのか・・・ 運命の日は刻々と近づいていた。

 

 

2023年1月5日、東京体育館。いよいよ春高バレーが開幕する。今大会は、準々決勝まで無観客で開催。インターハイ王者である東山高校は、シード校として2回戦から登場。戦いの舞台、オレンジコートに上がっていく。

 

初戦の相手は、北海道代表の〈ときわの森三愛高校〉。東山高校は、序盤こそ固さが目立ったものの、3年の麻野が冷静にチームを牽引し、危なげなくストレート勝ちを収める。

 

翌日は、3回戦と準々決勝が同日に行われる、ハードスケジュール。まずは〈県立岐阜商業高校〉との3回戦。輝きを放ったのは2年生エース、尾藤大樹だった。松永監督の献身的な指導で磨きをかけてきたバックアタックが、次々と相手コートに突き刺さる!ストレート勝ちで強敵を退けた。

 

その3時間半後、滋賀県代表〈近江高校〉との準々決勝。東山高校の勢いは、誰にも止められなかった。メンバーそれぞれが効果的なスパイクを決め、相手を圧倒していく。そして今大会、スーパーサブとなった3年の勝山翔太が、ピンチサーバーとして登場すると、見事なサービスエース!持ち味である高い総合力を発揮した東山高校は、1セットも落とすことなく、ベスト4進出を決めたのである。

 

この日の夜。東山高校は宿舎でのバランスの良い食事とマッサージで、英気を養う。明日の準決勝、相手は熊本代表の〈鎮西高校〉。キャプテンの池田幸紀は言う。

 

「王者対決なので、何が何でも勝ちたいと思います!」

 

高校バレーの三大イベント、そのひとつ、インターハイを制したのが東山高校なら、2つ目の国体を制したのが鎮西高校。そして、3つ目の春高バレーで、両校は雌雄を決することになったのだ。2年生の尾藤大樹は、鎮西のエースで、高校ナンバーワンの呼び声高い、桝本颯真との対決を心待ちにしている。

 

「エースの打ち合いを制して、自分がチームを勝たせます!」

 

日本一奪還に向けた大一番、準備は整った。

 

 

有観客で行われた春高バレー準決勝。東山高校対鎮西高校。優勝候補同士のぶつかり合いが始まった。東山のエース尾藤は、序盤からエンジン全開。あらゆる角度からスパイクを打ち込み、チームを盛り上げる。3年の麻野堅斗も、得意のクイックで躍動。第1セットは東山高校が先取する。

 

だが、鎮西の逆襲が始まった。高校バレー界の大エース、桝本の強烈なスパイクが次々とオレンジコートに突き刺さり、第2、第3セットを奪い返す。それでも、松永監督の檄で奮起した東山は、第4セットを取り返し、勝負は運命のファイナルセットへもつれ込んだ。

 

今大会最高試合と謳われた、王者同士の激突は、正に死闘だった。15点先取のファイナルセット、10対10で迎えた勝負どころで明暗が分かれる。東山のエース、尾藤のバックアタックは、痛恨のラインアウト。すると鎮西のエース・桝本はこの機を逃さず、豪快なサービスエースを決めた!これをきっかけに、一気に点差が広がり、東山高校が目指した日本一奪還の夢は、幻と消えた・・・

 

 

試合後、東山高校の選手たちがインタビューに答えてくれた。みんな、泣きはらした痕で目を真っ赤にしている。だが、これが最後の春高バレーとなった麻野は、何一つ後ろ向きなことは言わない。

 

「最後は、チームとしていい雰囲気で終わることができたので良かったと思います。今日は尾藤がすごく頑張ってくれた試合で、今日のようなプレーで来年もチームを引っ張って、優勝して欲しいです」

 

その2年生エース、尾藤大樹は・・・

 

「(麻野)賢斗さんを含め(先輩たちには)感謝の気持ちでいっぱいです。自分が優勝という形をプレゼントできるのは来年の1年間しかないので、全身全霊で日頃の練習からしっかり取り組んで、もう一度日本一を目指したいと思います」

 

時に良き兄貴分として、時に厳しい鬼監督として、東山の生徒たちを牽引した松永は、悔しさを滲ませながらも、優しい目で彼らひとりひとりを労った。

 

「最後まで諦めない気持ちを出してくれたので・・・もう自慢でしかないです。(生徒たちには)悔しくて泣くよりも、最後は笑ってくれとお願いしました。ゲームが始まって、あの笑顔弾ける姿を見ると、一緒に戦ってきた仲間として守ってあげたいという気持ちも出ますし、僕はこれからもそういう気持ちで変わらずやっていきたいですね」

 

 

大会会場の外で、応援してくれた父兄も混じって、全員で記念撮影をする。そこには、笑顔しかなかった。また明日から、彼らは日本一の座をつかむために走り出すのだろう。

 

 

TEXT/小此木聡(放送作家)

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