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遠藤敦(スポーツファーマシスト)。「修造系薬剤師」が、スポーツ界に革命を起こす。

今回はスポーツファーマシストの遠藤敦さんにお話を伺います。遠藤さんはスポーツのドーピング防止における専門の薬剤師(スポーツファーマシスト)であり、食事や市販薬などに由来する「うっかりドーピング」を防ぐための知識・情報を伝える本「うっかりドーピング防止マニュアル」等の執筆をされています。日本で取り上げられることの少ないドーピングに関する知識について教えて頂きました。

スポーツファーマシストとは

——まず始めに遠藤さんの経歴とこの仕事を始めたきっかけを教えてください。

もともと高校生の頃はバイクが大好きでエンジンを作りたくて、大学も機械工学の方に進んだのですが、僕はオタク過ぎて授業でやる内容がつまらなかったんです。これ高校1年の時に自分でやったわ、みたいな感じでした(笑)そんな時、祖父が亡くなったのですが、その介護をしている時に医療の現場を見ていて、人の命の関わる仕事に自然と憧れを持つようになっていきました。

あとは私は昔から化学がすごく嫌いだったので一切勉強しなくて常に赤点ばかり取っていました。でもそれなら逆に新しいことを学ぶという点においてつまらないだけということはないだろうと思ったので、自分が行ける医療系の学部を探して薬学部に通い直すことにしました。

——その振り切り方はすごいですね。あえて難しい選択をすることはなかなかできないと思います。

薬剤師になってからはしばらく国立病院で普通に働いていました。ただ、とある大学時代からの僕の師匠が起業した方がいいと常々言っていたのを思い出して、社長になりたいと考えるようになりました。国立病院は公務員で、会社をつくることができなかったので、民間企業の薬剤師に転職しました。

転職して2年くらいした時に、兄貴にロードバイクをもらって、休みの度に趣味で乗るようになりました。その頃は多摩に住んでいたので山や湖の方に行ったり、片道20kmの道のりを自転車で通勤していたりしました。自転車の楽しさから競技にも興味が出てきて、ツール・ド・フランスを観るようになりました。スポーツとしての戦略や役割分担などがあり、すごく面白いなと思ったんです。テレビ放送だと競技時間が長いので、間に解説者がいろいろな話をしてくれるのですが、その中でドーピングの話が出てきました。

——最近も海外の有名な自転車選手のドーピングが発覚して話題になりましたね。

自転車競技は昔からドーピングがある競技です。最近話題になったのはランス・アームストロングという選手で、ツール・ド・フランスを7連覇した英雄ですが、薬物使用疑惑で失格になりました。自転車はそれ以前、1960年代から薬物汚染がある競技で、薬剤師という視点で面白そうな分野だとは考えていたんです。ちょうどその頃スポーツファーマシストという資格があることを知りました。なので、その資格を受けてみたというのが今の仕事のきっかけです。

——スポーツファーマシストという資格についてもう少し詳しく教えてください。

主催は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)で、そこに日本薬剤師会が協力してできた、ドーピングに関する専門的な薬剤師という位置づけで、創設されました。スポーツのドーピング専門の薬剤師というのは世界的にも珍しく、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)にも取り上げられました。しかし日本にスポーツファーマシストは5896人いますが、ほとんどの人が動けていないというが現状です。現在実際に動いているのは100人程だと思います。

——それだけ少ないのはなぜなのでしょうか。

理由はいくつかあります。基本的にはそもそもドーピングに関する相談をする必要のある選手が少ないということ。ドーピングの検査は日本で年間4500〜5000件行われるのですが、半分以上は繰り返し当たる選手ばかりです。ドーピング検査はトップクラスの大会でしか行われないからです。またそのくらいのレベルの選手になるとスポーツ専門の医療チームのサポートを受けていたりもするので、薬に関する不安はありません。

なので、スポーツファーマシストとしてサポートするのはそのトップクラスには入れていないものの、そこを目指しているある程度レベルの高い選手達ということになります。ただ必要ではありますが、需要が多くないのです。あとはこの資格取ったあとの自己研鑚ハードルが高いのもあります。

遠藤敦

医療の分野においてスポーツの知識は必要

——スポーツファーマシストの資格取得のためにはどういった勉強をされるのでしょうか。

ドーピング検査の概要や歴史、検査に引っかかる薬物などを勉強します。一般的な薬剤師であれば少し勉強すれば取ることができます。でもそのレベルで選手の対応ができるわけではないんです。そこで僕はスポーツファーマシストの資格を持った人達が動けるような仕組みをつくろうと今動いています。

——今現在スポーツファーマシストとして動いている方々はどういった形で活動されているのでしょうか。

スポーツチームのメディカルサポートとして入っていたり、競技団体や協会側として入っている人もいます。街の薬局で働いていて、合宿所の選手達が薬をもらいに来るという形もあります。

もちろんドーピングの相談を受けるというのも僕らの仕事ですが、そもそも相談をしなくてもいいような形をつくっていくことも大切だと考えています。僕は選手のところに行って、例えば風邪薬を飲む時には気をつけなくてはいけないこと、サプリメントを摂取する時に気を付けること、病院に行く時に気を付けないといけないことなどを話しています。あとはチームや栄養士、トレーナーなど他の形で選手をサポートしている方にドーピング検査の流れをお話することもあります。

——遠藤さんは具体的にどういったチームのサポートをされているのでしょうか。

一例を上げれば、トップリーグのフットサルチームのメディカルサポートとして薬の相談やスポーツドクターへの情報提供などを行っています。

——日本ではドーピングの検査に引っかかる人は少ないのでしょうか。

日本は世界と比べてドーピングでの失格の確率は10分の1程度と考えられています。他の国ではドーピングをしたいという人が多いところもありますが、日本人は真面目だからやらないと言われています。あとは薬品が手に入りにくいことも挙げられます。

一方で海外の方が日本よりスポーツドクターが身近にいることも多いです。スポーツの中での医療体制が整っているんです。学校のチームにもトレーナーなどが付いたりしています。なので薬剤師が入っていく必要があまりないんです。反対に薬剤師の仕事としてそういったドーピングに関する知識を持っていて当たり前としている国もあります。

——今後どういった形でスポーツと医療、薬剤師を関係させていきたいと考えているのでしょうか。

スポーツは今まで薬剤師がいなかった分野なので、そこに入っていくことで新しいイノベーションが起こせると思っています。医療の分野においてスポーツの知識は必要なんです。例えば血圧の高い患者さんがいて、薬を極力飲ませたくないとなると、お医者さんは運動して食事の改善をしてくださいとよく言います。

でも薬局にその患者さんが来ても、薬剤師も具体的にどういった運動をしたらいいかはうまく伝えられる人はあまりいません。医師や薬剤師が有酸素運動で心拍数がいくつくらいで…という話をしたところで、患者さんもなかなか続けることは難しいと思います。

ケガの予兆も普段運動しない人であれば自分で分からないからケガをさせてしまうかもしれません。もしそこにスポーツ経験者がサポートに入れば、もっと楽しく、正しく運動する方法を伝えることができます。そういった形で医療側のニーズはありますし、スポーツ選手の仕事の一つにもなり得ると考えています。

遠藤敦

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