プロダーツプレイヤー・樋口雄也が説く「技術論からの脱却」。

今回はプロダーツプレーヤー・樋口雄也選手のインタビューです。樋口選手は大学卒業後に就職したレジャー関連のお仕事をされる中でダーツと出会い、その魅力に惹かれ、現在はプロ選手としてご活躍されています。昨年はPERFECTプロソフトダーツトーナメントの開幕戦・横浜大会で優勝、ツアーランキング5位という成績を収められています。

誰でもできるというダーツの魅力

——はじめに、ダーツに至るまでの経歴を教えてください。

スポーツというと中学時代にバレーボール部に所属していたくらいですね。僕は今身長が183cmあるのですが、当時既に175cmほどありました。

元々僕の父が音楽をやっていて、自分もやりたいというのがあったので、高校からはブラスバンドをやりました。大学も父と同じところに進んでジャズのビッグバンドのサークルでトロンボーンを吹いていました。

——そこからどのようにしてダーツと出会ったのでしょうか。

卒業後はサービス業の会社に就職したのですが、土日が休みではなく、音楽活動がなかなかできませんでした。それで日勤の後にビリヤードをやってお酒を飲んでから帰るというのを趣味にしていました。大学時代からよく友人と一緒にビリヤードはやっていたんです。そこにダーツも置いてありました。

ビリヤードはお酒を飲みすぎてしまうとよく分からなくなってしまうんです(笑)ダーツの方がより手軽にできるということもあってやるようになりました。でもなかなかうまくできなくて、その原因を考えるようになっていき、だんだんとのめり込んでいきました。

——まだダーツについて詳しく知らない人もいると思うので、簡単に説明して頂けますか。

ダーツはハードとソフトに分けられます。ハードダーツで使用するボードは麻を圧縮したもので、先端が金属の針になっている矢を投げて刺していきます。矢を抜いても圧縮された麻がまた元に戻るので、長くボードを使い続けることができます。主にイギリスを中心とした英語圏で盛んで、1番大きい大会になると会場に2万人ほどの観客が詰めかけます。日本ではその様子をスポーツ有料チャンネルで放送しているところもあります。

ソフトダーツとは、ハードダーツを少し的を大きくした上でデジタル化されたものです。ボードには細かな穴が開いており、そこに向かって先端がプラスチックでできている矢を投げ、穴に刺さると機械が反応し、場所に応じた得点が上の画面に表示されます。普段皆さんが目にされるものはこちらの方が多いかもしれません。今は機械がオンラインになっていて、自分専用のカードを差し込むと今日どこでプレーしているのか、過去の自己ベストは何点なのかなどを見ることができます。

——樋口さんが思う、ダーツの魅力を教えてください。

誰でもできるということです。ダーツに腕力はほとんど必要ないので、老若男女問わず一緒に遊べます。むしろコツが重要な競技ですからね。小学校3年生くらいから一緒に遊べると思います。楽しんでやる分には的に届くように決められた線より前から投げればいいので、中には子供連れでお店に来る人もいます。

あとは他の競技の皆さんでも自分が上達していくということに魅力を感じて続けている方が多いかと思います。ダーツは比較的その上達を実感しやすい競技だと思います。ダーツ未経験の人でも30分も基礎を教われば少し上達して、面白いと感じて頂けることができるのはないでしょうか。

もちろん1人で黙々と練習することもできる競技なので、人によってはそこも魅力かもしれません。ご家庭でもボードをかければ練習することができます。そしてダーツは絶対に勝敗が決します。引き分けがないということはそれだけ熱くなりますし、面白いです。

——今も自分で上達した瞬間というのを感じることはありますか。

あります。でも当然うまくいかない時もあります。ちょうど最近は調子が良くないのですが、それには技術や考え方に間違いがあって、結果としてうまくいっていない状態なのだと考えるようにしています。ある瞬間からまた何かをきっかけに好転するだろうと思っています。

樋口雄也

——ご自身の練習にはどのくらい時間を割いていますか。

あまり自分だけの練習の時間は作っていません。来たお客さんと繰り返し一緒に投げることが練習で、打ち込み稽古をしているようなイメージです。そこでいい点数が出ても出なくても次の試合には一切関係ないわけですから、お客さんとの対戦の中でいろいろ考えて試すようにしています。

何より楽しくやることが一番

——ダーツにおける日本のレベルは向上してきているのでしょうか。

必勝法のようなものはないですし、技術論もあるようなテイで語られることも多いですが、本格的に日本にソフトダーツが入ってきてから10数年と日は浅いですし、まだ確立されていません。でもその中で飛躍的にレベルは上がっています。

僕は擦り切れるくらいまで見たDVDがあります。映っているうちの何人かは今もトップで活躍されているのですが、まだ当時はその方達もアマチュアで趣味としてやっているレベルだったんです。そこから考えると日本も今は世界レベルになってきているのかもしれません。

ただ日本ではうまくなる方法や投げるまでの正しい所作について求める傾向が強いと思います。たぶん欧米人の方がそういったことに対して無頓着で、その代わりにしっかりターゲットへ投げることに意識が向いているのではないかと感じています。

——より考え方をシンプルに持つということですね。

そうです。ダーツ自体がすごくシンプルな競技だからです。対戦相手はもちろんいますが、自分が思った通りの場所に打てていれば勝てるはずです。ディフェンスという考え方が他のスポーツと比べてあまりありません。

戦略的にここを決めれば対戦相手にプレッシャーをかけられるという場合はありますが、相手に直接的な攻撃をするわけではないので、自分と戦うことの方が多いです。もし相手との駆け引きになったとしても思い描いている通りに実行できるかは結局自分次第ですからね。ゲームによってはある程度定石が決まっているものもありますが、それを実現する力が自分になければ意味がありません。

僕はその定石を崩して相手にプレッシャーをかける部分を評価して頂いています。おかしい、とよく言われます(笑)。ただそれも考えている通りに展開を組み立て、実行できる技術がなければならないですから、自分次第という部分では同じです。本当は一本も狙いを外さずに先行逃げ切りで完璧に勝つことが理想ですが、今まで海外のトップの公式戦でも2回続けて(※)パーフェクトは出たことがありません。結局のところ、外れるということです。

※パーフェクト:501ゲーム(501点からスタートして、点数を減らしていき、0点ちょうどになれば勝利)を3投(180点・180点・141点)で終わらせること

——ある程度運の良さも関係してきそうですね。

「運が悪くない」ということが大事です。どんなに狙いが正確で、同じように飛ばしていたとしても矢が弾かれてしまうことはあります。失投が運良くうまく刺さることより、運が悪くて外れてしまうことがないように願いたいです(笑)。それが勝敗に直結してくることもありますので。

——今までご自身で考えられてきたことを書き留めたりはしていないのですか。

昔はブログに書き込んだりしていました。でもその内容だけで僕のことを判断されてしまうこともあると思ったので、最近はしなくなりました。長文で書いたところで全部はうまく伝えられないので、今はその日感じたことがあれば少し書き留める程度です。ただ書かない一番の理由は書くのが面倒くさいからです(笑)

——プライベートでダーツバーなどにプレーをしに行くこともありますか。

ありますよ。お店にいるお客さんにもちろんシングルマッチであれば負けることはありませんが、工夫次第でいくらでもいい勝負にすることができます。例えば僕と初心者の方がペアを組んで、ある程度の経験者ペアと対戦すれば勝負は分からないですよね。そうやって実力差や経験差があっても楽しめるのはダーツのいいところですし、人とのコミュニケーションツールとしても最適だと思います。

樋口雄也

——当然試合の時には緊張すると思いますが、メンタル面で意識していることはありますか。

常に楽しもうと思っています。少し不真面目に聞こえるかもしれませんが、調子が悪いということを真剣に捉えないようにしています。調子が悪ければ練習をすべきだという意見も正しいと思いますが、うまくいかないままで練習を繰り返し、深みにはまっていくぐらいならその状態を受け入れてしまった方がいいと考えています。

そのうちまた調子が上がる時が来ると思って、乱されずに平常心を保つことが大切だと思います。なので基本的に自分だけの練習の時間は取りません。お店に出勤していれば投げなくてはいけない時間が仕事として存在しているので、その中でどうするかのみ考えています。

——なるほど。しかし力み過ぎない姿勢を保つのもなかなか難しいように思いま**す。**

始めは難しいことなので、意識的にそうするようにしていました。以前は他の仕事をしながらプレーをしていたので、週末試合があったとしても練習できない場合があり、落ち着かないことがよくありましたね。「練習したい」ならいくらでもすればいいと思いますが、「練習しなくてはいけない」という気持ちに駆られてやるのはよくないと考えています。

——樋口さんのアピールポイントやプレーの面で心がけていることはありますか。

追求しているのはダーツが綺麗に飛ぶことです。

——樋口さんの中でまだ自分に足りていないと思う部分があれば教えてください。

これはまだ自分でも答えを出せていない部分ではありますが、執着心や闘争心が足りていないのではないかと感じています。これは諦めないということともまた別です。僕も勝負事なので当然最後まで全力は尽くしています。むしろ僕の諦めない部分を評価してくださる方もいるので、長所だと思っています。

トップの選手と比べて技術的にまだ遅れを取っていることを自覚し、追求していくということは前提にある上で、大会そのものへのモチベーションや執着心がまだ足りていないのかもしれないと考えています。しかしまだそこに関してどう取り組んでいくのかは模索中ですね。

——これからダーツを始めたい人にアドバイスをお願いします。

ダーツもだんだんと技術論ができてきているのですが、僕は逆にそこから脱却していくべきだと思っています。細かいことは置いておいて、どうしたら楽に自分の意図したところにダーツが飛んでいくかを追求したらいいと思います。細かいところを気にすればするほど、嘘になるのではないでしょうか。そして何よりダーツを楽しくやることが一番です(笑)。

樋口雄也

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