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どんなパターも“ロングネック”にできる! 原英莉花が使う『クランクチューブ』って何?

原英莉花のパターはネックに秘密がある(撮影:ALBA)

今年の「日本女子オープン」で大会2勝目、そして2年ぶりのツアー通算5勝目を挙げた原英莉花。4勝目はオデッセイのノンインサートのブレード型パター『トゥーロン サンディエゴ』を使っていたが、いま使っているのはホワイトホットインサートを搭載したマレット型の『ホワイトホット OG ロッシー』。そのネックを見てみると、市販品とは違う独自のカスタムが施されている。

■原英莉花がロングネックを好む理由は?

この2本のパターはヘッド形状こそ異なるが、共通点がある。ともにブレード型パターに多く採用されているクランクネックで、しかもそのネックが長いのだ。

原はロングネックを好む理由について「やっぱりフェースバランスになるというところかな。真っすぐ系でいきたい。もともとカット軌道になりやすいので、真っすぐ真っすぐのほうが球がネジれないというか、つかまってくれるんです。真っすぐ出しやすいのが、私はロングネックだった」と話す。

通常、多くのブレード型や小さめのマレット型は、シャフトを台に置いたときにトゥ側が下がる『トゥヒールバランス』となる。これはフェースを開閉させながらボールをつかまえていくストロークに合う。原はアウトサイド・インのストロークのため、『トゥヒールバランス』のパターでフェースを閉じていく打ち方では、狙ったところに出球を出していくのが難しいと感じているのだ。

一方、同じクランクネックでも、ネックを長くするとヒール側に重量がきてヘッドの重心距離が短くなるため、シャフトを台に置いたときにフェースが真上を向く『フェースバランス』となる。フェース面をあまり開閉させずに、真っすぐ出していくストロークに合う。ブレード型パターや小さめのマレット型パターでも、大型マレットのような真っすぐ真っすぐのストロークがしやすい。それが原のアウトサイド・インのストロークとマッチしているのだ。

■そもそもロッシーには、クランクネックが存在しない

ただ、ここで1つの問題がある。「ブレード型よりもロッシーのほうがイメージは出しやすいんですけど、ブレード型にしかロングネックがないんです」。原がいま使っている『ホワイトホット OG ロッシー』の市販品を見てみると、シャフトが2カ所で曲がっている『ダブルベント』か、ネックが直線的で短い『ショートスラント』の展開しかない。2カ所で直角に折れているクランクネックでかつ、ロングネックのヘッドは存在しないのだ。

でもそれを何とかしてしまうのが、ツアーだけのカスタム。原の要望を解決したのが『クランクチューブ』という方法だった。

ダブルベント用の『ホワイトホット OG ロッシー』のヘッドに、シャフトの先端部をカットしたものを接着し、クランクネックの部品でつなぐ。これならネックの長さや、構えたときの見え方を自由自在に調整できる。

通常のクランクネックは、ヘッドと同一素材のものが一体となってつながっているが、この『クランクチューブ』のネックは空洞なので、それよりは少し軽い。このカスタムを施したキャロウェイのツアー担当、桜井政彦氏はいう。「普通のクランクネックよりも低重心です。ロングパットで大きく振りかぶって打つと、アッパーに当たってフェースの下めに当たりやすくなるのですが、重心が低いので芯に当たってしっかり転がってくれます」。
 
『クランクチューブ』にすることによって、原の願いを叶えるだけでなく、ロングネックの弱点をカバー(ソールについたウェートを付け替えることでも、重心の高さは調整できる)。実際、原は日本女子オープン3日目の3番パー3で、22メートルのロングパットをねじ込んでバーディを奪っている。

「私はロングでクランクネックが良かった。見た目を好みに作ってもらえてセットアップしやすいし、自分の感覚として転がりが良くなった。思ったところにボールが出ているので、ラインさえ読めれば入るなという自信はありますし、ショートパットも不安なく打てています」(原)。

その言葉通り、日本女子オープンでは勝負所のパットを何度も決めた。そんな原が次に目指すのは世界最高峰の米国女子ツアー。今月渡米してQTセカンドステージ(Qスクール、10月17~20日、米フロリダ州・プランテーションG&CC)に挑む。勝利によって信頼を増したロングネックのパターが、きっと大きな武器となるに違いない。

■西郷真央は海外移動の不安から『クランクチューブ』を採用

原以外にも『クランクチューブ』のパターを使う選手が2人いる。原と同じようにジャンボ尾崎に師事する西郷真央と、ルーキーシーズンの今季に「日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯」を含むツアー2勝を挙げている神谷そらだ。

西郷は原が使うよりももっと前から『ホワイトホット OG ロッシー』を愛用し続けている。でも同じヘッドで『クランクチューブ』に交換したのは、今年の夏以降のことだ。

ロッシーを使う理由については「これはずっとお気に入り。私はストロークの軌道はそんなにズレないタイプなんですけど、けっこう当たる場所が変わりやすい。このパターはミスヒットに強いから、打点のズレを抑えてくれる」という。それならもっと大きいヘッドのパターでもいいのでは? 「あんまり大きすぎると、パターに頼りすぎている感じがちょっと出てきちゃう」。ロッシーのミスヒットへの寛容性と、操作性の良さのバランスが、西郷にぴったりハマった。

原と西郷のパターはヘッドの種類こそ同じだが、ネックの長さは異なる。原は2インチと長く、西郷は1.5インチとそこまで長くない。当然、『クランクチューブ』を採用した理由も原とは違う。「海外に行って戻ってくると、ちょっとライ角がズレてしまうことがあって、ずっと悩んでいたんです。国内での試合は毎回ライ角を確認して調整できたんですけど、海外ではそういうことができなくて。そこでこのネックがいいんじゃないかと提案してもらいました」。

西郷は今季、米国女子ツアー6試合に参戦。飛行機による移動で、ダブルベントのネックに衝撃がかかると、ロフト角やライ角が変化してしまうことがある。たとえロフト角やライ角を同じ数字合わせたとしても、まったく同じ見た目にはならない可能性も。でも『クランクチューブ』では、動く部分がヘッドとチューブの接合部1点だけで、この箇所は硬いため、ロフト角とライ角が変わりにくいのだ。「いまのところ変化はないです」と西郷はいう。

さらに、『クランクチューブ』に換えたことにより「構えたときの座りがいいですね。あと、私がクロスハンドで握ることもあって、ハンドファーストに構えたいんですけど、このネックのほうが構えやすい」という副産物も。「それが決め手ですね」と西郷は話す。パターのネックを換えてから、2位1回、3位2回と好調なプレーが続いており、昨年5月の「ブリヂストンレディス」以来となるツアー6勝目に期待がかかる。

■神谷そらは『トリプルトラック』をクランクネック化

今季、大ブレークしている神谷が『クランクチューブ』のパターを手にしたのは、原と西郷よりもずっと早い。アマチュア時代から2年くらい大型マレットの『2-BALL ELEVEN トリプルトラック』に『クランクチューブ』を組み合わせたヘッドを愛用している。

キャロウェイのツアー担当、桜井氏は「神谷プロも原プロと同様にクランクネックを好んでいます。ただ、トリプルトラックのヘッドでクランクネックがなかった。それでクランクチューブを提案させていただきました」という。神谷が使うボールはキャロウェイ『クロムソフトトリプルトラック』。ボールにもパターにも赤と青の3本の線が描かれており、これをターゲットに合わせて打っている。

初優勝こそ別のパターだったが、昨年のプロテストでトップ合格したときも、今年9月の日本女子プロ選手権で初めてメジャータイトルを獲ったときも、このパターを使っていた。ネックの長さは、原と西郷のちょうど中間の1.75インチとなっている。

さらに、「日本女子プロゴルフ選手権のときに、グリーンが重いし荒れている状況だったので、『出球を静かにしたい』という要望があり、インサートをホワイトホットからマイクロヒンジに換えています」と桜井氏は教えてくれた。もちろん、『2-BALL ELEVEN トリプルトラック』のマイクロヒンジインサートは、市販品には存在しない。ツアーではそんなカスタムまでできてしまうのだ。

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