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ソルハイムカップ、惜敗した米国キャプテンの提言は「未来への勝利」【舩越園子コラム】

米国チームのキャプテンを務めたステイシー・ルイス(撮影:GettyImages)

スペインで開催された女子ゴルフの米欧対抗戦「ソルハイムカップ」は、最終日のシングルスマッチで前回優勝の欧州チームの得点が14ポイントに達した時点で実質勝利が決まり、トロフィー奪還には14.5ポイント獲得が求められていた米国チームは僅差での実質惜敗に唇を嚙み締めた。

とはいえ、最終スコアは「14対14」。大会史上初の同点となったことは、両チームの実力が拮抗し、どちらも大健闘だったことを如実に物語っていた。きっと世界中のゴルフファンをテレビ中継に釘付けにしたのではないだろうか。
 
そんな様子を眺めていたら、開幕前に米国キャプテンのステイシー・ルイスが声高に叫んだある提言が、あらためて思い出された。
 
ソルハイムカップは男子の米欧対抗戦「ライダーカップ」に倣い、1990年に米フロリダ州オーランドで創始されて以来、ライダーカップ同様、2年に1度、開催されている。
 
通常、両大会は別々の年に開催されるのだが、コロナ禍などで開催年がずれ込んだ結果、今年はスペインでソルハイムカップが開催された翌週に、イタリアでライダーカップが開催されるという史上初の変則日程になった。
 
米国キャプテンのルイスは、そのイレギュラーな連続開催を「活用しない手はない」と指摘。「ソルハイムカップとライダーカップがせっかく2週連続で開催されるのだから、今からでも両大会はコラボすべきだ」と声を上げた。
 
ソルハイムカップは米LPGAと欧州女子ツアーのLETの共同開催で、ライダーカップはPGAオブ・アメリカの主催ゆえ、運営する団体はまったく別々で、スポンサーもテレビ中継局も異なるため、PGAオブ・アメリカは「即コラボは難しい」と返答した。その後、ソルハイムカップのスコアや展開をSNSで速報するなどの支援を約束する歩み寄りを見せ、ルイスの提言は、わずかながらも前進した。
 
とはいえ、1927年に創設されたライダーカップが96年の歴史を誇るのに対し、ソルハイムカップの歴史は33年。その差を考えれば、両者のコラボには無理があると感じたゴルフファンは少なくなかったに違いない。
 
しかし、今年のソルハイムカップの熱い展開を目にして、少々、考えを変えた人も少なくなかったのではないだろうか。
 
初日は午前の4マッチを米国チームが全勝する史上初のロケットスタートで「USA強し」をアピールした。だが、欧州チームは午後の4マッチで2勝2分けと巻き返し、2日目には午前と午後で合計5勝の大挽回。「8対8」の同点に持ち込んだ。
 
最終日のシングルスマッチでも一時は米国優勢と思われたが、ネバーギブアップの欧州チームは徐々に盛り返し、地元スペイン出身のカルロタ・シガンダがウイニングパットを沈めた瞬間、トロフィー保持に求められていた14ポイントを獲得して勝利を決めた。
 
そこに至る過程では、欧州キャプテンのスーザン・ペターセン(ノルウェー)によるクリエイティブな戦略と戦術が見て取れた。
 
リン・グラント(スウェーデン)など勢いのある3人を初日と2日目に4度も登用した一方で、「隠し玉」のキャロライン・ヘドバル(スウェーデン)は2日目の午後まで1度もプレーさせず、エネルギーを温存。そのヘッドウォールが最終日の終盤にかけて快勝し、それが欧州チームの巻き返しの引き金になったことは、欧州キャプテンによる見事な作戦勝ちだった。
 
ソルハイムカップは創設からの歳月の長さや歴史の重みにおいては、ライダーカップの比ではないものの、ハイレベルなゴルフ、見ごたえあるプレー、大観衆の熱狂ぶりはライダーカップに迫るものがあり、両大会がコラボする価値は大いにあると感じさせられた。
 
歴史はどこかで誰かが変えるもの。そのための提言は、往々にして最初は「無茶」「無謀」と見られがちなのだろうが、後々、「勇気ある提言だった」「価値ある提言だった」と振り返られるように思えてならない。
 
ソルハイムカップは来年も開催され、従来の偶数年開催に戻るのだが、ライダーカップは奇数年開催を維持していく予定ゆえ、両大会が2週連続開催となってコラボするチャンスは、もはや当面はやってこない。
 
しかし、ルイスの提言は無駄にはならず、今後、何かの形で実を結ぶはずだと信じたい。そうやって歴史を動かすきっかけを作ったことは、米国チームのキャプテンがひっそり挙げた未来への勝利だ。
 
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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