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サウジアラビアとの和解の立役者? ジミー・ダン氏は“9・11”で多くの仲間を失っていた

ローリー・マキロイ(左)とジミー・ダン氏(撮影:GettyImages)

LIVゴルフをバッグアップするサウジアラビアの政府系ファンド「PIF」と、米PGAツアー、DPワールド(欧州)ツアーが手を取り合うという大ニュースにゴルフ界は激震が走った。その和解のプロセスはわずか7週間だったという。そこには昨年11月に米PGAツアーと個人契約でボードメンバーに加わったジミー・ダン氏(66歳)が関わっている。

サウジアラビアとの統合は、2001年9月11日に起きた世界同時多発テロの遺族から大きな反発は避けられなかった。なぜなら、ニューヨークのワールドトレードセンターなどに突っ込んだ飛行機をハイジャックしたテロリスト19人中15人がサウジアラビア国籍だったからだ。
 
8日、ダン氏は米ゴルフチャンネルに出演。その中で「9・11の実行犯がもし目の前に居たら、それが誰であろうと私が自分で殺してしまうだろう」と強い言葉で非難した。あの日の犠牲者の一人になっていてもおかしくなかったダン氏は、むしろ助かったのが奇跡だったのかもしれない。
 
ダン氏が副会長を務めるパイパー・サンドラー投資銀行の当時のオフィスは、ワールドトレードセンター、サウスタワーの104階にあった。この日、ダン氏は全米ミッドアマの予選会に出場するため休暇を取っていて難を逃れたが、当然多くの仲間を失った。171人の社員のうち66人が犠牲になったという。
 
「今も朝起きて一番に考えることはあの日のこと。夜休む前に考えることも同じ。犠牲者の家族の思いは誰よりも理解している」とダン氏。一方で、「私が本件で対峙しているサウジアラビアの人々は、あのテロ事件とはまったく関わりがない」と明確にした。そしてサウジアラビアと対話を持つためにPIFの代表、ヤシル・アル・ルマヤン氏と連絡を取り、わずか2カ月足らずで合意を取り付けた。
 
ビジネスマンのダン氏だが、その存在はゴルフ界ではよく知られている。オーガスタナショナルGCのメンバーというだけでなく、パインバレーGC(ニュージャージー州)、ナショナルゴルフリンクス(ニューヨーク州)と米国の超名門クラブのメンバーで、さらにフロリダ州のセミノールGCの会長も務め、数多くのツアープロと親交を持つ。
 
ダン氏は「みなそれぞれの考えがあるだろうが、長期的にゴルフにとってベストな解決策を見いだしたかった」とPIFとの対話を始めた思いを語った。
 
「9・11を忘れないでいるだけじゃいけない。亡くなった仲間たちはゴルフというゲームのために何か行動をとることを望んでいるはず。ゴルフだけでなく人々の架け橋になるために行動を起こした」と胸の内を明かす。これは、ダン氏の辣腕ビジネスマンとしての腕を見込んだ、米PGAツアーのジェイ・モナハン会長の戦略だったのかもしれない。(文・武川玲子=米国在住)

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