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BsGirlsのパフォーマンスに驚き、石川のコメントに感激。そして極寒の神戸での決着…「日本シリーズ全試合現地観戦記」<SLUGGER>

日本シリーズ史に残る激闘は、ヤクルトの4勝2敗で決着した。写真:塚本凛平(THE DIGEST写真部)
 歴史的な名勝負となったヤクルトとオリックスの日本シリーズ。その全6試合を現地で観戦した。振り返ってみるとあっという間の1週間だったが、同時に多くの出来事に彩られた濃密な1週間でもあった。

◎京セラドームでの驚き
 若き好投手たちの好投で1勝1敗に終わった京セラドームでの最初の2試合は、サヨナラ負けを含めて驚きの連続だった。大舞台でもサンタナとオスナはモヤとラベロと談笑し、お互いを称え合うかのようなハグをしていた。その輪にジョーンズがいないのは気になったが、ピリピリとした雰囲気はなく、異国の地で戦う外国人選手たちの絆の強さが感じ取れた。

【PHOTO】京セラドームで笑顔はじける! オリックス『BsGirls』を一挙に紹介!

 試合前のパフォーマンスにも驚かされた。チアガールがパフォーマンスを行なうのは珍しくない。だが、オリックスのBsGirlsは自ら歌い出した。周りのヤクルトファンも「え、歌うの?」ときょとんとしながらも耳を澄ましていた。
  普段聞くことのない登場曲も新鮮だった。1番・福田周平の『檄!帝国華撃団』は、塩見泰隆の『G1ファンファーレ』に匹敵するインパクトがあった。全体的にヤクルトの選曲とはテイストが違う。

 スコアボードに映し出される情報量も多く、面白い。宮城大弥の「俺をこう呼んでくれ」欄には「みやぎ」とある。そのまんまだ。いや、愛くるしいキャラクターからか「くん」づけで呼ばれることの多い宮城は、実は呼び捨ての方がいいのだろうか。そんなくだらないことまで考えてしまう。この頃はまだ余裕があった。

◎東京ドームで甦る記憶
 東京ドームでの初戦(第3戦)は祝日ということもあり、開門前からグッズ売り場に長蛇の列ができていた。夏場に行った主催試合とは比べものにならないほどの人、人、人。少し肌寒いドーム内の飲食店も列が途切れない。試合終盤には品切れとなる店舗もあった。人数制限の上限がそもそも違うが、それでも明らかに人は多かった。コロナ禍の前、2年前までの「日常」を思い出す。

 7回、サンタナの逆転弾に傘が舞った。「東京ドーム×サンタナ×ライト方向の一発」に、マリナーズの一員として戦った2019年のMLB開幕シリーズの記憶が蘇ってくる。
  第4戦は石川雅規が魅せた。1か月前にこの地で1回もたずノックアウトされた石川はどこにもいなかった。2敗を喫した6年前の日本シリーズの忘れ物を見事に回収するかっこ良さ。単独でのヒーローインタビューではにかみながら発した「日本シリーズに来るまでも長かったですし、ここでまた勝つことができたのは、自分自身に『良かったね』って言ってあげたい」の言葉は、1996年アトランタ五輪の有森裕子を彷彿させた。

 王手をかけて臨んだ第5戦の山田哲人の一発にスタンドは揺れ、ジョーンズの勝ち越し弾でスワローズファンのため息が共鳴した。「あと一つ」が果てしなく遠い。第5戦に敗れても3勝2敗と勝ち越しているのに余裕がなくなっていく。一気に決められなかったシーズン終盤の苦しみを思い出す。「絶対大丈夫」が「本当に大丈夫? 」に変わりそうだった。

◎ほっともっとフィールド神戸での歓喜
 最終決戦の地・ほっともっとフィールド神戸は極寒だった。気温は1ケタ。カイロは必須。SNSではさまざま々な注意喚起が飛び交っていた。これを見越して、というわけではないだろうが、ヤクルトはここ2年でパイロットハット、スヌード、ボアパーカーを無料配布してきた。ヤクルトありがとう。その3点セットを着こんで寒さをしのぎ、時折白い息を吐きながら観戦していた。
  1対1で迎えた9回裏、1点取られたらサヨナラ負けで日本一は翌日以降に持ち越しになる。緊迫した状況下で、マウンドの清水昇はモヤを四球で歩かせた。嫌な雰囲気が立ち込める。オリックスファンは湧く。それを振り払ったのが山田哲人キャプテンだった。清水に歩み寄るのではなく、小走りで駆け寄り何かをアドバイス。そこから清水は立ち直った。

 このシリーズで、山田は第5戦の同点本塁打以外にバットでは結果を出すことができていなかった。それでも、グラウンド上ではキャプテンとして振る舞い、スワローズファンを含めたみんなに安心感を与えていた。「いいキャプテンだなぁ」。小さい声が出る。
  延長12回、最後の攻撃。代打・川端慎吾の勝ち越しタイムリーで塩見泰隆が生還した瞬間から、球場全体のソワソワが始まった。その裏、2死から宗佑磨の打球を山田が捕球。転送された送球が一塁のオスナのグラブに収まった瞬間、ほっとして目を閉じた。その後のことはあまり覚えていない。

 ゲームセットの瞬間から無我夢中でシャッターを切り、あちこちで始まる選手たちの抱擁を眺めていた。オリックスの中嶋聡監督は高津臣吾監督へキャップを取って手を振っている。敗軍の将のねぎらいに高津監督も応えた。

 胴上げやセレモニーが終わり、選手たちが思い思いのメンバーで写真を撮っている中、突如として始まった森岡良介コーチの胴上げに深い意味があるのかを考えてしまう。どこからか聞こえる「つば九郎—!胴上げしてもらえ!」の野次が響く中、最後までフィールドでの選手たちのセレブレーションを見届ける。終電を逃し、三宮までタクシーを走らせた。どうしても涙が出る。
 【PHOTO】球場を盛り上げるスワローズ・ダンスチーム『Passion』を一挙に紹介!

 日本シリーズに進出したことで得た安堵感から、驚きを経て喜びに痛い出費。たくさんの苦しみもあったけれども、終わってみればどれもいい思い出となった。日本一はやっぱりいい。

文●勝田聡

【著者プロフィール】 
かつた・さとし。1979年生まれ、東京都出身。人材派遣業界、食品業界で従事し30代後半で独立。プロ野球、独立リーグ、MLBなど年間100試合ほど現地観戦を行っている。2016年から神宮球場でのヤクルト戦を全試合観戦中。 
 

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