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通算4勝目を飾ったニック・テイラー 「敗者」から「勝者」へのストーリー【舩越園子コラム】

ニック・テイラーがプレーオフを制しツアー通算4勝目を飾った(撮影:GettyImages)

<WMフェニックス・オープン 最終日◇11日◇TPCスコッツデール スタジアムC(米アリゾナ州)◇7261ヤード・パー71>

米国男子ツアーは、悪天候に見舞われて3日間54ホールに短縮された先週の「AT&Tペブルビーチ・プロアマ」に続き、今週の「WMフェニックスオープン」も悪天候に悩まされた。

プロアマ戦は中止され、初日からサスペンデッドと日没順延を繰り返す不規則進行。最終日は全72ホールを終えることができるだろうかと心配されていたが、結果的にはサドンデス・プレーオフ2ホールを含む合計74ホールを日没寸前で終了させることができた。勝者に輝いたのは、カナダ出身の35歳、ニック・テイラーだった。

そもそも最終ラウンドを首位で迎えたのはテイラーだったため、スコアの動きを振り返れば、テイラーが“順当勝ち”したかのようにも見える。だが、開催されたTPCスコッツデール スタジアムCのサンデーアフターヌーン(最終日の残り9ホール)に繰り広げられたドラマは、そんな単調な展開ではなく、最後の最後まで手に汗握る熱戦だった。

最終日の終盤、勝利へ大きく近づいたのは47歳のベテラン選手、チャーリー・ホフマン(米国)だった。前半で3つスコアを伸ばしたホフマンは、後半13番でイーグル、14番と15番で連続バーディを奪い、トータル21アンダー・単独首位でフィニッシュ。クラブハウスで後続組を静かに待った。

すると、後続組だったテイラーが15、16番の連続バーディで追撃。最終18番のバーディでホフマンと並び、プレーオフへ突入した。18番を繰り返したプレーオフ2ホール目で、9メートルを沈められなかったホフマンを傍目に、テイラーが3メートル半を沈め、勝負が決まった。

思い出されるのは昨年大会。テイラーは大会連覇を狙っていたスコッティ・シェフラー(米国)と優勝を競い合い、当時はシェフラーが勝利して、テイラーは2打差で惜敗した。だが、テイラーは負けた悔しさを感じながらも爽やかな表情だった。というのも、当時不調に喘いでいたテイラーは世界ランキング223位で同大会に臨み、それでも優勝争いに絡めたことは彼にとって大きな手ごたえと自信になったからだった。

「僕にはグレートな戦いができるんだと確信できた」。それから4カ月後の6月、テイラーは母国で開催された「RBCカナディアン・オープン」を制し、ツアー通算3勝目を挙げて故郷に錦を飾った。そして、今大会で今季初優勝、通算4勝目となった。

「今日の序盤はショットが乱れ気味で苦しい流れだったけど、必要なところで必要なパットが入ってくれた。家族とたくさんの友人に囲まれて勝つことができた。信じられないぐらい、うれしい」

そんなテイラーに、終始温かい視線を向けていたのはホフマンだった。テイラーが72ホール目のバーディパットを沈め、プレーオフ突入が決まったとき、ホフマンはクラブハウスへ上がってくるテイラーを待ち受け、ハイファイブでテイラーの健闘を讃えていた。

74ホール目でテイラーがウイニングパットを沈めた瞬間、ホフマンは真っ先に拍手を送り、アウエイであるテイラーへの拍手喝さいを大観衆に促していた。ホフマンは通算4勝を誇る熟練選手だが、故障もあって昨今は成績が低迷し、今大会には世界ランキング300位で臨んでいた。それでも優勝争いに絡んだところは、昨年のテイラーとそっくりの状況だった。

そして、惜敗したホフマンが口にした言葉も、昨年のテイラーの言葉とそっくりだった。「18番を続けざまに3回プレーして楽しかった。まだまだ僕も世界のベストプレーヤーを相手に、しっかり戦えることがわかって、うれしかった。でも負けるのは好きじゃない」。だから次こそは勝つのだと言わんばりのホフマンの口調が頼もしく感じられた。

そういえば、松山英樹は2015年大会で惜敗後、翌16年、17年と連覇を達成。テイラーも昨年大会で惜敗後、今大会で勝利を挙げた。惜敗したホフマンも来年の大会で優勝する? そんな期待が膨らんでくる。勝ってナンボのゴルフだが、負けたあとにどう振る舞い、どう努力し、どんな結果を出すか。そんな敗者から勝者へのストーリーは、どんな時代も人々の心に響くものである。(文/舩越園子 ゴルフジャーナリスト)

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