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「殿様商売」にピリオド⁉ PGAツアーの変化がもたらすもの【舩越園子コラム】

ゴルフ界のサバイバルにもがき続ける小平智に新たな道が(撮影:岩本芳弘)

今年の「ZOZOチャンピオンシップ」で、久しぶりに会った小平智の変化に少々驚かされた。

2018年4月に「RBCヘリテージ」で初優勝を挙げたころの小平は、PGAツアー優勝者の仲間入りをしたとはいえ、「線が細い」という印象だった。
 
以後、小平は優勝で得た2年間のシード権を行使してPGAツアーでフル参戦を開始した。だが、その後はフェデックスカップ・ランキング125位圏外となり、フルシード権を維持できなくなっていった。
 
やがて126位から150位に授けられるコンディショナル(準シード)すら逃し、コーンフェリーツアーのファイナルズを経由したり、推薦に頼ったり、オルタネート(補欠)として待機し、繰り上がり出場したこともあった。
 
そうやって考えられる方法をフル活用しながら、なんとかPGAツアーにしがみ付いてきた小平のこの5年間は、文字通りの「背水の陣」だった。
 
だが、習志野で再会した小平には、そんな熾烈なサバイバル合戦を戦い抜いてきたからこそ身に付いたと思われる強さとたくましさが感じられた。
 
何より驚かされたのは彼の肉体的変化だった。以前とは比べものにならないほど筋肉隆々になり、トレーニングを重ねたことが一目でわかった。
 
スポンサー推薦で「ZOZOチャンピオンシップ」に出場した小平のフェデックスカップ・ランキングは185位だったが、習志野で勝利を挙げて2年間のシード権を獲得するか、優勝できずとも上位フィニッシュしてランキングを125位以内、せめて150位以内までアップさせることを彼は目指していた。
 
実際、首位から3打差の5位タイという好位置で3日目を終えた彼は「推薦をいただいて得たこのチャンスを是が非でもモノにしたい」。強い言葉で毅然と言い切った姿からは、以前には感じられなかった彼の心の強さがありありと伝わってきた。
 
とはいえ、残念ながら最終日はスコアを伸ばせず、12位タイ。ランキングは154位まで上昇したものの、依然として準シード圏外だ。今季の残り3試合に望みをつなぐとしても、出場できるかどうかさえ定かではない。
 
フェデックスカップ・フォールが進行中の今、そんな小平と同様の窮状に置かれているPGAツアー選手は実を言えば、少なくない。だが、そこに突然、一筋の光が差し込んだ。
 
10月23日、欧州のDPワールドツアーから新規定が発表されたのだ。今年のPGAツアーのフェデックスカップ126位から200位の選手には2024年のDPワールドツアーのメンバーシップが授けられ、同ツアーの各試合には、このカテゴリーからの出場枠が5枠、設けられることになった。
 
さらには、DPワールドツアーで年間4試合以上プレーしたPGAツアー選手は、ノンメンバーとしてDPワールドツアーのポイントレースに参加し、シーズンエンドのボーナスを獲得することも可能になった。
 
DPワールドツアーのキース・ペリー会長いわく、「昨年は我々のツアーのトップ10にPGAツアーへの道を開いてもらった。今回はPGAツアーの選手が我々のツアーに来る道を授けたい」。
 
この「新たな道」は、小平のように125位あるいは150位の壁に四苦八苦しつつ、それでも世界の舞台で戦うことを望む選手たちにとって、何よりの朗報である。
 
ゴルフ界のピラミッドの頂点とされるPGAツアーは長年、強い選手には甘く、弱い選手には厳しく、「ここに戻りたいなら這い上がってこい」という姿勢を貫いてきた。
 
その姿勢は「あまりにも独善的で高圧的」「殿様商売だ」と批判されることもあったが、弱肉強食の世界では当たり前と見る向きは多く、これまでPGAツアーが強硬姿勢を緩めたことは一度もなかった。
 
だが、スター選手がこぞってリブゴルフへ移籍してからは、PGAツアーの姿勢は徐々に軟化されている。DPワールドツアーのトップ10受け入れは、その1つ。PGAツアー・ユニバーシティを創設し、大学ゴルフ出身選手を受け入れるなど門戸を広げつつある。
 
そして今回はシード落ちの選手たちの戦う場と機会を増やす施策を創設。PGAツアーが第一線から落ちかけている選手たちに手を差し伸べたのは今回が史上初。そんな歴史的変化をもたらしたきっかけは、あのリブゴルフが創設されたことだった。
 
小平や彼と同様の立ち位置にあるPGAツアー選手たちに新たな道が開かれたことで、今後、彼らのサバイバル性はさらに磨かれていく。「弱い選手」と切り捨てられるところだった彼らが、きっとこれまで以上に強さとたくましさを増していくことだろう。
 
受け皿の拡大は選手たちへの単なる温情ではなく、彼らの底力の醸成、ひいてはPGAツアー全体、ゴルフ界全体の向上につながっていくのではないか。
 
PGAツアーに食い下がりなら、たくましく成長している小平を目の当たりにして、そんなことを考えさせられた。
 
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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