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「トップ選手を教える指導者が少ない」「Tリーグの発展は急務」前日本代表監督・倉嶋洋介が抱く日本卓球界の課題

ホームマッチでは平均1,000人集客を目指す

——チームとしての今季の取り組みはいかがでしょうか。 倉嶋洋介総監督:とにかく集客を意識したいですね。 コロナ禍で今後については明言できませんが、目標としては今年、ホームマッチでアベレージ1,000人集客を目指し、ファン拡大とPRに取り組んでいきたいと思っています。

——意欲的な目標ですね。どんな施策を考えていますか。 倉嶋洋介総監督:コロナ禍でストップしていたファンクラブを復活させて、開幕までに増やしながら、講習会や大会、イベントを木下グループ主催で行っていきます。 練習場見学や、“及川と10分レッスンを受けられます”、“インスタライブで練習が見られます”など、ファンの方に喜んでもらえる仕掛けをたくさん作っていきたいと思っています。

写真:シーズン最終戦を終えた木下マイスター東京メンバー/撮影:ラリーズ編集部
写真:昨季木下マイスター東京のメンバー/撮影:ラリーズ編集部——良いですね。これまでのイメージと、少し違いますね。 倉嶋洋介総監督:力を貸してください。 ——微力ですが、こちらこそぜひ。 代表監督を9年、そして今、Tリーグ優勝チームの総監督を務める倉嶋さんには、日本の卓球界全体にできることは多い気がしますね。

倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)
写真:倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)/撮影:槌谷昭人## 卓球のプロコーチが食べていける時代を

倉嶋洋介総監督:それで言うと、卓球のプロコーチでもっとみんなが食べていける時代を作らないといけない、と思ってます。 先ほども言いましたが、いま、日本にトップ選手を教える指導者がすごく少ないように思います。でも、情熱を持って一生懸命子どもたちを教えている指導者はたくさんいて、そこに今の卓球界は支えられています。

もっと現場に近い指導者研修の機会を作ることで、“子どもたちも教えられる、トップ選手も教えられる”という指導者が増えてほしい。卓球指導者の道をもっと整備したいと考えています。

同時に、例えば指導者ライセンス制度を導入して、S級だったらTリーグ監督ができる、A級なら全国大会ベンチに入れるとか、指導者の研鑽できる場の提供や熱を高める仕組みも必要ですね。

——なるほど。 倉嶋洋介総監督:木下グループには幼稚園児から地域のジュニアコース、アカデミーからトップチームまであります。 まずは丸1日とかで良いので、僕らが選手たちに指導する様子、その練習方法やコミュニケーションなどを見てもらい、何でも我々指導者に質問してもらって、“共感”してもらったり、新しい発見をしてもらったり、指導者としての自信を持ってもらう機会だけであってもいいかなと思っています。

木下グループ卓球部の練習場
写真:木下グループ卓球部は充実のトレーニング設備も備えている/撮影:槌谷昭人——確かに、民間でこれだけの環境はなかなかないですよね。 倉嶋洋介総監督:トレセン(味の素ナショナルトレーニングセンター)も含めて環境が整い、選手も強くなってきて、あとは指導者育成の仕組みを作る、その3本柱がしっかりしていれば、今後も日本はメダルを逃すような国にはならないと思います。 木下卓球アカデミーの生徒たちが練習する第2卓球場
写真:木下卓球アカデミーの生徒たちが練習する第2卓球場/撮影:槌谷昭人

倉嶋洋介、指導者への原点

——倉嶋さん自身も、そうした研修の機会はあったんですか。 倉嶋洋介総監督:僕は、ナショナルコーチアカデミーというJOCの指導者研修を受けました。もう10年前くらいですが、2ヶ月間ほど。 それがすごく良かった。今でもはっきり覚えてます。

サッカー協会のS級ライセンス、Jリーグの監督をやるための研修を見せてもらう機会だったんですが、フォーメーション練習の際に、一人の指導者が“ちょっとストップ、もっとこうだ、こうやって”と、生き生きと元気に選手を指導していたんです。
“良い指導するなあ”と思って僕は見ていたんですが、終了後のミーティングで、研修の講師の方がその指導者に言いました。

“オーバーワークです”と。

そこまで選手に対して自分から言ってはダメだ、もっと選手に考えさせなさいと。毎回練習をストップさせてたら効率も悪い。それはあなたの傲慢か怠慢でしかない、と、とても厳しい内容でした。

僕は競泳のコーチなどと一緒に見ていたんですが、グサッと刺さりました。

Jリーグ、すごいなと。しっかりと指導者を育成する現場を体験して、卓球でも必要だよなあと痛感しました。

指導者育成の仕組みを作るべきという考えの原点かもしれません。

倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)
写真:倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)/撮影:槌谷昭人## 倉嶋洋介が声を荒らげない理由

——その研修は、倉嶋さんのどんな場面でも穏やかな指導スタイルにも関係するのでしょうか。 倉嶋洋介総監督:そうですね。そこは最初からずっと変わらず、怒ることもあんまりしないですし、大声出して怒鳴ったことなんて、たぶん1回もないと思うんですよね。 ——なぜですか。 倉嶋洋介総監督:怒ったり手を出したりしたら、言葉が自分に無いんだなと思うので。 言葉で言い切れて、相手が納得すれば絶対にそれが良いことじゃないですか。その言葉がないから感情的になってしまうだけで。僕らは言葉でコミュニケーションを取ってるわけだから。

ただ、どのタイミングでどんな言葉をかけたら良いかというのは、選手に注意するときにも、いつも気にかけています。

倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)
写真:倉嶋洋介(木下グループ卓球部総監督)/撮影:槌谷昭人

取材を終えて

確かに、むしろ今後のほうが、日本卓球界の課題解決と発展のため、倉嶋洋介氏の双肩にかかる期待は大きいのかもしれない。

「ナショナルチーム監督は素晴らしい人生経験、人生勉強でした。その経験を木下グループで全て出し切りたいんです。それが日本卓球界のためにもなるはずだから」

視野が広い。

「でも、あの重い重圧は、もういいかな」

そう言って笑う男に、新緑の川崎の心地よい風が吹きぬけていった。

(終わり)

>>「誰にも相談できなかった」卓球前日本代表監督・倉嶋洋介に聞いた 指導者の栄光と孤独

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