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北海道と沖縄のスタジアム・アリーナから見る日本スポーツ界の現在地

7月1日。東京都千代田区の日経ホールにおいてスポーツビジネスカンファレンスが行われた。

「B.LEAGUEの挑戦」〜バスケ界のさらなる発展を目指して〜と銘打たれた今回のイベントは、Bリーグ関係者のみならず、プロ野球チームの経営者やスポンサー企業からもパネラーを招き、白熱した議論を展開した。

その中でも今回は、第3クオーターのテーマとして提起されたアリーナ論「なぜ新アリーナ/新スタジアムをつくるのか?」に焦点を当て、講演内容を一部抜粋して紹介する。

バスケと野球。最北端と最南端で進むプロジェクトの現在地

北海道日本ハムファイターズの新球場、いわゆる「ボールパーク構想」は2015年にプロジェクトが始動した。2018年3月には当該計画の推進を図り、株式会社北海道ボールパークを立ち上げるなど勢力的な動きを見せている。

北海道日本ハムファイターズの取締役であり、ボールパーク構想において中心的な役割を果たしている前沢賢氏は、プロジェクトの進捗について「球場の近隣にどれだけ賑わいを作れるか、という所はさておき、ボールパークそのものは計画の大幅な見直しもなく、2023年の開業に向けて今のところ順調に進んでいます。」と自信を覗かせる。

一方、琉球ゴールデンキングスの代表取締役社長である木村達郎氏も「最近は『ダクトの関係上、計画していた天井高が3000mmから2500mmまで下がる』であるや『観客席の椅子を選定する』といった具体的かつ詳細な話をするフェーズにきています。」と、2020年9月の供用を目指す10000人規模のアリーナ計画が詰めの段階にあることを説明した。

前例が無いことをやる。リーダーに求められる突破力

話題はプロジェクトの進捗から、計画を進めていく上での苦労話に。

前沢氏は「やはり前例のないことをやるときは、様々なリスクを指摘され、反対されるものだと思います。今となっては円滑に進んでいますが、プロジェクトを立ち上げた当初は非常に苦労しました。」と打ち明ける。

また、新球場建設に伴って、北海道日本ハムファイターズは北広島市に新たな本拠地を構える。このことを「札幌市から出ていく」というニュアンスで伝えるメディアにも悩まされたといい、本拠地移転に反発するファンからは脅迫や誹謗中傷の手紙も届いたという。

「私だけでなく家族にまで身の危険が及ばないかという心配は常にありました。」と、当時の気苦労を語った。やはりプロ野球は注目度の高さ故に、様々な反響が起こったり、時には軋轢が生まれてしまったりする一面もあるようだ。

一方、木村氏は前沢氏と少し違った視点でプロジェクト始動当初の苦労を述べた。

「関係各所にアリーナ計画を説明をする上で、“アリーナ”という言葉がそもそも通じない。そしてアリーナが少しわかる人がいても、体育館との区別がつかない。

体育館なら既存の施設がたくさんあるじゃないか、ということを言われ、体育館ではなくアリーナが必要なんだということをわかりやすく説明することに骨を折りました。」

アリーナを作る目的、既存の施設との違い、どんなアリーナを作るのか、というところをどれだけ具体的にイメージさせていくかというところが大事だったようだ。

また、プロジェクトを形にしていく上では地方自治体のみならず、設計・建築のプロとの緻密なコミュニケーションも不可欠である。前沢氏はゼネコン、設計事務所と4時間にわたる打ち合わせを毎月のようにしていたことを明かしながら、お互いの常識をすり合わせる難しさについて次のように語った。

「私は野球のことはわかっても、球場もアリーナも1回も作ったことがありません。一方ゼネコンや設計事務所はそういったものを建てた経験値があるわけですが、意外とスポーツに対する知見が無いなと感じたこともあります。

例えば、アメリカではとにかく前の席が良いとされているんですけど、日本人にとっては通路側の席が人気だったり、同じ球場をつくるのにも文化や国民性の違いがあるんです。そういったことも含めて、話題は多岐に渡りました。」

木村氏も、設計や建築のフェーズを重視する前沢氏の意見に同意し、公共で整備する上での困難やハードルの高さを強調した。

日本にこれまでないものを作っていく上での課題は、スポーツ施設に対する理解が低いことです。そのため、リクエストと全く違うものができてしまう可能性もあります。これは日本のスポーツ界が絶対通らなければならないフェーズなのかなと感じています。」

一方でゴールデンキングスが恵まれていた点は、設計の段階で『設計監修アドバイザー業務』を沖縄市から業務委託されたことだ。これによりゴールデンキングスは設計会議に全て同席参加し、アリーナに意見を反映しやすくなった。

木村氏はこういった沖縄市の配慮に感謝の意を表するとともに、設計や建築のフェーズの重要性を訴えた。

前沢氏も木村氏の意見に賛同し、“発注者と使用者の思いがシンクロしないこと”、“それ故に施設の細部までこだわりを持てないこと”を日本のスポーツ施設における典型的な課題だとして問題提起するとともに、ゴールデンキングスのアリーナや、ファイターズのボールパークは細部に対するこだわりを持てたことが他の施設との違いだと訴えた。

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