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【エンジェルスの失われた10年:後編】ワンマンオーナーに旧時代の名将…2人のカリスマが組織を停滞させた<SLUGGER>

剛腕オーナーのモレノ(右)と“名将”ソーシア(左)。00年代ならば2人の組み合わせも功を奏していたが……。(C)Getty Images
「大谷翔平選手はホームランを放ちました。なおエンジェルスは……」。今年、何度このフレーズを耳にしたことだろう。100年に一度の二刀流選手と球界最高のプレーヤーがいながら、なぜエンジェルスは勝てないのか。“負の歴史”は10年前に始まっていた――。

※スラッガー2021年11月号より転載(時系列は9月16日時点)

00年代初頭からの約20年間、エンジェルスは2人の〝カリスマ〞が率いるチームだった。00年から18年間指揮を執ったソーシア監督と、03年にチームを買収してオーナーに就任したモレノだ。

前述したように、ソーシアは02年にチームを初の世界一に導き、一時は名将の名を欲しいままにしていた。モレノはMLB史上初のヒスパニック系オーナーで、豊富な資金力を背景に就任直後から積極補強をサポート。一方で、エンジェル・スタジアムのビール代を値下げするなどファン目線に立った施策を打ち出し、「球界最高のオーナー」と呼ばれたこともあった。

だが、そのカリスマ性ゆえか、2人は次第に時代に取り残された存在となっていく。

10年代に入り、MLBはそれまで以上にデータ分析が重視されるようになった。セイバーメトリクスの浸透に加え、スタットキャストなどのトラッキングデータも普及。これらの膨大なデータをいかに活用するかが、チームの成功を左右するようになった。これに伴い、チーム作りの主導権もフロントが握るようになった。
だが、ソーシア監督は、GMの下でぬくぬくと甘んじるような男ではなかった。特に、11年10月に就任したディポートGMとは事あるごとに衝突した。原因は、セイバーメトリクスを重視するディポートGMとの意見の相違と言われる。フロントから渡されたデータをまったく活用しようとしないソーシア監督に、ディポートGMが激怒して食ってかかったこともあった。

だが、世界一経験のある監督と、新人GMでは明らかに分が悪い。15年7月、愛想を尽かしたディポートGMは突如辞任した。前年に地区優勝を果たしたチームのGMがシーズン途中に自ら辞任ずるのは極めて異例のことだ。現在、ディポートはマリナーズのGMを務めているが、エンジェルス時代にGM補佐だったスコット・サーバイスを監督に据えている。GMと監督が一枚岩であることの重要性を、エンジェルスでの経験で痛いほど認識しているからだろう。

今も、エンジェルスのデータ分析部門は他球団と比べて一歩も二歩も遅れていると言われる。確かに、エンジェルスは埋もれた才能を発掘したり、無名だった選手を変身させたりする例が他球団に比べて明らかに少ない。前述した中堅レベルの先発投手補強の失敗も含め、データ分析面の立ち遅れがチーム停滞の一因であることは疑う余地がない。
一方、モレノは典型的な「金も出すが口も出す」オーナーで、そのこともGMの仕事を一層難しくしている。12年オフのハミルトン獲得も、モレノの鶴の一声で決まったと言われている。20年2月には、ビリー・エプラーGM(当時)が成立させたドジャースとのトレードを認めず、破談に追い込んだこともあった。

通常、GMは主力選手の契約内容やマイナーでの育成状況などを踏まえた上で、チーム作りの長期計画を策定する。だが、エンジェルスの場合、何よりも優先されるのはオーナーの意向。そこに問題の本質がある。

今年7月、『ベースボール・プロスぺクタス(BP)』に掲載された記事では次のような厳しい指摘があった。「モレノは自分のチームが負ける姿にうんざりしている。だが、自らの凝り固まった価値観を修正したり、改めようとはしない。彼のやり方が機能していないことが証明されているにもかかわらず」。ビッグネームの選手を好む一方でドラフトや育成を軽視し、長期的視野に欠けるモレノの意向にGMが振り回された結果が現在の停滞を招いた、ということだ。

また、地元紙『オレンジカウンティ・レジスター』のジェフ・フレッチャー記者はこう書いている。「エンジェルスはファーム組織再建のためチームを解体することも、トレードで戦力強化するためマイナー組織を活用することもできなかった。そして、FA補強で一気にチームを再建させるために必要な金額を費やすこともためらった(そうしたやり方はたいてい、失敗するものだが)」。この方向性の欠如も、GMに十分な権限が与えられていないからこそだろう。
20年シーズン終了直後、エプラーGMは解任された。誠実な人柄で大谷の心をつかみ、ファーム組織の再生にも尽力したが、在任5年間で勝ち越しすら一度もなかった。後任候補として、某球界関係者は「アートと対等にやり合うには経験と実績がある人物でなけれらばならない」との理由で、マーリンズとレッドソックスを世界一に導いたデーブ・ドンブロウスキの名を挙げていた。

だが、ドンブロウスキはフィリーズの編成トップに就任。エンジェルスが選んだのはGM経験のないペリー・ミナシアンだった。つまり、今も実質的な実権を握っているのはモレノということになる。『BP』の記事には、こんなことも書かれていた。「すべてのベースボールファンは、大谷とトラウトがプレーオフで戦う姿を目撃する権利がある。何より、大谷とトラウトにはプレーオフの舞台を味わう権利があるはずだ」

エンジェルスのこの10年は、ベースボールは一握りのスーパースターの力だけでは勝てないスポーツであることを改めて教えてくれている。エンジェルスとあらゆる点で好対照なレイズの成功からも、同じ教訓が引き出される。モレノがこのことを理解しない限り、トラウトと大谷がポストシーズンで躍動する姿はずっと見られないままかもしれない。

文●久保田市郎(SLUGGER編集部)

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