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国体は幻に終わったけれど<全農杯2023年全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部 三重県予選会>

骨折しても出たかった

フリーハンドの左腕に、ギプスをつけて試合をしている選手がいた。
バンビ男子の部・舛屋岳(御浜TC)。
大会1週間前にブランコから落ちて骨折したが、どうしても本人が出たいと言い張ったので、と母も諦め顔だった。

舛屋岳(御浜TC)
写真:舛屋岳(御浜TC)/撮影;ラリーズ編集部

試合中、顔の汗を拭くにも、一度ラケットを置いて右手で拭いてから、もう一度ラケットを持ち直す。
試合の途中で、悔しそうな表情を見せるが、最後まで懸命に戦い抜いた。結果は予選リーグ敗退。

「投げ上げのトスも、スマッシュもやりにくかった」試合後、涙の止まらない息子に、母は優しくこう励ました。

「普段動けるところも動けなくて、悔しかったね。でも、前向きにプレーしてて偉かったよ」

舛屋岳(御浜TC)
写真:舛屋岳(御浜TC)選手とお母さん「また来年頑張ろうね」/撮影:ラリーズ編集部

全農杯全日本ホカバ出場12名中の9名が松生卓球道場

三重県予選会で、ひときわ目についたのが、松生卓球道場の子どもたちだ。戸上隼輔、前出陸杜らの出身クラブとして、近年注目を集めている。
今回、全農杯全日本ホカバ出場12枠中のなんと9名が、松生卓球道場の選手となった。

金田悠生(松生TTC)
写真:ホープス男子で優勝した金田悠生(松生TTC)/撮影:ラリーズ編集部

現在、松生卓球道場を率いるのは、松生幸一館長の次男・松生瞬(43)氏だ。昨年、父である松生幸一館長が体調を崩したことをきっかけに、長く務めていた会社を辞めて卓球道場を継ぐ決意をした。まだ一年足らずでの快挙だ。

「いや、運が良かっただけで、百点満点以上の出来です」会社員としてずっと営業畑を歩んだ瞬さんの表情は柔らかい。

松尾瞬(松生卓球道場)
写真:松生瞬(松生卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

これだけの数の生徒たちが出場していると、アリーナでも忙しい。自身の息子も出場していたが、瞬さんがその試合を見ることは、結局一度もなかった。

松生卓球道場
写真:気持ちを込めて試合をする松生悠飛(松生TTC)/撮影:ラリーズ編集部

大会終了後、チームの子どもたちを集めたミーティングでの松生瞬さんの言葉が妙に印象に残っている。

「今回勝てた人、家に帰ったらどれだけ喜んでもいいです。めいっぱい喜んでください。でも、今回悔しかった人もいます。自分が負けたとき、相手が勝ち誇ってきたらどう思うか。喜ぶのは家に帰ってから。そして、周りの人たちに感謝してください」

榎本咲幸(松生TTC)
写真:榎本咲幸(松生TTC)/撮影:ラリーズ編集部

“僕自身が周囲の方々に感謝できるようになってから、チームの結果も出始めたんです。もっと早く気づけば良かったという思いもあって、子どもたちには周りの人に感謝を、と”。

松尾瞬(松生卓球道場)
写真:松生瞬(松生卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

三重ならではの副賞

私たちが小学生選手に向けて投げかける質問に「頑張ったね、今夜は何食べたい?」という常套句がある。

「カレー」「焼肉と白ごはん」「おにぎり」「お寿司」「チャーハン」。

今回、その答えのほとんどがお米にまつわるものだったところに、温暖な気候の中で育まれる美味しいお米の産地として知られる、三重県のご当地性を感じた。

全日本ホカバ三重予選会
写真:試合と試合の間におにぎりを食べる選手/撮影:ラリーズ編集部

三重県は、昨年の作付面積25,600ヘクタールを誇る、西日本有数のお米の生産地である。今回、本大会特別協賛のJA全農から副賞として1位・2位選手に贈られた「結びの神」というお米は、50万株以上から選び抜かれた、三重県独自のブランド米だ。

「結びの神は、12年かけて開発された三重23号という品種から、さらに厳しい品質基準に合格したお米なんです」JA全農みえは、その味と安全性に自信を見せる。

北原祐哉氏
写真:全国農業協同組合連合会 三重県本部副本部長 北原祐哉氏/撮影:ラリーズ編集部

近年の温暖化によりお米の品質が安定しないという課題に、「猛暑でも安定した収穫量で高い品質、そして、おいしいお米」を目標に長年取り組んできた成果が、「三重23号」という品種なのだという。

「米粒が大きく、モチモチ感があるのにベタつきは少ない。噛みしめるほど味わいが広がるのが特徴ですね」

結びの神
写真:「結びの神」の名には“お米”が取り持つ多くの人の輪が生まれるようにとの願いも/撮影:ラリーズ編集部

“肉の芸術品”松阪牛100%のレトルトカレー

さらに副賞として、松阪牛カレー、伊勢うまし豚カレーも贈られて、保護者と子どもたちは顔を綻ばせていた。

松生卓球道場
写真:大会翌日、副賞のカレーを食べるカブ男子優勝の水野宙(写真左)、バンビ男子優勝の水野路歩(写真右)/撮影:ラリーズ編集部

“肉の芸術品”と呼ばれる松阪牛は、三重県の誇る特産品のひとつだ。

「松阪牛は、甘く深みがあり、キメの細かい霜降りと柔らかな肉質が特徴です。この松阪牛カレーのお肉は松阪牛100%です。それ以外に、じっくりソテーした国産たまねぎ、オリジナルブレンドのスパイス、フルーツの自然な甘みなどのバランスが良くて」と、JA全農みえの北原副本部長は、味の秘密を明かす。

地域の恵みとこだわりを詰め込んだレトルトカレーである。

「松坂牛カレー」と「うまし豚カレー」
写真:副賞「松阪牛カレー」と「伊勢うまし豚カレー」/提供:JA全農みえ

伊勢茶
写真:副賞で贈られた「伊勢茶」/提供:JA全農みえ

あの時期強くなった子どもたちが

実は冒頭の、三重県卓球協会理事長の松生純明氏(ちなみに、松生卓球道場の松生幸一館長の弟だ)の言葉には続きがある。
2021年三重国体中止の無念さを吐露した後、ふっとつぶやいた。“正直言えば、少しほっとした部分もあるんです”と。

「あのコロナ禍であのまま進めたら、本当にできたかなと。国体が中止になったことは無念ですが、でもこの十年、三重の強化施策で成長した子どもたちが、いま他県の高校・大学で活躍してくれてますから」

松生純明・三重県卓球協会理事長
写真:松生純明・三重県卓球協会理事長/撮影:ラリーズ編集部

金子奈珠(松生TTC)
写真:ホープス女子1位の金子奈珠(松生TTC)/撮影:ラリーズ編集部 

目標を一つに定めることは競技スポーツの美しさだ。
ただ、地域スポーツの豊かさはそれだけではない。今日の負けが、十年後のある日も自身を支える経験になるかもしれない。もしも卓球を辞めていても。故郷から離れた場所に暮らしていても。

歩みを止めなければ、収穫の時期はこの先また何度もやってくる。

12年の歳月をかけて開発した「三重23号」の稲穂が、優しく揺れている。

三重県の田園風景/
写真:三重県、秋の田園風景/提供:JA全農みえ

三重県予選会 結果

ホープス男子

1位 金田悠生(松生TTC)
2位 松生悠飛(松生TTC)
3位 荒木和也(RISE)
4位 高尾旭(TKO津卓球)

全日本ホカバ三重予選会
写真:ホープス男子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

ホープス女子

1位 金子奈珠(松生TTC)
2位 榎本初香(松生TTC)
3位 大仲結心(Force)
4位 山本心結(和卓球クラブ)

全日本ホカバ三重予選会
写真:ホープス女子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

カブ男子

1位 水野宙(松生TTC)
2位 山南正貴(松生TTC)
3位 デッラスポレティーナ絆(松生TTC)
4位 山本結心(和卓球クラブ)
※推薦のため小林俊晴選手(21クラブ)は三重予選会は不出場

全日本ホカバ三重予選会
写真:カブ男子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

カブ女子

1位 榎本咲幸(松生TTC)
2位 吉村心伶(和卓球クラブ)
3位 谷愛海(松生TTC)
4位 長井聖奈(豊田卓球)

全日本ホカバ三重予選会
写真:カブ女子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

バンビ男子

1位 水野路歩(松生TTC)
2位 奥屋遥太(松生TTC)
3位 坂嵜有真(SKY)

全日本ホカバ三重予選会
写真:バンビ男子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

バンビ女子

1位 才賀さやの(RISE)
2位 戸上優夢(RISE)
3位 大畑おと(阿児卓友会)
4位 西村和乃佳(TKO津卓球)

全日本ホカバ三重予選会
写真:バンビ女子の部入賞者/撮影:ラリーズ編集部

動画はこちら

取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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