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東京ユナイテッドがユース年代を構築。そこから見える“クラブ理念“の重要性

アカデミーの価値がわかるのは30年後

-サッカー選手としてトップに輩出する、ということを謳わなければいけない空気感もあるように思います。

福田:逆に言うと、トップに上がれなかったらそのクラブを、というのは違うと思います。僕達はどちらかというとクラブを背負って行く人間を育てるアカデミーを作りたい。もちろんうまい選手を育てられるに越したことないのですが、強さを追求する中で本当の学びがある。その過程を通じて人を育てたい。

-クラブの軸でいうと地域性と強さと理念ということになると。

福田:そうですね。クラブによってそれぞれだと思いますが、僕らには「サッカーを通じて人をつくる」という理念があり、そこで育った人間が日本の社会を変え、日本の社会を背負って未来をつくっていく。そんな形で日本社会におけるサッカーのステータスを上げていきたい。教育のコンテンツとしてスポーツというものは机で学ぶことと引けを取らないと思っていますし、それを訴えていくような存在でありたいんです。

アカデミーの価値がわかるのは30年後かなと思います。今の12歳の子ども達が42歳で僕の歳になる。ただ、その時の状況を僕自身が見られるかというとそれはできないと思います。ですから、これは将来への投資です。もしかしたらリスクしか背負っていないことになるかもしれないですが、そのリスクを飲み込んででも将来に投資をしていかないと、組織としての成長や未来はないと考えています。小山さんが二十数年間かけてソレイユFCというクラブを作ってきたわけですが、我々はその時間をいただいているという形になります。ビジネスの世界では時間を買うためにM&Aをしますが、それと同じように小山さんが時間をかけて作ってきたものを買わせて頂く、という感覚でもあります。育成年代のクラブ作りを全部自前でやるとなったら何年掛かるか分からない中で、小山さんが心を込めて大切に育てられたクラブへ相乗りをさせて頂くわけですから、そこに対する責任と覚悟は大きいです。

-おっしゃるように、ビジネス、買収に似ているなと思いました。

小山:トヨタとダイハツの関係に近いかなと。ダイハツはずっと軽自動車に特化して、顧客1人1人と向き合ってきた。その中でトヨタという名前を得ることで通れる道も増えてくるし、今までやってきたものがさらに良い方向に向かうと。その感覚ですね。パートナーシップに近いのかなと。僕らがこれから先に突破していくためには10年20年はかかるかもしれなかったところ、東京ユナイテッドと一緒になることによって1日で突破できてしまうという側面もある訳です。ただし、自分たちで作り上げてきた顧客や子どもたちに対するアプローチは今後も続けていきますし、今後もやり方は変えない。そういった部分も絶対に必要なはずですし、実際に話し合って意向が合致しました。もちろん不安はありますが、ワクワクしますね。

-最後になりますが、改めてこの取組の価値や思いについてお聞かせ下さい。

小山:やっぱり、このクラブチームに来てくれる子どもたちにとって大事になってくるのは「両クラブが組むことで生まれる価値とクラブ理念」の説明になってくると思うんです。面談という形式で、時間にすれば10分15分なのですけど、そこに全てが凝縮されている。一般的なクラブチームのセレクションとは異なるということを親御さんに話して、親御さんが生の声で子供達と話し合って、その中で子供なりの決意を示して欲しいです。だいたいの子どもたちが小学生6年生の12月や1月でクラブチームを決めるのですが、4〜5月になって「中学生ってこんなに忙しいのか」と気づくんです。時間の早さもすごく変わる。そこの部分を僕らはうまく説明しながら、「忙しいながらも欲張りになってほしい、夢を消して行くのではなく選んでいってほしい」と伝えたい。ここが1番重要だと思っているので、理念に共感してもらえれば嬉しいです。

福田:今回は僕も人見(秀司 東京ユナイテッド共同代表)も言っていることなのですが、週2〜3回の塾に対して月に3〜4万払うことが普通になっている一方で、サッカーは週4回も活動しているのに月1万円程度。こういった現状があると思います。つまり、サッカーのバリューが低いということですよね。だから、東京ユナイテッドソレイユでは価格を上げたいと思っています。そこに価値を見出してほしいんです、と。これは高飛車になってるわけではありません。僕らも責任を持ってちゃんとした指導者を呼びますし、僕自身も責任を持ってコミットするつもりなので、そこは適正に価格を上げたいなと。

その中で1人1人の子どもたちの親御さんと向き合います。これは小山さんが重要視していたことですし、何よりもどんな人や組織かがわからないまま契約関係に入ると不信感も生まれて、揉める要因にもなります。だけど、最初に「すみません、僕らは完璧な組織ではないし完全な人間でもないです。ですが、僕らのできることは誠心誠意やらせてもらいますと。鼻についたらそれははっきり言ってください」と伝えます。もちろん、それでもお答えできないかもしれない。ただ、僕らは僕らなりに応えようとする姿勢を貫きますし、そこに満足してもらえるかどうかが重要なのかなと。

これは何百億、何千億のお金を動かすの同じことだと思います。今回は何百億、何千億の金にも代えがたい子ども達というのを引き取るので、慎重にならないといけないわけです。子どもの教育や子どもの一生ってお金では換算できないし、お金で責任を取れないからこそ難しい。その中でも納得していただいて、満足してもらえるような組織にしていきたいと思っています。

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