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ギラヴァンツ北九州が、ひきこもり支援に取り組む理由。地域の媒体になるために

日本の社会全体が心を開けるようなプログラムに

—GOPの今後の展開について教えてください。

下田:このGOPという活動を地道に継続し、地域に浸透させた上で、新しい方向性を探りたいと考えています。

そもそも「心を開くこと=オープンマインド」のプログラムって、ひきこもりと呼ばれる方や、不登校の児童や生徒だけを対象にする必要もないと思うんです。

心を開くっていう作業は、実は日本人が一番苦手なところではないでしょうか。他人とのわだかまりや摩擦が絶えないのは、心を開けないことが理由です。GOPのプログラムを活用することで日本の社会全体が心を開けるようになるんじゃないか、と考えています。

—ひきこもり支援の横展開のようなことはお考えですか?

下田:先日、Jリーグがひきこもり支援に取り組むべく厚生労働省に相談したところ、GOPの事例を教えられ、実際にギラヴァンツや北九州市がヒアリングされるということもありました。

現在、日本国内にJリーグのクラブが56あるんですが、どの地域もひきこもりの問題を抱えていると思うんですよ。なので、各地域の支援団体とJリーグのコラボで、ひきこもり支援ができるんじゃないかと考えています。

—ひきこもり問題への取り組みは今後の課題となりそうですね。

GOPについて説明する下田さん

スポーツが街にある。それが全て

—プロスポーツクラブが地域や社会にもたらせるものって、どうお考えですか?

下田:プロスポーツクラブは、地域の「媒体」になり得る存在だと思うんですよね。

—地域の「媒体」ですか?

下田:例えば、ギラヴァンツが社会の、そして地域の課題に取り組むことで街の人にその課題を知ってもらえるということです。

例えば、普段はひきこもりの問題など意識をしていなくても、ギラヴァンツの活動を通じて、「ああ、北九州市にもこういった課題があるんだ」と伝えることができます。

我々が実施している、高齢者向けのシニア健康教室や障がい者スポーツ支援なども同じです。このような活動もホームタウンの方たちにぜひ知ってもらいたいですね。ギラヴァンツが取り組む活動を外に発信することで、社会のさまざまな課題の解決に向かう、こうなるのが理想だと考えています。

—下田さんが考える「スポーツの社会的価値」とはどういったものでしょうか。

下田:その地域、街のシンボルになり得ることでしょう。シンボルになると、常にチームの話題が街にあふれます。いいことも悪いことも全て。今日ギラヴァンツ勝ったね、とかから始まって。

そうすると、ギラヴァンツが発信する情報をたくさんの人が見るようになります。街づくりの有益な発信をたくさんの人が見て、ギラヴァンツがやってるんだったらそれを支えよう、というのが街づくりにつながっていくと思うんです。

そうなることがスポーツの役割、意義だと思っていますが、日本のプロスポーツってそういうことをやってこなかったんですよね。かつてのプロスポーツは、企業の広報宣伝の媒体でしかなかったですから。

GOPの資料

—たしかに、以前のプロスポーツは「興行」の側面が強かったと思います。

下田:本来、スポーツはその地域が作るものだと考えています。でも日本では、地域じゃなくて企業が作ってきたんですよね。だから最終的に地域の力になることはありませんでした。

Jリーグが百年構想を提唱する前と比べて、スポーツと街のあり方が変わってきていると思います。いろんな過去のしがらみなどで街との共存が難しい部分があることは否めませんが、だからこそ街のシンボルになることが重要だと思うんです。

スポーツは、行政でも企業でもなく、地域の人が作って支えて育てるものです。この「育てる」という認識が重要ですよね。「チームを育てなきゃいけないからチケットを買うよ」とか。

招待券をばら撒いてお客さんを集めても、成長にはつながりません。スポンサーにはなれないけどチケットを買って見に行くよ、という人を増やすことが大切です。

—海外では地域のサポーターがチームを支えているイメージが強いです。

下田:私が10年ほどいたコスタリカでは、チームカラーに塗った棺桶を背負って試合を見に行っていたサポーターがいました。「俺は死ぬまでこのチームを応援するんだ」って。中米南米あたりはサポーターの熱量も過激さも、日本とは随分と違います。

—スポーツは地域に活力を与えてくれそうです。

下田:スポーツが街にある。それが全てかなと思います。住んでいる人の生きがいや励みになるんですよね。ときには落胆とかもありますが。サッカーの観戦なんてまさにそうですよね。サッカーって、90分間失敗続きのスポーツじゃないですか。

本当に成功したプレーは点を取ったときだけで、他は全部失敗しているんです。全部相手にボールを奪い返されている。失敗続きの中で、点を取ったときの爆発的な喜びっていうのは、やっぱサッカーを見てないと分かりませんよね。

サッカーに興味のない人が、「点を取ったときにガッツポーズ出しすぎだよ」などと言うことがありますが、その人たちは試合を見てないからフラストレーションが溜まってないんですよね。でもサポーターはフラストレーションを溜めながら見ているし、選手だってフラストレーションを溜めながらプレーしている。だから点を取ったときに喜びが爆発するんです。

そういうものって多幸感と結びつくんだろうなと感じています。やはりスポーツは地域の人々を幸せにするものでなくちゃいけないし、地域の人々はそのスポーツを自分たちが作っていくという気持ちを持つことが大切だと思います。

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