高校年代“サッカーvsフットサル”の現在地。恥も外聞も捨てた名古屋U-18はなぜ、敗れ散ったのか。【U-18選手権コラム】
トップチームが「王者」であるがゆえの重圧
こうした状況のなか、第6回大会では町田U-18がフットサルチームとして、初の全国大会優勝を成し遂げていた。今大会でもフットサルチームの躍進が見られるかは、注目ポイントの一つだった。
Fリーグが誕生する直前からこれまで、日本のフットサルを名古屋オーシャンズが引っ張ってきたのは、誰もが認める事実だろう。しかし、U-18フットサル選手権大会における名古屋U-18は、第1回大会で決勝に進出して以降、準決勝に勝ち残ることもできていない。日本中から最高の選手を集める名古屋のトップチームに対し、名古屋U-18は、名古屋近郊に住む高校生たちで構成されている。そのため、東海大会を勝ち上がれない年も、少なくない状況だ。
とはいえ、周囲はそのようには見てくれない。どうしても「絶対王者の下部組織なのに、今年も勝てなかったの?」と見られてしまう。その意味では、トップチームが絶対的に強いがゆえに、他クラブ以上に、大きなプレッシャーがのしかかっているチームなのだ。そこで彼らは、一つの覚悟を示した。
準々決勝、名古屋U-18は“勝つ戦い”を選んだ。1次ラウンドでサッカーチームを相手に打ち合う試合を演じてゴールを量産した寒川に対して、FP4人全員がハーフウェーラインまで引き、スペースと時間を与えなかった。
ここまでフットサルの専門チームと対戦した経験がなかった寒川が、名古屋U-18の守備ブロックの周りでボールを回し、攻め手を見つけられないまま時間がどんどん流れていく。名古屋U-18は、ボールを奪ってからもむやみに速攻を仕掛けることはなく、時に物部も攻め上がって、数的優位をつくってボールを回してシュートチャンスを生み出していた。そして26分までに藤田航輝が2点を挙げ、リードする展開に持ち込んでいた。
簡潔に言えば、攻撃でも守備でも、名古屋U-18は完全にリスクを排除した戦い方を見せて、確実にベスト4進出を決めにいく戦いぶりだった。勝負における理には適っていたが、見ている第三者からすれば、極めて退屈な試合でもあった。ただ同時に、フットサルチームがサッカーチームに対して、確実に勝つには有効な戦い方にも見えていた。
周到だった“サッカーチーム”藤井学園寒川高校
30分までこの試合を見ていた人たちは、名古屋U-18の勝利を確信していただろう。実際、第2ピリオド途中に会場を離れた知り合いのFリーグクラブ関係者から、「あの後、何が起こったの?」という連絡をもらった。
今大会の1次ラウンドは15分ハーフで行われたが、決勝ラウンドからは20分ハーフで行われた。本来ならば、日常的に20分プレーイングタイムで練習試合などを行っているフットサルチームが優位になるはずだ。だが、この試合はそうならなかった。
物部が「1次ラウンドだったら、もう2-0のまま試合が終わっていました。その感覚のズレがあった」と振り返った一方で、プレーイングタイムの20分ハーフを経験したことがなかった寒川は、最初からこのラスト10分間にすべてを賭ける腹づもりだったという。寒川がスイッチを入れたのは、32分に取ったタイムアウトの時だった。
寒川の岡田勝監督は試合後、このように振り返った。
「準々決勝を前に『絶対に失点するだろう』と話していました。また『相手は失点ゼロで勝ち上がってきたチームだから、我慢比べのゲームになるぞ』と確認していたんです。今日から20分プレーイングタイムになって、オーシャンズさんは上手にメンバーを入れ替えてやっていますが、私たちは限られた人数で戦っているので、時間をうまく使いながら、前半途中まで相手のウィークポイントを探り、最後にスキを突く形を考えていました。戦略としては『残り10分から勝負しよう』と。そこまでは、我慢比べでしたね」
名古屋U-18の守備ブロックの前で、単調なボール回しに終始していたのは、あえて仕掛けずに、最後の10分に向けて体力を温存する狙いがあったのだ。寒川で、実際に細かく指示を出していたのは、ベンチの永田凱聖だった。本来は中心選手の一人だが、大会直前にヒザの靭帯を負傷。ベンチ入りしたもののプレーはせずに、戦況を見て、チームメートに指示を送っていた。寒川の強みは、なんといっても1次ラウンドの3試合で10得点を挙げた10番・三宅悠斗と、9得点を挙げた11番・牧敬斗のコンビである。永田は、前後半のタイムアウトで伝えた指示について、こう明かした。
「うちのピヴォ(三宅)が厳しくマークされていたのは、前半に入ってすぐに分かりました。そのピヴォをサイドに開かせることで、中央のスペースが空きます。そこに11番がカットインしていこうという話をしたのが、前半のタイムアウトでした。後半の時は、サイドに開く10番の動きに相手がついてこなくなり、11番のところでつぶして、取り切る形になってきていました。そこで相手のフィクソがボールを奪いに行ったら、10番が寄ったフィクソの背中を回って、もう1回ゴール前に顔を出して、ピヴォ当てを受けられるようにしようと、指示を出していました」
第2ピリオドでタイムアウトを取った寒川は、共通の狙いを持って名古屋のゴールを目指すことができていた。36分、高い位置でボールを奪った牧が仕掛け、中に入れたボールをピヴォの三宅が決めて1点を返す。そして、試合終了間際、残り56秒には、まさに永田の指示通りの動きから、ゴール正面に入った三宅が同点ゴールを挙げた。
永田は、「高校サッカーをしているから、タフな選手が多い。そこは自信がありました。県大会からも、こういう展開の試合が多かったので、変な自信がありました」と、最後の10分間に爆発できる余力があると信じていたと言う。
また、三宅は1点目を挙げた後、38分に名古屋U-18が取ったタイムアウトの影響に触れた。「あれがいいタイミングで、ありがたかったです。ピヴォなので、前から追いかけていて、しんどい時間帯でした。あそこで休めたのは大きかったです」と、FPをわずか5人で回していたチームの疲労軽減につながったと明かした。
追い込まれて崩れた“フットサルチーム”名古屋U-18
名古屋U-18の赤窄孝監督は、残り10分に向けて「プラン通りにやることが、すごく難しかった」と、悔しがる。名古屋U-18は30分、U-19日本代表のクロアチア遠征にも参加していた伊集龍二が、三宅との接触で負傷。最後尾でゲームを組み立てるフィクソがいなくなり、ボールを持った際に急いでピヴォに当てる場面が増えていた。
「試合中にも負傷者が出て、普段のセット起用が難しくなりました。チームの方針を変えずに、時間をうまく使いながらやることは考えていました。そのなかで、ビデオミーティングでも『リスクを背負わずにやろう』と話していたのですが、うまくいかなかったですね。(タイムアウトは)戦術的なところよりも、メンタル的なところで必要だと感じました」(赤窄監督)
チームは、確実に追い込まれていた。さらに物部は、メンタル面でチームが崩れた要因として、伊集が負傷でいなくなったことに加え、1次ラウンドから無失点だったことを挙げた。
「2-0の時は、自分たちでボールを持とうとして、できていました。でも、2-1になってからは『シンプルにやろう』と話したけれど、うまくシフトチェンジができずに、プレーを切らないといけなくなっていました。1次ラウンドで失点していないなかで初失点を喫して……。事前にこうなる可能性があることは分かっていたから『失点しても仕方がないから、次だよ』と話していたし、失点直後もみんなを集めて話したんですけど、どうしても流れを変えられずに崩れちゃいました」
このままPK戦に入った場合、名古屋U-18の優位だと思われた。フットサルのPKに慣れていることに加え、ゴールを守る物部の存在があったからだ。しかし、残り56秒で追いつかれたことによる焦りは、シンプルなプレーにズレを生じさせ、選手たちの冷静な判断力を失わせてしまった。
語り継ぎたくなる高校年代のフットサル名勝負
残り4秒、味方からのバックパスがズレて、物部に入る。ボールをコントロールして、大きく蹴ろうとした物部だったが、これを狙っている男がいた。ここまで2ゴールを挙げていた、三宅だ。
「映像を分析した時に、名古屋はGKがボールを持つことが多かったのですが、ちょっともたつく印象を受けました。すごく実力のある選手ですが、スッといけば、追いつくかなと。自分は、瞬発力に特徴があるので狙っていました」
物部が持ち直したボールを奪った三宅は、そのまま無人のゴールに決勝点となるシュートを流し込み、40分で決着をつけた。
試合後、名古屋のチームスタッフの一人は「恥を捨てて、あのやり方で戦ったのに、この結果は……」と、8年ぶりのベスト4進出を逃しただけではない敗戦に悔しさを滲ませ、物部も「次につなげるしかないのですが、こうなっちゃうと『サッカーの落ちこぼれがフットサルをやっている』と思われてしまう。木暮賢一郎監督も『俺は絶対に言われたくないから、必死にやってきた』と言っていましたが、そういう結果になってしまった」と、肩を落とした。
様々な要素が複雑に絡み合って決した勝敗には、様々な解釈がなされるだろう。まだ10年にも満たない歴史の浅い大会に、また一つ語り継ぎたくなるような名勝負が刻まれた。
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