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中村憲剛×結城康平「川崎Fが、ポジショナルプレーを実装できた理由。言葉を知らなくても、概念には到達できる」

 

川崎フロンターレを2020シーズン限りで引退後、精力的にサッカーを発信されている中村憲剛さん。ポジショナルプレーについて日本でいち早く紹介するなど、インターネット界隈で絶大な支持を集めるフットボールライターの結城康平さん。

「トップ選手」と「WEB論客」という異色の組み合わせによる対談が実現。川崎が作ってきたサッカーの哲学や、「ポジショナルプレー」の概念について語り合いました。

インタビュー=北健一郎
構成=佐口賢作
写真=浦正弘

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■目次
少年時代に見たバルサが衝撃的だった
フロンターレが作ってきたサッカー哲学
後出しジャンケンで導き出される最適解
ポジショナルプレーは戦術ではなく概念

少年時代に見たバルサが衝撃的だった

──今回の対談は、中村憲剛さんがフットボールライターの結城康平さんの記事を読み、「おもしろかった」、「話してみたい」と感じたところから実現しました。さっそくですが、お二人はお互いについてどんなイメージを持っていましたか?

中村憲剛(以下、中村) きっかけは覚えていないんですが、Twitterで誰かがリツイートした結城さんの記事を見て、非常に読みやすかっただけでなく、内容に共感するところがあったんです。

当時、僕も現役を引退して記事を書き始めていたので、自分のマッチレビューの答え合わせのような感覚もありました。

昨日(対談日の前日)、結城さんがアップされたアジア最終予選アウェイ・オマーン戦のレビューも読んだばかりで、試合をどう見ているかという目線も含めて、自分の考えとすり合わせ、参考にさせていただいています。

結城康平(以下、結城) ありがとうございます。

僕からすると、中村憲剛さんはJリーグや日本代表で活躍されていたトッププレイヤーというだけでなく、引退後の解説を聞いていても、書かれたものを読んでも、選手時代からロジカルにサッカーを見てこられた人なのだなという印象を持っています。

僕らライターはどうしても外から想像して書く部分が多くなりますけど、憲剛さんは選手としての目線、現場からの視点をきちんと言語化されているので、今後、書き手として、解説者として、指導者として、どんなふうに活躍されるのか本当に楽しみです。

中村 結城さんはサッカーはやっていたんですか?

結城 全然うまくはありませんでしたが、小学校から高校まで。その後は趣味でサッカー、フットサルをしていて、見るほうは中学生くらいからです。雑誌や名鑑を買ったりしながらEUROやW杯を見始めて、徐々に海外リーグも見るようになりました。

中村 サッカーについて書き始めたのはいつ頃なんですか?

結城 最初はミクシィに観た試合の感想を書き始めて、サッカーに詳しいライターやブロガーの人たち、育成年代を追いかけている方々とコミュニケーションを取るようになっていって……という流れでした。18歳くらいだったと思います。

──その後、結城さんはスコットランドの大学院に留学されて、そこで英語のスキルや海外サッカーの知識をキャッチアップするようになったと聞いています。

結城 そうですね。23歳から2年半留学していて、海外サッカーを観戦したり、プロの指導者さんと実際に喋ったり、戦術に関する英語の文献にも触れる機会があって感覚が変わりました。

また、現地のユースや下部リーグのある意味、洗練されていないサッカーを見たことで、選手の成長過程を感じられたのもいい経験だったと思います。

中村 僕は日本でしかやってないから、海外でしっかりとサッカーを見てきた経験があるのは少しうらやましいです。

結城 いえいえ、とはいっても趣味の延長でしかないので。憲剛さんは……。

中村 恥ずかしながらサッカーノートをほとんど書いたことがないんです。ただ、文字に起こしたことがない代わりに、小学生の頃から自分の出た試合に限らず、海外リーグも含めていろんな試合を何回も見ていました。

結城 同じ試合を?

中村 そうです。1回目と2回目、2回目と3回目も違う発見があって、内容が頭に残るんですよね。その繰り返しのなかで、自分なりのサッカーを見るポイントが整理され、書くための引き出しも増えていったのかなと思っています。

結城 それは自分のプレーのいいイメージを固める作業でもあるんですか?

中村 そうですね。でも、1回、2回、3回と連続では見ないようにしていました。主観が強くなりすぎてしまうので、客観視するために、間にライターさんの書いたレポートや解説を読んだり、他の試合を挟んだりして、冷静に見られるよう工夫していました。

正直、うまくいかなかった自分の試合は見返したくないんですけど、そこはがんばって2回、3回と。次に同じミスが起きないように努力していたつもりです。

結城 海外サッカーもずっと追いかけてきた感じですか?

中村 僕は、ずっとバルサが好きで。カンプ・ノウに行ったことは一度もないんですけどね……(苦笑)。きっかけは1992年のUEFAチャンピオンズカップ決勝でした。監督はヨハン・クライフで、ペップ・グアルディオラやロナルド・クーマンがいました。

そのチームが同じ年の12月にトヨタカップで日本に来て、サンパウロと対戦。試合には負けたんですが、僕の中ではサンパウロよりもバルサの見せたサッカーのインパクトが大きかったんですね。

特にプレイヤーとしてのグアルディオラが好きで、「プレッシャーが激しい中盤の真ん中の位置で、あんなに細くて足も速くない選手になんでボールが集まるんだろう」と思っていました。

今もそうですけど、僕自身が細くて足も速くない選手だったので、当時は海外ではグアルディオラ、日本ではラモスさんに自分を投影しつつ、ボールがたくさん集まり、ゲームを支配する選手に憧れていたんです。

フロンターレが作ってきたサッカー哲学

結城 憲剛さんはもちろんなんですが、川崎フロンターレの選手は視野や認知能力が優れていて、すごく周りの状況が見えていますよね。今はどういう局面で、どう相手を背負ってプレーするかを意識的に考えてプレーしていると感じています。

中村 それ、この間の最終予選の日本対オーストラリア戦のレビューでも書いてくれていましたよね。

結城 はい。僕はフロンターレの選手がすごいというのをここ最近、遅れて実感したんです。日本で話題になっているのは知っていましたが、実際にプレーを見て「なるほど。彼らがすごいのはこういうところなんだな」と。アプローチは違っていても、海外のサッカーの最先端に向かっている。それがすごく面白いですよね。

中村 代表での田中碧と守田英正のプレーを分析しつつ、「独特なフリーの感覚」、「自分が受けられない状況でもボールの方向を指示しながら先の状況を読むスキルは、『最近の川崎』が発展させてきた独自の感覚に思える」と書いてくれたじゃないですか。

「ああ、そこをわかりやすく言語化してくれる人がいる」とうれしくなって。それも結城さんと話してみたいと思った理由の1つです。

結城 憲剛さんたちが作ってきた川崎の文化やスタイル、考え方が若い選手に伝わり、彼らが国内外のトップレベルで戦っていること。特に大卒ルーキーの守田選手、三笘薫選手といった選手たちが1、2年のプロ経験で海外に移籍していく姿は、今までJリーグを見てきたなかでも異質なことが起こっている感じがしています。

しかも、主力となった若手が抜けても川崎というクラブの力は落ちていない。バルセロナを例にするのが正しいかどうかはわからないですけど、監督や選手の考えとクラブの文化がうまく一致して、新しいゲームモデルや哲学が作り上げられているのはたしかで、それはファンからしたらたまらないことだろうなと思って見ています。

中村 ありがとうございます。

結城 あとは、長期的に川崎が作ってきた哲学を日本のサッカー界がどう理解して、強化に活かしていけるかが鍵かなと思います。

また、僕からすると代表の中核を担っている選手にはますますがんばってほしいですし、田中選手なんかは東京オリンピックでのプレーを見ていて本当にすごく気に入ってしまいました。単純に見ていてワクワクしますし、頭もいいですし、止める、蹴る、ターンなどの細かい技術の高さがすごく光る選手。まるで、ルカ・モドリッチを見るような感覚になりました。

中村 ……。なんだろう、このうれしいようなこそばゆい感じは(笑)。

結城 当たってくる相手のベクトルを意識して逆を取る、みたいなプレーが僕の中でモドリッチをイメージさせるんですね。相手のプレッシャーを把握しておいて先に動かし、抜ける動きを見ていると「日本にもこういう選手が出てきたんだ」と思いますね。

川崎のサッカーを語るとき、「止める・蹴る」の技術がキーワード的に使われることが多いですが、一方で相手への意識もポイントですよね。「相手がこうくるから、こう動こう」と。中盤の選手を中心に、相手を困らせる立ち位置への意識の強さをすごく感じています。

中村 「相手を見る」ことがとても大事だと思います。立ち位置1つで、どう局面を打開するか。相手をいなしていけるか。どんなシステムだとしても、最終的には相手が僕らに対して何をどうしてくるのかを見てプレーできるかどうかが重要になってきます。

そして、相手を見るにはしっかりとボールを止めなければいけない。2012年に風間八宏さんが来て、ボールをしっかりと止めることの意味を再確認しました。ピタッと止まれば視線が上がる時間がより長くなるので、その分相手も味方も空いてるスペースもより長い時間見ることができます。

さらに言うと、見る時間が長くなれば、自分を活かす立ち位置、味方を助ける動き、相手の逆を取る方法など、意識できるものも増えるんですよね。

碧や守田も代表でやっていますけど、ハーフスペースに落ちて、相手を見て、自分のところに誰がくるかを掴んで、いなして等、逆に相手に問題を突きつける。そういうプレーをボールがないときにしょっちゅうやっていると、今度は相手が勝手に動いてくれる。そのあたりの彼らの意識が、結城さんの何かに触れたのかもしれないですね。

■JリーグYBCルヴァンカップ準決勝第1戦|川崎vs鹿島|ゴール動画(引用:Jリーグ公式/2019年10月10日)

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