三木田龍元。北大卒の左腕は、なぜ新球団の職員になったのか?

福井にはスポーツが根付いていない

ワイルドラプターズは、ミラクルエレファンツの後継として、2020年からリーグに加盟しました。4月には女性の社員を迎え入れましたが、それまでは私と小松原鉄平社長の2人体制。私は登記簿を税務署から持ってきたり、社会保険に加入したりと、事務的な仕事も担っていました。

ユニフォームのデザイン案や、球団の理念を考えたりもしましたが、メインは広報。TwitterやYouTubeの運用など、オンラインでの企画を常に考えています。リーグは残念ながら、新型コロナウイルスの影響で開幕できていない状況ですが、普段であれば試合に向けた運営も行なっていきます。

福井は北陸地方の中で人口が最も少なく、スポーツも盛んとは言えません。富山はB1リーグの富山グラウジーズ、石川はJ2リーグのツエーゲン金沢があって、新潟はサッカー、野球、バスケットボールなどのチームがあります。

過去にはサウルコス福井というサッカー北信越リーグ1部のクラブがありましたが、2018年をもって解散。2019年からは福井ユナイテッドとして活動しています。

ミラクルエレファンツは、2010年には経営難に陥りました。福井県民球団が経営を引き継いで、チーム名を変えずに活動していましたが、2019年をもって解散しました。福井にはなかなかスポーツが根付かないんです。

地域面や社会面で取り上げられる活動を

ワイルドラプターズは、野球YouTubeチャンネル「トクサンTV」にサポートしていただいています。そのもとでYouTubeチャンネルの「ワイラプTV」Twitterに力を入れています。オンラインだと県外にも情報を発信できて、新たなファン層を増やしていけるメリットがあります。

ただ実際に生で見てもらうのは県内の方が中心です。前身のミラクルエレファンツを運営していた福井県民球団は、福井新聞がバックアップしており、アナログ配信が強かったんです。しかし運営会社が変わって、スポーツ面での露出は減ってしまいました。その中で私たちが急に入ってきてデジタルを強化していくと、違和感を覚えてしまうファンの方もいると思います。

しかも、コロナウイルスの影響で試合ができないとなると、なおさらオンラインに頼らざるを得ません。本来であれば、選手とともにビラ配りなどもしたかったんですが、それもできない状況です。その中で、どのような形で従来の層にも情報を届けていくのか。ギャップをどう埋めていくのかを日々考えています。

私がクラブを運営する上で参考にしているのは、川崎フロンターレで広報を務めていた天野春果さんです。天野さんの出した2冊の本をバイブルとしています。その中で印象に残っているのは、企画を考える上では地域性や社会性が大事だということ。

私たちは野球チームなので、新聞ではスポーツ面に取り上げられます。ただ、試合も練習もないとなると、取り上げられにくいですよね。それならば、地域面や社会面で取り上げられないかと。オンラインでの取り組みに社会性や教育性を持たせたり、選手がマスク作りに取り組めば、その可能性は広がります。

取り組み自体はオンラインで完結してしまうかもしれませんが、それをどうオフラインでも配信していくか。スポーツクラブでは成功体験があまり共有されていないものの、自分で情報を取りに行って、策を考えています。

1年目を経験できるのは今しかない

正直、野球に関わった仕事がしたいとは考えていましたが、 入社した当初は「今じゃない」と思っていました。独立リーグでプレーし、自分が見ている世界は狭いと感じていたので。まずはサラリーマンとして野球以外のビジネスに身を置いて、その後に球界に戻ってくれば、刺激を与えられるのではないかと。

それでも、ワイルドラプターズの“1年目”を経験できるのは、今しかなかった。自分自身がお世話になったBCリーグに恩返しができますし、少人数だからこそ何でもできるところもあります。

独立リーグのチームは、サッカーやバスケットボールのように昇格がないので、上のステージに行くことはできません。ただ、地域に存在していること自体に意義はあります。北陸に住んでいると、NPBの試合に触れる機会は少ないですが、ファンファースト、地域ファーストで興行できる存在として重要なんです。

新潟時代には本拠地がなかったので、様々な球場で試合をしました。中にはスタンドと選手の距離が近いところもあって、ブルペンの横で待機していると、子どもたちが話しかけてくるんです。その試合の時にしか来られない子どももいるので、私はその場をいかに楽しんでもらうかを考えていました。

これもリーグの一つの価値だと思いますし、楽しんでもらえる場所をなくしたくはないですよね。だからこそ、福井にスポーツが根付いていない現状をなんとか打開したい。試合だけでなく、野球教室や地域活動を積極的にやることも、スポーツ界にとって大きな意義があると思います。

私は村山さんのおかげで今の仕事を掴みましたが、自分で切り開いたという自負はあります。現役時代からTwitterで積極的に発信していたので、それが村山さんや小松原社長の目に留まった部分もあると思います。直接会ったことはほとんどなかったですからね。そもそも、村山さんに話を聞きに行ったのも自分からでした。

知的好奇心のある人が集まると、活発な議論ができて、革新的な企画ができます。待っていても仕事は来ないですし、コロナウイルスの影響で在宅勤務の時間が増えると、それは特に感じます。

スポーツ業界の仕事は、求人サイトに載っていないことが多いです。4月から入った女性は新卒採用ですが、BCリーグの事務局とBCリーグほとんどの球団に履歴書を送ったと聞いています。そうやって採用につながる例もあるので、発信力や行動力は大事です。この業界で働くためには、ときには強引さも必要だと考えています。

※写真:本人提供

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