テニス『ウイルソン_ULTRA TOUR 95CV(前編)』

錦織圭が全米で準優勝したのは2014年。その後ケガに悩まされた時期もあったが、今もコンスタントに世界でトップを争えるポジションにいる。そして大坂なおみは2018年の全米、さらに2019年の全豪を制するまでになった。

グランドスラムの大詰めで戦う日本のプレーヤーを、もはや快挙と称えるのではなく、当然のようにそこでの勝利を、私たちは期待している。この2人のトッププレーヤーによって、日本のテニスは明らかに新たなステージに入ったといっていい。

今回は彼らのプレーを左右するテニスラケットを取り上げる。テニス経験のない者から見ると、ラケットがプレーに及ぼす影響をイメージするのはなかなか難しい。ラケットの重さ、重心のバランス、フェイスの面積、フレームの硬さなど、それぞれの数値のわずかな違いで操作性、打球感は変化する。さらには強いボールに打ち負けないようにしたり、打ち損じを減らしたりといったことも、どんなスペックのラケットを選ぶのかによって変わってくる。そしてボールに触れるストリングの素材、張り方も大きなファクターとなってくる。

これらのどこにポイントを置き、何を補うのか。そしてその上で、すべての性能が並び立つベストなバランスを保つために、日々進化する素材を選び、新たなテクノロジーを見つけ出していく。今回、話を聞いたのは道場滋さん。アメア スポーツ ジャパンでウイルソンのテニスラケットを担当する。ウイルソンはテニスラケットのトップブランドとして知られ、錦織圭やロジャー・フェデラーも愛用する。

実は錦織圭とウイルソンのラケットを繋いだのも道場さんだ。道場さんがはじめて錦織圭に出会ったのは彼が9歳のころ。スゴい子供がいるという噂を聞きつけ、試合会場に向かった。出会いのシーンは、試合に敗れて悔しくて泣きじゃくっていたとき。事情を伝えて名刺を渡して挨拶をするときには彼は泣き止んだのだが、そのあとまたすぐに泣き出したという。そのときすでにウイルソンのラケットを愛用していた。

「まだ本当に子供だったので、会社として契約やサポートをするのは無理だったのですが、直感的にとにかくこの子を応援してあげたいと強く思いましたね」。

ここからウイルソンのラケットを介した、錦織圭と道場さんの、今なお続く関係がはじまった。錦織圭が11歳のときから正式なパートナーシップがスタート。現在まで16本のウイルソンのラケットがプレーを支えてきた。そして今、彼が使用する、16本目のウイルソンが「ULTRA TOUR 95CV」だ。

この「ULTRA TOUR 95CV」が発表されたのは2018年の12月。だがどんなラケットに仕上げるのかと、動きはじめたのはその2年前だった。手はじめは、それまでに彼とのコミュニケーションの中で聞いた言葉を思い出していくこと。彼の口からは、具体的にラケットのココをこうして欲しいといった注文は出てこないという。

『疲れないラケットってないかな』

『このあたりが飛ばないんだ』

こうしたさまざまな彼の言葉に込められた思いを読み込んで、ラケット作りにアジャストしていく。もちろん彼の思惑とは違ったラケットを作ってしまったこともあるという。「ULTRA TOUR 95CV」を製作するにあたって、もっとも気に留めた彼の言葉は、

『もうちょっとバウンド後のボールに勢いがほしいな』と『ソフトなフィーリングも残したい』だった。

そのためにまず考えたのは、フェイスの面積を広げることで、ストリングのたわみを増すこと。これによって威力のあるボールが飛び、さらに球もちが長くなることでコントロールもアップする。だが同時にフェイスを広げた分、スイングスピードは落ちてしまう。おそらくこの状態では、彼がイメージしているものにはならない。

そこでフェイスを広げることなく、たわみを増すために新たな技術が導入された。それがクラッシュゾーンテクノロジー。フェイスの6時部分にクラッシュゾーンパーツが埋め込まれる。このパーツはスプリングのように伸縮する機能があり、インパクト時にパーツがつぶれることで、フェイスを広げたかのようにたわみを増やすことができる。これを採用することでフェイスのサイズに手を加える必要がなくなり、スイングスピードも維持される。

新しいラケットが誕生するまでには、求められるさまざまな機能を高め、同時にそれによって損なわれるものがないように、細部まで丹念に試行錯誤が繰り返されていく。そしてこのラケットを使ってみた錦織が発した言葉、『こういうことだったんです』。このひと言によって「ULTRA TOUR 95CV」は完成した。

長くラケットをトッププレーヤーに提供する立場にいる道場さんは、これまでの経験から、自分のプレースタイルに合わせることばかり考えてラケットを選ぶ、自分に合うラケットだけを探しているプレーヤーは強くならないという。

「錦織圭はどんなラケットでも一度は試してみる。ダメなら試したあとで止める。どんなモノでも口に一度入れることができるから、彼は強くなったと思いますね」。

次回も道場さんと錦織圭のつながりを通して、ウイルソンのテニスラケットのこだわりやトップブランドとして支持される理由を紹介していく。

≫ウイルソン『ULTRA TOUR 95CV』【後編】はコチラ!

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