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「スピードで勝つ」。INAC神戸・安本卓史社長が語るクラブの在り方

女子サッカーをビジネスにするための見せ方

新型コロナウイルスの影響は、やはり大きかったです。緊急事態宣言が出てからは、クラブとしては練習がしたくても、世間的には問題視されてしまいます。そんな時に、当時アメリカのクラブでプレーしていたナホから、「INACが一番に活動を止めてください」と連絡がありました。アメリカでは全クラブが活動を止めているし、日本女子サッカー界でINACが先陣を切るべきだと。その言葉もあって、私たちは活動を完全休止しました。

スポンサー様からも支援休止や減額などの要望がありましたし、活動再開後は観客席も全席指定にせざるを得ませんでした。ただ、最初は席の間隔が狭くて、密ではないかとの指摘があって。それ以降は3席の間隔を空けています。

2021年にWEリーグの開幕も控えている中で、女子サッカーをよりビジネス化していくためには、観客数を増やすことが重要です。最近ではスポンサー様に対して「支援額は、一般層や未来のWEリーガーの招待に使わせていただきます」と伝えています。

スポンサー様のCSRにも繋がっていきますし、観客を増やすために、まずは女子サッカーを“見せる”ことが必要だと。私たちをモデルに、これがリーグ全体の最低基準になれば良いと思っています。

WEリーグの岡島喜久子チェアに対しては、「日曜をWEリーグの日にして、小学校の大会を土曜や日曜午前にしてほしい」と要望しました。そうすれば、小学生が試合を観に来られるので。アメリカのリーグでは、ほとんどの試合がナイトゲームで、子供たちは日中に試合をしてから観に来るそうです。日本もどこかで文化形成にギアを入れないと、現状が打破できないと思います。

市内の小学校に対しても、消毒液を提供したり、夏にうちわを配布したりと、様々な形でアプローチしています。うちわはスポンサー様との協賛で作ったものですが、スポンサー側にとっても、学校で配られるのが一番嬉しいんです。学校側も「下敷きで仰ぐ子が多かったので助かります」と仰っていました。

コロナ禍でできることとして、発信には力を入れてきました。自粛期間中は、J1のどのクラブよりも露出が多かったと思います。ただ、選手の発信力はもっと高められると思いますし、ファンクラブの在り方も変えていきたいです。

2020シーズンは、10月18日のベレーザ戦の前に発信が多かったと思うのですが、あれは「リツイートよりも、自分たちの言葉で言ってほしい」と頼みました。選手たちはクラブのために協力してくれましたが、まだまだ習慣化はされていません。「負けた時は何も言いたくない」という選手もいますが、試合を観てもらってなんぼの世界なので。

クラブの理念を浸透させるのは難しいことですが、スクールやアカデミーも含めて全員が意識するべきだと考えています。そうしなければ、掴みたいものも掴めない。過去の栄光にしがみつくのではなく、過去に打ち勝っていく必要があります。

「スピードで勝つ」という表現をした時に、選手は足の速さを思い浮かべたのですが、ここでいうスピードとは、問題解決、判断、そして物事をやり遂げる速さのことです。何か問題が起きたら、すぐに言うべきで、例えば爆弾の導火線の残り1cmくらいで言われても、どうしようもできません。

これはどのビジネスでも大事ですが、こういったシンプルなことを愚直にやり続けることが、日本女子サッカー界には求められていると思います。

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