【コラム】会場に巻き起こった“敗者”への拍手。堪えきれなかった記者会見での涙。23失点でも仲間を鼓舞し続けた“宇部の女神”時髙美紅、小さなキャプテンがピッチに立つ理由|Fで戦う者たち
「まずは1勝、今はそれしか考えていない」
37分を過ぎて足を攣り、この日初めて時髙がベンチに下がった。その瞬間、会場からは拍手が沸き起こる。おそらく、この試合を見た多くの観客が「宇部の時髙」の名前を覚えたはずだ。
ゲームは23-0とFリーグ史上最多得点差で終了した。試合後、誰よりも深々と礼をし、立川の選手と「ありがとうございました」と握手をした時髙だったが、記者会見では堪えていた涙があふれた。
会見後、時髙に第2ピリオド立ち上がりのプレーについて問うと、「何点取られてしまっても、絶対に諦めたくなかった。1点は取りたかったし、とにかく負けず嫌いの性格が出ました」と振り返った。
「普段は、障がいを持った子どもたちが通う児童養護施設で働いていて、仕事が終わった後にできるだけチームの練習には参加しています。これまでフットサルは時々蹴ることはありましたが、チームに所属してプレーするのは初めてです。少しずつ勉強しています」
仕事のシフトの関係上、夜勤で練習に行けない日もある。疲れが溜まって体がうまく動かない時もあるだろう。
それでも、彼女が真摯にフットサルに取り組もうと思える原動力は、いったい何なのか。
「とにかく、自分がやりたいと思ったことは全部チャレンジしたい。昔からすごく好奇心が強いんです。自分で決めたことなのでやりきりたい」
6月24日、25日には、ホームアリーナで2連戦を戦い、いずれも敗戦。開幕戦に参加できなかったメンバーも揃い、さいたまサイコロからは2点を奪えたものの2-10と点差をつけられ、昨シーズンの女王・バルドラール浦安ラス・ボニータスには0-16で大敗した。
次節、7月1日は流経大メニーナ龍ケ崎と戦う。
2020-2021シーズンのリーグ参入以降、宇部が勝ち点3を挙げたのは、流経大とエスポラーダ北海道イルネーヴェだけだ。しかも北海道は前節、立川に引き分ける好ゲームを見せており、調子は上向きだ。チームにとっては次の流経大戦が「1勝」を手にする最大のチャンスであることは間違いない。
「負けてしまっていても、プレーしていて楽しいと思える瞬間はたくさんあります。まずは1勝したいし、このチームで勝ちたい。それしか今は考えていません」
時髙は、そう強く話した。チーム名の「ミネルバ」は、ローマ神話の女神を由来としている。さしずめ彼女は、山口の女子フットサルを盛り立てる「宇部の女神」だ。時髙は、前向きにひたむきに、今日もピッチで戦い続ける。
■次節試合日程
7月1日(土)
時間 | カード | 会場 |
---|---|---|
15:00 | ミネルバ宇部 vs 流経大メニーナ龍ケ崎 | サイデン化学アリーナさいたま |
Follow @ssn_supersports