日本を勝利から遠ざけたワールドクラスの技術|元日本代表・渡邉知晃コラム
この試合もスペイン戦、パラグアイ戦と同様に、日本の武器である前からのプレッシングは機能していた。組織ではなく、個人技を主体としてプレス回避してくるブラジルに対しては、日本の守備の噛み合わせはいい。
自陣での“らしくない”簡単なボールロストや、なかなかピヴォにボールが入れられないなど、ブラジルは立ち上がりから日本のプレッシングに苦戦している様子がうかがえた。そんななかで日本が先制。ゲームは日本のペースで進んでいた。
ブルーノ・ガルシア監督は、前日会見で「試合終盤まで同点や僅差の状態が続いていれば、メンタル的にも日本が勝つ可能性が高くなる」と言っていたが、試合終盤まで1-2と理想的な展開に持ち込めていた。
38分に、ピトのゴールが決まるまでは……。
文=渡邉知晃(元フットサル日本代表)
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日本の理想的な展開を崩したセレソンの10番
日本が1-3とされる直前の36分には、ブラジルのロドリゴがファウルを犯し5ファウルになっていた。これにより、ブラジルは守備時に強くいけなくなり、攻撃においてもファウルを気にしながら攻めなければいけない状況となっていた。日本はこのチャンスを生かすために、加藤未渚実や室田祐希といったドリブラーを投入して1対1を積極的に仕掛けてファウルを誘う、もしくはそこから得点を奪う、という狙いをもった攻撃を仕掛けていた。
そんななかで、ピトのスーパーゴールが決まったのだ。
左サイドで裏に抜け出したピトが、逆サイドからの浮き球を胸でコントロール。その後のワンタッチがスーパーだった。全力で走っていたとは思えないような柔らかなタッチで、ボールが地面に落ちる前に右足アウトサイドで右に持ち出す。そのワンプレーでピレス・イゴールをかわし、右足でゴールに流し込んだ。少し前に出てシュートに反応しようとしていたイゴールも意表を突かれるほど絶妙なコントロールだった。
まさに、ワールドクラス。W杯の緊迫した舞台で、試合終盤の疲労感があるなかで、冷静にこのゴールを決めてしまうのが、セレソンの10番たるゆえんかもしれない。
2点差とされた日本は、パワープレーに移行せざるを得ない状況になった。パワープレーとは、意図的にフィールドプレーヤー5人対4人にして数的有利を生かしてパスを回しながらゴールを狙う戦術である。相手の5ファウルという状況を利用して、あわよくばファウルをもらえるような仕掛けが効果的になる、というメリットは半減してしまう。
日本にとって理想の展開は、相手のファウルカウントを踏まえた攻撃からゴールを狙い、試合の最終盤に1点差の状況でパワープレーに移行して同点ゴールを目指すというものだったが、ピトのゴールによってゲームプランは崩れてしまった。
追記しておきたいのが、ピトのゴールを含めたブラジルの3得点は、すべて個の力が光ったものだった。
1-1に追いついたフェラオのゴールは、得意の反転から、利き足ではない左足で奪ったもの。1-2とブラジルが勝ち越したレオジーニョのゴールは、裏に抜け出してから、左足でなめてタイミングをずらし、イゴールの脇の下を抜く右足でのシュート。日本がほぼ完璧と言えるディフェンスをしているなか、ワンチャンスを確実に決めた。
決定力と個人の能力、まさにブラジルらしさが出たゴールだった。
日本が王国・ブラジルを苦しめたことは間違いない。だが、勝てなかった。次は、この経験を糧に、その先を目指すことになる。強国に勝ち切るために、日本全体がもう1ランク、レベルアップしていく必要がある。
最後に、個人的な想いも記しておく。
大会を通して素晴らしい戦いを見せてくれたブルーノ・ジャパンのメンバーに「お疲れ様」と伝えたい。
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