• HOME
  • 記事
  • テニス
  • 【プロの観戦眼16】新世代の旗手、アルカラスのスーパーフォアハンドと揺るがない自信を見よ~沼尻啓介<SMASH>

【プロの観戦眼16】新世代の旗手、アルカラスのスーパーフォアハンドと揺るがない自信を見よ~沼尻啓介<SMASH>

走らされた状態でも、腕をムチのように使いストレートアームで打っているアルカラスのフォアハンド。左下は沼尻啓介プロ。写真:真野博正、THE DIGEST写真部
このシリーズでは、多くのテニスの試合を見ているプロや解説者に、試合を見る時の着眼点を教えてもらう。第16回は、同期の西岡良仁選手のツアーコーチとしてインディアンウェルズに帯同した沼尻啓介プロ。現地で見た中で、2022年に注目するべき選手を聞くと、18歳のアルカラスだという。

*  *  *

現地では若い世代を中心に見て来た沼尻プロは、アルカラスのフォアハンドについて、「ボールの威力が桁違いで、すごすぎます」と驚いた様子で、「さらにパワーテニスになっています」と、垣間見た男子テニス界の未来について教えてくれた。

どれほどすごいパワーなのか。わかりやすく例えると、試合で時々見かける、相手選手がお手上げと認めるスーパーショットがあるが、アルカラスはそのスーパーショットの連続だと言う。

「テイクバックの時に右手がすごくリラックスしています。打点が身体から離れており、ストレートアームでボールを捉え、腕をムチのように使えています」と、スーパーショットを放てる要因も解説してくれた。
アルカラスはインディアンウェルズの1回戦で元世界1位のアンディ・マリーと対戦した。負けたものの、その試合でも強烈な才能を見せつけている。

「試合序盤、0−3までアルカラスのボールが入りませんでした。入るとエース級のボールを、強打しまくっていたんです。3ゲーム連取されると迷いが生まれるものですが、彼はまったく揺るぎませんでした。自分のテニスを続ければ勝てると思っているんです。打ち続けて、それが少しずつ入り始めて1セットを取りました」

アルカラスは18歳にして、「試合を通して自分のテニスをやり抜く力」を持っているのだ。テニス界が認める将来のナンバー1候補の、恐るべき実力である。

しかし、感心ばかりしてはいられない。未来の日本テニス選手は、そういう世界で戦い抜かなければいけないのだ。

2021年にツアーコーチになることを決意した沼尻プロに、そのパワーテニスにどうすれば対抗できるのか、今の日本ジュニアはどうしていけばいいと考えているかも聞いた。

「パワーで勝てなくても、パワー負けしない工夫、つまりボールの質、深さ、バリエーションなどは必要になります」

まずは、打ち合える舞台に立てるレベルが要求される。その上で求められるのが「speciality(特徴)」だ。
例えば、西岡良仁選手は「トータルでのスペシャリティを持っています。足が速く、左利き、バックは低くてすべり、フォアは相手に『打てそうか』と迷いを誘う」と、世界で戦える理由を挙げた。

この「speciality」は、自分が戦いたいレベルで通用するものでなくてはいけないと言う。例えば、フューチャーズレベルの大会で200位台の選手のフォアが強烈だとしても、ツアーでは、そのフォアは普通で「speciality」ではないため、ツアーでは勝てないというわけだ。

沼尻プロは日本でジュニアを育てたい思いはあると前置きしつつ、「ジュニアの時からヨーロッパの大会に出るとか、海外を経験することが大事」だという考えに至った。なぜなら、自分が将来戦う世界を知らなくては「勝つアイデアが出てこない」からだ。
世界を目指すなら、ジュニアの頃から世界を見て「自分の通用するもの、生き残れるものを見つける」ことが大事になってくると言う。

アルカラスを筆頭として新世代の台頭は、テニスファンにとっては楽しみな要素の1つ。しかし、日本人選手にとっては、ますます厳しい世界となっていく。その中でも輝きを放つ選手が出てくることを期待したい。

◆Carlos Alcaraz/カルロス・アルカラス(スペイン)
2003年5月5日、スペイン在住。185センチ、72キロ、右利き、両手BH。16歳でツアーデビューを果たし、21年に18歳でツアー優勝、ネクストジェンATPファイナルズを制した期待の若手。コーチは元世界1位のファン・カルロス・フェレーロ。現在ATPランク18位。

取材・文●赤松恵珠子(スマッシュ編集部)

【連続写真】将来の王者候補アルカラスの動かされても力強く返球したフォアハンド

関連記事