ベルファームの発起人、一燈会・山室淳理事長が湘南を選んだワケ
高値でも飛ぶように売れるベルファームの野菜
──「ベルファーム」は、金銭的に支援するスポンサーからさらに踏み込んだクラブとの取り組みです。佐藤社長にも話を伺いましたが、始めたきっかけはなんだったのでしょう?
山室 お酒の席ですね(笑)。佐藤さんと飲む機会があると「次は何を仕掛けようか」「もっとできることはないか」「どうしたら障がいを抱えた方に自信や誇りを感じてもらえるか」などといつも話しています。地域の活動に参加することは、障がい者にとって「社会貢献」を実感できる機会だということもあり農業と福祉を掛け合わせる「農福連携」を考えました。
農業の基本的なビジネスとして、5ヘクタール以上の農地がないと黒字化するのは難しいことです。一方で、私たちが所有している農地はたった1.5ヘクタール。つまり、大赤字です(苦笑)。障がい者サービスは黒字ですけど、農業単体では赤字なので、利益を農業に費やしているという現状がありました。
このままの仕組みでは継続できないので、農業に価値を生み出し、黒字にして、なおかつ、働く人に誇りを持ってもらえる仕組みが必要だなと。それで始めたのが「ベルファーム」です。「一燈会」という企業名ではなく「ベルマーレ」として活動することで、そこに参加する障がい者も「湘南ベルマーレ」の一員となれる。それがとても重要な価値ですから、誇りを感じてもらえるようなコンセプトで設計しました。
──まずは働く人に価値や誇りを感じてもらえるようにしたんですね。黒字化への目処は立っていますか?
山室 今はまだ黒字化に届いていません。先ほどお話ししたように、農作物を生産するだけの一次産業だけで利益を出すにはある程度の規模が必要になってしまいます。しかし、幸いにも、私たちには「セントラルキッチン」など、食事を作れるグループ会社もありますから、加工もできます。栽培して、加工して、販売する。つまり、農業の1次産業だけでなく、製造・加工の2次産業、サービス・販売の3次産業を一体化する6次産業によって黒字化を目指しています。
──ベルファームの野菜をホームゲームで高値で販売したところ、飛ぶように売れたとか。
山室 実際、非常に高い、詐欺のような値段です(笑)。通常の3倍くらいの価格ですからね。里芋が1300円くらい(笑)。ただし、そこには選手のブロマイドや、普段は見ることのできない選手の動画などの付加価値を設け、選手の活動費にも協力できるような仕組みにしています。基本的には試合会場でしか高価で売れないですが、ファンの方々は、選手のためならばと買ってくださいます。その方たちが「こんな料理を作りました」とSNSなどで拡散してくださいました。まさかこんなに広がるとは思ってもいなかったです。
誰でも、どこの地域でも真似ができる仕組み
──スポーツ庁が主催するイノベーションリーグ2022で「ベルファーム」が大賞を受賞しました。その時の気持ちをお聞かせください。
山室 イノベーションリーグに応募することはクラブから事前に教えてもらっていたのですが、正直、よくわかっていませんでした。忘れていた頃に突然、佐藤さんから電話がかかってきて「最終選考に残りましたよ」と。そこで初めて、事の大きさに気づきました(笑)。
佐藤さんとも話しましたが、大賞を受賞できた大きな理由は、ストーリーが確立されていることだと思います。どこの地域でも全く同じことができる。あらゆる地域で同じような問題・課題がありますから、特殊な技術を必要とせず、スポーツの力を借りながら解決できることが評価されたんだと思います。
──佐藤社長も「再現性」がこの取り組みの価値だと話していました。
山室 まさに「誰でも真似できる」「どの地域でもできる」ことは評価をいただいたポイントだと思います。私も佐藤さんも、他の地域で取り入れたいという方たちがいれば、ノウハウはすべて提供しますというスタンスです。そういう方がいればぜひ協力したいです。
ベルマーレは、少しずつ成長していけるクラブ
──そもそも「社会貢献活動」と「チーム強化」はリンクしづらいですよね。
山室 まさにそこは相反するものだと思います。安全性と快適性が別軸にある車と同じようなもので、異なる性能を高めるのは簡単ではありません。ですが、難しいからこそ、そこが自分たちの強みに変わっていく。そんなふうに考えて取り組んでいます。
──選手としては、「なぜ社会課題の解決をしないといけないの?」と思うかもしれません。
山室 そう考える選手もいると思います。ただ、一流の人は、どんなことにも積極的に取り組みますよね。選手でいられる期間は有限ですから、その後の人生になにがプラスになるかという視点は大切です。目の前のことを大事にする選手はそこに専念するのがいいと思います。しかし、デュアルキャリアであったり、引退した後の人生を見据えたりする選択肢を持てることが、ベルマーレの魅力だと思います。
──Fリーグにとっても、全チームのプロ化は簡単ではありません。地域がクラブになにを求めているかは、湘南の取り組みを見れば、そこにヒントがあるように感じます。
山室 私たちも答えがわかっているわけではなく、できることを考えながら必死にやっています。うまくいくことも、そうではないこともある。それでも、少しずつ成長していくことが大事です。私たちはクラブにも、地域にも、できる限り協力するというスタンスです。
今シーズンのベルマーレはおもしろくなる
──ロドリゴ選手は移籍しましたが、今シーズンはどんな期待をもっていますか?
山室 クラブとして、社会課題の解決についてどうしていくべきか見えてきたと思いますから、引き続き突き進んでほしいですね。もちろん、一緒になって取り組んでもいきます。
ピッチの中のことで言えば、昨年「アジアチャンピオンを目指す」と話していました。最初は驚きましたが、そこに向けて信念を持ってやっている姿を見ていますから、確実に近づいているはずです。リーグ2位になった2021シーズンを受け、昨年は研究される立場になったことで、昨シーズンは苦しんだと思います。そんな戦いを受け、今シーズンは主力だったロドリゴもいなくなり、中堅選手も自分たちがやらなきゃと奮起しているはずです。今シーズンのベルマーレはきっと、おもしろいことになると期待しています。
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