バスケをより深く知るために。NBAのコーチやスカウトが注目する“アシストの前のアシスト”を解説<DUNKSHOOT>

注目のスタッツである「セカンダリーアシスト」。今季はアシスト王のポールに加え、カリー(右)とコンリー(左)もリーグ最多を記録している(C)Getty Images
 一昔前と比べて、スタッツが格段に細密化している昨今のバスケットボール界。得点・アシスト・リバウンド・スティール・ブロック…といった従来の記録以外にも、さまざまな指標で選手の能力や勝敗への影響を測るデータが出てきている。

 そのなかでも得点に直結する貢献度を示すデータとして、より多角的に分析されているのが「アシスト」だ。

 ゴールにつながったラストパスである従来のアシスト以外にも、「セカンダリーアシスト」や「スクリーンアシスト」は、NBAが公式に数値化している。

「セカンダリーアシスト」とは、得点につながったパス(=アシスト)の、ひとつ前のパスのこと。サッカーでも、「ゴールスコアラーの2つ前にボールを触った選手を見よ」というのがスカウトマンたちの鉄則となっているようだが、場合によってはアシストよりもチャンスメイクに重要な影響を及ぼすと言われるのが、このセカンダリーアシストだ。
  現地時間2月9日時点、NBAで今季最多のセカンダリーアシストを記録しているのはユタ・ジャズのマイク・コンリーとゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン・カリー、フェニックス・サンズのクリス・ポールで58本。次いでクリーブランド・キャバリアーズのダリアス・ガーランド(51本)といずれもガードの選手が続くなか、5位にビッグマンのニコラ・ヨキッチ(デンバー・ナゲッツ/50本)がランクイン。彼のプレーメイク力を象徴したデータだ。

 カリーが所属するウォリアーズは、チームとしてもパス意識の高い球団として知られる。40年ぶりの優勝を果たした2014−15シーズン、1試合の平均アシスト数でリーグ1位の27.4本を記録。以降も、カリーを筆頭に故障者続出で最下位に終わった19−20シーズンを除く全シーズンで年間1位をキープしている。と同時に、セカンダリーアシスト数でも今季を含めた8シーズンのうち5回最多を記録している。

 一方、「スクリーンアシスト」は直接ボールには絡まない。スクリーンをかけることでフリーになった味方が得点した場合にカウントされるものだ。

 現在「スクリーンアシスト」ランキング首位はユタ・ジャズのルディ・ゴベア。彼のスクリーンから生まれた得点も676とダントツに多い。自らの身体を張って相手を遮り、ドノバン・ミッチェルらスコアラーの切り込むルートを作り出す、というのはジャズの試合でお馴染みの光景だ。ゴベア本人も、そうした一見地味なプレーに意識的に取り組んでいるとインタビューで話している。
  そして最近、コーチやスカウトマンらの間で注目が高まっているのが、「カットアシスト」だ。これもスクリーンアシストと同様、ボールには絡まない。

 ボール保持者でない選手が動く=カッティングすることで相手ディフェンスを撹乱し、味方にシュートチャンスを与えるというもので、そこから得点が決まれば「アシスト」としての役割を果たしたことになるという解釈だ。

 このカッティングの効果について、かつてオーランド・マジックやデトロイト・ピストンズを率いたスタン・ヴァン・ガンディは、スポーツメディア『Bleacher Report』で「イージーバスケットのチャンスを生み出せる最適な手段」だと語っている。

 とりわけ武器にしやすいのは、3ポイントシュートを得意とするチームの場合。シューターにダブルチームがついた時、味方が的確な場所にカッティングして相手の1人を引きつけることで、シュートを楽に打たせることができる。
  言葉にすると、「そんなプレーは別に珍しくない」という気がするが、つい最近までこうした動きは減少の一途をたどっていたという。その理由のひとつは、「タイミングや場所を間違えばロールやペネトレイトする選手の邪魔になってしまう」と、指揮官たちが敬遠していたこと。カットインすることで相手を引きつけることは、空いていたスペースにわざわざ敵のディフェンダーを連れて行ってしまうことにもなるため、シンプルそうに見えてそのタイミングの見極めが難しく、普段のトレーニングから選手間で意識を共有しておく必要があるのだ。

 しかし頻繁にスイッチが行なわれたり、増えつつあるゾーンディフェンスといった現代の多様なゲームスタイルの対抗策として、指導者たちはカッティングの効果に再び注目しているという。

 もっともアシスト自体、本当にその得点に貢献していたか、という点でディベートの対象になりがちだ。一見パスミスに見えるものでも、シューターの力量のおかげでシュートが決まれはアシストにカウントされ、「必ずしもそのパスおかげで得点につながった」という根拠にはならない。それはセカンダリーアシストやスクリーンアシスト、カットアシスト、すべてに言える。

 ただ逆もしかりで、パスやスクリーン、カッティングが完璧だったとしても、シューターがシュートを外したり相手に阻止されればアシストは成立しない。

 なのでそうした議論はいったん脇へ置いた上で、今後ゲームを観戦する際は「セカンダリーアシスト」や「スクリーンアシスト」、「カットアシスト」といった部分にも注目してもらいたい。得点に至った過程やチームの戦術などが垣間見え、ビジョンやゲームメイクに長けた選手、真にチームに貢献している“気の利いた選手”も発見できるだろう。

文●小川由紀子
 

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