• HOME
  • 記事
  • 野球
  • 真の争点は「ステロイド」ではなく「人格」? 殿堂入りのオティーズと落選したボンズらの最大の違い<SLUGGER>

真の争点は「ステロイド」ではなく「人格」? 殿堂入りのオティーズと落選したボンズらの最大の違い<SLUGGER>

オティーズ(一番左)は合格だが、ボンズ(左から2番目)、クレメンス(右から2番目)、シリング(一番右)は不合格。この基準、実はおかしくない? (C)Getty Images
 現地時間1月25日、2022年のMLBの殿堂入りに関する投票結果が発表された。

 本年度に選出されたのは、有資格1年目の“ビッグ・パピ”ことデビッド・オティーズ(得票率77.9%)唯一人となった。そして、最大の注目だった投票最終年の3人――。バリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス、そしてカート・シリングは、いずれも殿堂入りラインの得票率75%に届かなかった。

 この結果をもって、10年間にわたる殿堂の逡巡と躊躇に一応の決着がつく形となった。特にボンズとクレメンスの殿堂入りについては、争点は「ステロイド使用疑惑をめぐるスタンス」だったと多くの人が考えているだろう。だが、実は問題となっていたのはむしろ「人格」だったのではないだろうか。
  ボンズの業績は、日本でもよく知られている。シーズン最多73本塁打(01年)、歴代最多の通算762本塁打だけでもその凄さは十分に伝わるだろうが、04年には232四球&120敬遠、OPS(出塁率+長打率)1.422という驚異的な記録を樹立。MVPは史上最多の7度受賞している。

 クレメンスも、サイ・ヤング賞を歴代最多の7回受賞と歴代最高クラスの投手に数えられる。通算354勝は歴代9位、4672三振は3位、タイトルも最多勝4回、最多奪三振5回、最優秀防御率は7回を数える。86年はMVPとダブル受賞を果たした。

 一方、シリングは通算216勝で、一般の殿堂入りラインからするとやや少ない。ただ、投球の総合力を表すK/BBは通算4.38で、これは2000イニング以上では堂々歴代1位。また、ポストシーズンで通算11勝2敗、防御率2.23と大舞台での圧倒的な強さも印象的だ。01年ワールドシリーズではランディ・ジョンソンとともにMVP受賞。04年リーグ優勝決定シリーズでの“血染めの熱投”は伝説となっている。
  業績だけを見れば、3人とも十分殿堂入りに値する。ボンズとクレメンスに至っては、本来なら有資格1年目で殿堂入りしなければおかしいほどだ。にもかかわらず、結局殿堂入りすることができなかったのは、それぞれの経歴に傷があったからだ。

 ボンズとクレメンスは、ステロイド疑惑が大きな障害になってきた。2人とも03年から導入されたMLB機構の薬物検査にひっかかったことはない。だが、球界のステロイド使用の実態を報告した07年の「ミッチェル・レポート」で告発されて以降は、薬物使用者であったことが確実視されている。

 シリングにはドーピング疑惑こそないが、近年の相次ぐ舌禍事件が大きなマイナスとなっている。16年にはイスラム教徒やLGBTに対する差別発言でESPNの解説者を解雇。同年11月には、ドナルド・トランプへの批判的な記者を「殺せ」と言い放った。4%足りずに落選した昨年の投票発表直後には、「来年の候補者リストから外してくれ」と発言し、またも批判を買った。
  一方で、「たとえステロイドユーザーであっても、人種差別主義者であっても殿堂入りさせるべきだ」と3人を擁護する声も少なからずあった。その根拠の一つになったのが、すでに殿堂入りを果たしている先達たちだ。

 たとえば、通算314勝で1991年に殿堂入りしたゲイロード・ペリーは、不正投球として禁止されているスピットボールを駆使していたことで知られる(本人も引退後に公言している)。ボンズ以前の通算最多本塁打記録保持者で、高潔な人格者としても知られた故ハンク・アーロンは、当時流行していた興奮剤グリーニーを使用していた(集中力が高まる効果があるとされ、日本では清原和博も使用していた。MLBでは06年から禁止薬物に)。

 19世紀に活躍したキャップ・アンソンなど、少なくとも現在の基準では人種差別主義者にカテゴライズされる人物もいる。何より、当時の球界の実態からして、ステロイドを使用していた選手も複数殿堂入りしているはずだと信じられている。にもかかわらず、ボンズとクレメンスだけを入れないのはダブルスタンダードだという声は少なくない。
  実は、今回殿堂入りを果たしたオティーズも、MLBによる非公式な薬物検査で陽性反応を示したとされている。まだ薬物禁止規定が施行される前のこととあって、大きな問題にはなっていないが、「グレー」であることは間違いない。

 実績ではボンズやクレメンスの方が遥かに上、(濃淡こそあれ)薬物疑惑がある点も同じ。にもかかわらず、なぜ両者の扱いにこれほど大きな差が生まれたのだろうか。実は、薬物問題は最大の争点ではなかったのではないか。

 ボンズ、クレメンスとオティーズの最も大きな差は、記者に愛される人格者だったか否かだ。オティーズは誰もが尊敬するリーダーであり、ボストンのハート&ソウルだった。13年にボストンマラソン爆弾テロ事件が起こった際には、見事なスピーチでボストン市民を勇気づけた。11年に社会福祉活動に大きく貢献した選手を称えるロベルト・クレメンテ賞も受賞している(実はシリングも受賞経験者なのだが)。

 一方、ボンズとクレメンスはお世辞にも人格者とは呼べなかった。ボンズはとにかく「傲岸不遜」を絵に描いたような人物で、チームメイトや首脳陣ともたびたび衝突。記者とも折り合いが悪かった。高慢さで言えばクレメンスも似たようなもので、レッドソックス時代はマスコミから「非常に傲慢で耐え難い人格の持ち主」と批判されたこともあった。
  この10年、ボンズとクレメンスの殿堂入りに「ノー」を突きつけてきた記者たちは、果たして薬物疑惑だけを問題にしていたのだろうか。むしろ、彼らが最も拒否感を示したのは2人の人格に対してではなかったか。オティーズとの投票結果の違いは、そのことを浮き彫りにしているように見える。

 米紙『NY Times』のタイラー・ケプナー記者は、『SLUGGER』21年3月号に寄せた記事で、「投票者は候補者の『人格、品位、スポーツマンシップ』を考慮するよう求められるが、それらが具体的に何を意味するかは一切示されていない」と指摘している。是非は別として、ボンズとクレメンスの殿堂入り(ある意味ではシリングも)を阻んだ最大の要因は、「人格」という曖昧な基準だったのかもしれない。

構成●SLUGGER編集部
 

関連記事