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日本vs豪州、最終分析。“史上最高の状態“の日本は、W杯出場へ勝負に出る?慎重に戦う?

いよいよ、その時を迎える──。

勝てば自力でW杯出場。アジア最終予選でグループ2位につける日本代表は3月24日、オーストラリア代表との大一番に臨む。10月の対戦では、森保一監督が初めて4-3-3を導入し、2-1で勝利を収めた。それから4試合を重ねるなかで成熟度は増している。

期待値は高い。だが、相手は“因縁の相手”でもある。2006年に始まったライバル関係。これまでの戦いを踏まえても、簡単に決まる試合でないことは明らかだろう。

いったい、どんな結末を迎えるのか。

オーストラリアが遂行してきた4-2-3-1と、日本が路線変更した4-3-3。両者のシステムを紐解くなかで、この試合の見どころが明らかになる。

「3.24決戦」を前に、ぜひ読んでもらいたい濃密分析展望。これまで、日本代表の戦いを、ロジカルかつ的確に読み解いてきた分析家・五百蔵氏が、運命の戦いを語る。

※インタビューは2月20日に実施しました

■目次
日本の機能性への対抗策は2014年にハリルが提示済み
強みと弱みが表裏一体のオーストラリアの4-2-3-1
日本代表は“意に反して”史上最高の状態にある?
今の日本は「久保のチーム」にはなり得ない
3.24決戦は両者にとって答え合わせとなる試合

インタビュー:北健一郎
構成:本田好伸
写真:高橋学、日本サッカー協会

※記事内の表記
WG=ウイング
CB=センターバック
SB=サイドバック
SH=サイドハーフ
CH=センターハーフ
CF=センターフォワード

日本の機能性への対抗策は2014年にハリルが提示済み

──前回のインタビューの最後に、インサイドハーフの練度が上がっているため、4バックだと相当守りづらくなり「日本が先制した場合、かなり敵陣で支配しながら進められる」とおっしゃっていました。先制できるかどうかが、試合を占う一つのポイントになる、と。

五百蔵容(以下、五百蔵) そうですね。ですから、ゴールに辿り着く方法はなんでもいい。縦1本のロングボールでも。なるべく相手陣地に行って、奪われたらそこで奪い返し、1点を取れば勝てる、と。その意味では、中国戦もあれはあれでOKという感じだったのではないでしょうか。ただし、オーストラリアは、日本がなにをしているかを理解していると思いますし、一応、日本のやり方へのソリューションは、世界のサッカーシーンではすでに出ています。そう考えると、オーストラリアがなにかしらの手段を講じるかも見ものです。

──日本のやり方の対抗策はすでにその答えが示されているんですか?

五百蔵 そうですね。日本がやっている、インサイドハーフが機能的に上がっていくやり方には見覚えがあります。2014年のブラジルワールドカップのドイツがそれでした。

インサイドに入ってくるWGと、インサイドハーフ役の選手がうまく動いて、相手の4バックをエリア近くのハーフスペースに移動させ、その外側か内側に1人フリーマンを作って決めにいくという形です。相当な水準の4バックでないと対応できないと思います。

あの大会では、そこに効果的に対応できていたのは、実はハリルホジッチだけでした。

──なるほど。ハリル監督が率いたアルジェリア代表ですね。

五百蔵 はい。決勝トーナメント1回戦でドイツに対抗したアルジェリアは、ハーフスペースを使って4バックが対応できない内側か外側にフリーマンを作る相手の狙いを見抜いて、フリーマンを特定し、どこで囲むか、誰がつぶすか、かなり整理していました。するとドイツはサイドから崩せなくなり、アルジェリア陣でボールを奪われてからロングボールのカウンターをガンガン受けました。

ドイツのやり方に対しては本来、CBをスライドさせて、仕掛けてくる選手を阻止しないといけないのですが、4バック(2バック)では単にCBをサイドへスライドさせてしまうと外側がSBだけになり、そこを最終的に狙われます。それを嫌ってCBをゴール前に残すと今度はCB~CB間、ボールサイドのCB~SB間が空いてしまう。ドイツはボールサイドの数的有利で崩してもいいし、そこに相手を引き寄せてからの大外の選択肢を持っている、と。

日本も今、あの時ドイツがやっていた形を狙っています。伊東とインサイドハーフでハーフスペース中心に攻めるサイド、そこからの大外。南野はまさにそこを使える選手です。

──ちなみにハリルは、その外の選択肢もつぶした?

五百蔵 そうです。そこまで特定して、SBだけにならないようにしました。ドイツは数的有利を作れなくなり、薄くなっているはずのところにクロスを上げても、枚数が足りている。ドイツはそれで詰んだ。ハリルがソリューションを提示したわけです。

相手の数のズラしに合わせるため、SHをSBまで下げて6バックにしました。当時のドイツのやり方だとそこを崩すために人数をかけてくるので、ドイツ陣に広大なスペースができます。アルジェリアも押し込まれて後ろに重くなっているのですが、ボールをどこで、どんなシチュエーションで奪うかが整理されていたのと、トップの選手が優秀だったので、ドイツ陣のスペースを効果的に活用してカウンターし、やっつけかけました(最終的には1-2で敗戦)。

ということで、オーストラリアが“あれだな”と気づくかどうか。そして、できるかどうかはわからないですけど、3バックにしてきたらおもしろい展開となりそうです。

──オーストラリアは4バックですか?

五百蔵 おそらく、今は4バックですね。

──2017年まで率いたアンジェ・ポステコグルー監督のときは3バックでしたよね。

五百蔵 両方できましたね。おそらく今は4-2-3-1です。ポステコグルーのときと今との違いは、良し悪しが表裏一体だということ。立ち位置の変化でいろんなスタイルに対応できる能力はポステコグルー時代より上がっていると思います。その代わり、0-0に終わった11月のサウジアラビア戦がそうでしたけど、4-2-3-1のベースから立ち位置の変化で対応してもうまくいかないときに、ポステコグルーのように骨組みから変えられません

柔軟性はあるのに、ダメだったときのプランBがない。おそらく、2-2で引き分けた2月のオマーン戦はそのあたりでやられたのかもしれません。彼らが3バックを使ってきたならば、日本のやり方に対して数合わせで負けないようにしつつ、中盤も厚くして、日本を追い詰められるでしょう。ただし、今のオーストラリアはそれはやってこないだろうとも思います。やってくるとしたら、チームによほどのことがあった場合かなと。

強みと弱みが表裏一体のオーストラリアの4-2-3-1

──オーストラリアは、4-3-3や4-2-3-1など、4バックを軸に前線の並びで変化をつけています。「3バックはしないだろう」ということですが、どう戦ってきそうですか?

五百蔵 オーストラリアは自分たちのサッカーを貫こうとしてくると思います。日本もおそらく4-3-3を変えないでしょうし、万全の状態ならスタメンも変更しないと思います。やれることもそれほど変わらない。サウジアラビア戦と中国戦で見せた「機能性」の話をしてきましたが、単純にそこだけで言うなら、今の組み合わせでマックスみたいになっています。あとはその練度向上とスピードアップしかないですから、戦術面では、日本も変えられない状態でしょう。

オーストラリアにしても、本当は3バック+カウンター設計で対策してくるのがいいですし、ハリルのように、日本を自由にさせないやり方がいいはずですが、6バックのようなオプションはないだろうな、と。前回の対戦を踏まえても、オーストラリアは4バックを軸に、プレーモデルがあるなかで立ち位置を調整したり、人の入れ替えで同じフォーメーションでも機能性を変化させてきたりするのではないかと思います。

──では、前回と同じように、日本の4-3-3とオーストラリアの4-2-3-1に。

五百蔵 オーストラリアは、形は4-2-3-1でも、左サイドに入ったモーイはCHの選手なので、いろんなタスクを負うことで、日本にとって、誰をつかまえるべきかわからない状況にしました。一方で日本も4-3-3にしたことで、オーストラリアも驚きがあったはずです。

──想定外の展開にピッチ内で統一を図れないまま、互いに混乱していた。

五百蔵 だと思います。ただ、4バックで日本に対抗すると考えたときに、オーストラリアの中盤が柔軟に立ち位置やタスクを変えられる4-2-3-1はもしかしたらいいソリューションになるかもしれません。日本のインサイドハーフをつかまえやすくしておく、と。実は中国も、後半からそういう形を見せていました。

中国はもともとは、SHの選手が中央まで絞って4バックの守備をしていましたが、後半は日本の4-3-3が機能してインサイドハーフ中心にやられていたので、3CHにしてきました。さらにWG役の選手が常時高い位置にいることで、日本の酒井宏樹を上がれなくなるようにして、ハーフスペース中心の仕掛けをさせないようにしていました。結果的に、力量の違いで日本が上回りましたが、方法としてはよかったと思います。日本のインサイドハーフの機能を下げながら自分たちのやり方もできますから、オーストラリアは似たことをやってくるかもしれませんね。

でも、彼らの強みでもあり弱みでもあるのが、そもそも4-2-3-1という形です。4-2-3-1であって、4-2-3-1ではない、というか。トップ下の選手がトップ下ではなく、トップ下とCHのタスクを担う3CHの形です。それが状況に応じて正三角形や横並び、逆三角形になったりするのですが、今の日本にとっては、インサイドハーフはオートマティックに機能するゲームモデルになってきているため、4-3-3と4-2-3-1の噛み合わせは日本に分があるように感じます。

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