森保監督は、「コンディション問題」を選手に解決させている?
■目次
・オーストラリアを事前分析した日本の人選とタスクセット
・日本のゲームプランを狂わせたオーストラリアのムーイ
・日本:ゲームプラン空転=豪州:許容範囲のリスクが深刻化
・「結果」が出たものの「判断のまずさ」も相当数あった
文=五百蔵容
写真=高橋学
※記事内の表記
CH=センターハーフ
DH=ディフェンシブハーフ
OMF=オフェンシブミッドフィルダー
WG=ウイング
CB=センターバック
SB=サイドバック
SH=サイドハーフ
2022年カタールワールドカップ・アジア最終予選第3節、日本は敵地でサウジアラビア代表に敗れました。内容的にはかなり入念な準備の存在を感じさせるものであった一方、肝心の委任戦術──「ピッチで判断し、対応していく」──については難しさが露見し、まさに「対応できなかった」ところで決勝点を奪われたことは残念であり、このチームの現在地を示すものでもあったと思います。
具体的な様相は前回記事で詳述しましたが、この敗戦を受けて第4節のオーストラリア戦は文字通り「負けられない戦い」となり、これまでフォーメーションレベルでは目立った変更してこなかった森保監督に大きな決断をうながしたようです。
オーストラリアもまた、いつもとは異なる、対日本戦用の特別な仕立てをもってこの大一番に臨んできました。その結果、日豪お互いの狙い、思惑がすっきりとは噛み合わないなか、その状況を打開するための様々な試行錯誤が両チーム間で繰り広げられるという、ある意味サッカーらしい、ビッグマッチらしい面白いゲームとなりました。
本稿では、そのオーストラリア戦を通じ「委任戦術」がどのように機能し、またおよばなかったかという点に注目し、日本代表の現状について考えてみたいと思います。
オーストラリアを事前分析した日本の人選とタスクセット
この試合、日本は田中碧、守田英正をインサイドハーフに起用、アンカーを遠藤航とした3CHを中盤に展開する4-3-3のフォーメーションを選択しました。4-2-3-1を基本とするオーストラリアの2DH+1OMFの中盤に対し、ちょうどピタリとマーキングが合わせられる布陣です。また、試合が始まると判明したとおり、南野拓実と伊東純也の両WGは、守備時には中央に絞ってハーフスペースを閉じる、もしくは相手のCBとSBの間のコースに位置し、CBとSBどちらにもプレッシャーをかけられるうように備えていました。
特に前半、日本は中央に絞った4-3-3のままミドルゾーンで守備ブロックを形成しながら押し上げていく形を多く見せており、オーストラリア代表の基本フォーメーションやビルドアップに対してプレッシングを仕掛け、寸断可能なプランを立てて試合に入ってきたことが感じられました。
オーストラリアを分析すると、ボール保持時にDHが両サイドに開くシーンが目立ちます。自らも相手のプレッシングをかわしつつ、空いた中央のスペースを自チームの別のポジションの選手が使い、相手のプレッシングの深度を惑わす(ラインを降りていくオーストラリアの選手にどこまでついていくべきか考えさせるなど)ことで、ボール前進をスムーズにするメカニズムにこの行動は結びついています。
オーストラリアはポジショナルプレー基盤のバリエーションをいくつも保有しているチームですが、このDHのポジショニング移動によるビルドアップルートの創出はその中でも重要なものの一つと思われました。日本はインサイドハーフのいるフォーメーションを採用することと、守備時のWGのポジショニング・タスク設定によっておそらくその形にも対応する計画だったと思われます。
相手の2DHにこちらの2インサイドハーフをマンツーマン気味に当てながら、WGのポジショニングでCBから外側に逃げるパスコース、ハーフスペースを通すパスコースを奪いビルドアップを詰まらせる。そのような場合オーストラリアはロングボールを相手のDFラインとDHラインの間に落とし、セカンドボールに対しカウンタープレスをかけることで敵陣でボールを確保するパターンを持っていますが、4-3-3であればアンカーの遠藤航が残っているので、バックラインの吉田麻也・冨安健洋との連携で自由を与えない。
オーストラリアDHがサイドに開いても、WGのポジショニングが彼らへのパスコースを阻害、あるいは彼らに直接プレスバックをかけられるようにあらかじめ設定されている上、インサイドハーフが中央からハーフスペースを固めているので、レーン間・ライン間を移動するオーストラリアのポジショニング変換、ビルドアップルート変更に柔軟に対応できる……サウジアラビア戦と同じく、しっかりとした事前分析と準備を反映した人選とタスクセットに加え、委任戦術により鍛えてきた、ピッチにいる選手たちの判断力、対応力で勝ちきれる。そういった思惑だったのでしょう。
ただし、オーストラリアがやり方を変えてきたこともあり、日本のゲームプランは試合開始直後から半ば解体され、修正を迫られます。
日本のゲームプランを狂わせたオーストラリアのムーイ
オーストラリアは、オリジナルポジションが4-2-3-1を形成するフォーメーションを取りつつ、そこから状況に応じて様々な陣形に変化してきます。日本戦では、左SHに1stチョイスのウインガー・アタッカー、メイベルではなくベテランのボールプレーヤー、13番・ムーイ(下の写真左)を起用することで、これまでの彼らの試合であまり見られなかったバリエーションを打ち出してきました。
ムーイはオーストラリアの遠藤保仁、中村俊輔といったクラシックなタイプのゲームメーカーで、状況に応じてピッチのあちこちに移動しながらビルドアップのリンクマンや逃げ場所を作ってボール保持をスムーズにしつつ、相手の守備の基準点を惑わせるのが巧みな選手です。相手の陣形、ポジショニングを見て逆手に取ることもうまく、いわゆる「サッカーを知っている」選手と言えます。
ムーイが起用されるときは4-2-3-1のDHの一角やトップ下が多いのですが、この試合では左SHでのスタート。通常、SHは比較的ポジショニング移動や稼動エリアが戦術的に限定されるポジションなのですが、ムーイは完全なフリーマン、サイドからスタートするもう1枚のCHとして起用されているようでした。
自チームの状況、日本の状況をうかがいながら中央に移動するだけではなく、DHのエリアに落ちたり逆サイドにまで進出したり、およそ中盤の選手が担いうる様々な動きを見せ、ミドルゾーンのほぼ全域に顔を出していました。
このムーイの存在と幅広いタスクが、日本のゲームプランを狂わせることになります。彼の動きは多彩かつ神出鬼没ですが、その役割は煎じ詰めればオーストラリアの3人の中盤に+1として加わり、日本の3枚の中盤に対して4枚を当て、恒常的に数的優位を得るというものでした。
つまり、この試合のオーストラリアは、ボール保持時に従前の4-2-3-1ではなく、4-2-2-2もしくは4-3-1-2と表現しうるやり方で入ってきたことになります。日本の4-3-3は、そのタスク構成を見てもオーストラリアが正三角形(トップ下+2DH)・逆三角形(2CH+1DH)どのように変化するにしろ中盤を3枚で構成することを前提とした選択だったので、試合開始の時点で「マークできない+1をどうつかまえるか」「+1が存在することで生じる諸問題にどう対応するか」という難問に早くもさらされることになりました。
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