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“デンマーク史上最高の選手”ルンドベリ。ロシアチームとの契約を自ら買い取り、サンズと契約した男のキャリア<DUNKSHOOT>

ルンドベリはデンマーク出身の27歳のガード。CSKAモスクワとの契約を自ら買い取り、3月12日にサンズと2WAY契約を結んだ。(C)Getty Images
人生は、何が起こるかわからない。

先日、ロシアによるウクライナへの軍事侵略の影響を受けて、ロシアの球団から外国籍の選手が続々離脱している旨をお伝えしたが、その中の1人、家族と母国デンマークへと退避していたCSKAモスクワのガード、ガブリエル・ルンドベリが、フェニックス・サンズと今シーズン残り期間の2WAY契約を結んだことが発表された。

報道によれば、ルンドベリは昨年夏に結んだCSKAとの2年契約を、自ら買い取った模様だ。

「出場時間については何も約束されていない。でもそれはあちらでは当たり前のことだ。でももちろん、チャンスを与えられて、自分の価値を証明する機会があることを期待している。彼らに、僕と契約したことは間違っていなかったと納得させたい」

ルンドベリはデンマークのラジオ番組でそう抱負を語っている。

ミドルネームの Ifeanyi からとった“Iffe (イッフェ)”の愛称で呼ばれているルンドベリは、コペンハーゲン生まれの27歳だ。

地元の小クラブを経て、デンマークのトップリーグでプロデビューした彼は、瞬く間に「国内最高のヤングタレント」の称号を得ると、リーグ優勝を達成したのを節目に、22歳でスペインリーグに羽ばたいた。

入団したマンレサは当時2部リーグに降格していたが、彼の活躍もあって、1年でトップリーグACBに復帰。
同クラブでのパフォーマンスを評価され、同じACBリーグのテネリフェにステップアップして1年間プレーしたのち、ユーロリーグ出場経験もあるポーランドのゴラに移籍した。

そのシーズン、ゴラは、ロシアを中心に旧ソ連邦や東欧諸国の球団で構成されているリーグに参戦していた。そこで平均20.4点、3.8リバウンド、5.4アシストと、主力としてチームを牽引していた彼に目をつけた強豪CSKAモスクワが、シーズン半ばに引き抜いた。

CSKAの一員となったルンドベリは、順応する時間も十分にないままユーロリーグに初参戦することになったが、デビュー戦となったオリンピアコス戦では、3ポイント3本を含む13得点に4リバウンド、3アシスト、2スティールという立派な数字を残している。

欧州でプレーする選手にとって、CSKAは頂点の一角に存在する憧れの球団だ。ましてやバスケが盛んとは言えないデンマークの小クラブでキャリアをスタートしたルンドベリにとっては雲の上の存在であり、自分に興味を示しているという話を代理人から聞いたときは半信半疑だったと振り返っている。

「前にもこのような話はあったけれど、結局最後は実現しないことが何度もあった。代理人から、すでに口頭で合意に至っていると聞いてもまだ、『様子を見よう』という感じだったよ。だから最終的にサインをしたときは衝撃的だった。『自分はCSKAの選手になったんだ!』ってね」
それが今度は、リーグ一番乗りでプレーオフ進出を決めた、NBAチャンピオン候補のサンズと契約に至ったのだから、この展開に、本人が一番驚いているかもしれない。

もっともデンマーク時代のコーチは、ルンドベリがCSKAに入団した際、彼の成長についてこう描写している。

「彼は常に、所属するリーグで求められるレベルに応えてきた。5年前、彼がユーロリーグのスターになるとは、彼以外は誰も思っていなかった。しかし彼は常に明確なビジョンを持ち、毎年自分のレベルを上げることで、そこに向かって進んできた。だから、彼のキャリアの天井がどこにあるのかは誰にもわからない。NBAから声がかかれば、彼はその挑戦にもきっと応えてみせるだろう」

ナイジェリア人とデンマーク人の両親のもとに生まれたルンドベリは、これまでプレーした欧州のクラブでは、高いフィジカル能力と、シューティング力を評価されてきた。

兄の影響でバスケットボールを始めた彼が、目標としてきたのはレブロン・ジェームズだという。

「なぜなら彼はすべてをやってのけるから。自分が彼と似たプレーヤーだなんておこがましいことを言ってるわけじゃなく、彼みたいなオールラウンダーを自分も目指しているんだ」
身長は193cmもウィングスパンは206cm。1stポジションはポイントガードだが、シューティングガードとスモールフォワードもこなすバーサタイルなタイプというのは、ポジションレス化が進む現代のバスケに適している。そして彼自身、NBAではそうしたプレーヤーが求められると心に刻んで、意識的に努力を続けてきた。

彼は「自分のピークは30、31歳ごろだと思う」と、自分の成長具合を算出しているが、27歳の今、ルーキーとしてNBAに挑戦するのは、ちょうどいいタイミングかもしれない。クリス・ポール、デビン・ブッカー、ミカル・ブリッジズら、サンズには彼にとって刺激となる素晴らしい先輩プレーヤーも揃っている。

ルンドベリは「自身の夢は?」と聞かれるたびに、「デンマークで最初のNBA選手になりたい」と答えていた。

70年代に、デンマーク生まれでカナダ国籍のラース・ハンセンがシアトル・スーパーソニックス(現オクラホマシティ・サンダー)でプレーしたことはあった。また2004年のドラフトで、ニュージャージー(現ブルックリン)・ネッツから2巡目51位で指名されたクリスチャン・ドレヤルは、翌夏のサマーリーグでプレーしている。

しかしデンマークで生まれ育って同国の国籍を有した選手で契約に至ったのは、ルンドベリが初めてで、彼は現在、同国史上最高の選手と言われている。
デンマーク代表は、2020年のユーロバスケット予選で、バスケ大国リトアニアを-80-76で下すという歴史的な勝利を収めたが、その試合でルンドベリは、28得点、7リバウンド、4アシストと大活躍。同予選のチェコ戦でも3ポイント7本を含む38得点を叩き出し注目の存在となった。

最終戦でリトアニアに1点差で惜敗し、本戦出場はならなかったが、「自分たちに何ができるか証明できたことは誇りに思う。デンマークのバスケットを以前のように軽視する人は、もうそれほど多くはいないはずだ」とルンドベリは胸を張った。
今季残り数試合で彼がNBAにどれだけの爪痕を残せるかはまだわからないが、NBA選手の誕生が、その国のバスケ人気を盛り上げることは間違いない。

バスケットボール情報サイト『EUROHOOPS』とのビデオインタビューで究極の夢を聞かれた時、彼は「レブロン・ジェームズとマッチアップして、彼をかわしてゴールを決めること」、と言ったあと、「いやいや、それは冗談」と笑い飛ばしていた。

サンズは4月5日にレブロン擁するロサンゼルス・レイカーズと対戦する。この日ルンドベリは、憧れの人物と同じコートに立っているかもしれない。

文●小川由紀子

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